事業創出の原理原則15 戦略の立案 – 戦略フレームワーク②
あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
森岡氏の「戦略フレームワーク」は、とても分かりやすいですし使いやすいツールですが、「戦略フレームワーク」を、理解していたからと言って、当たり前ですが、森岡氏と同じ、発想やアイデアが浮かぶわけではありません。森岡氏は、アイデアの発想法もアドバイスしてくれています。
・戦略フレームワークのアイデア発想法 : ①ロジカルに考える。目標の設定では、何を解決するためのアイデアなのか。解決すべき問題を最初に明確にする。目標達成のためには、ゴールの設定が最も重要です。その目標を達成するための障害は何かを考えます。そこから論理的に解決策を導きます。プロジェクトや新規事業に携わってきた経験から、思いや情熱が先行して案外と論理的に考えていないことが多いのは実感があります。多くの課題にたいして散発的に対策を打つのではなく、1点を変えたら多くのことが解決できるポイントを探す。森岡氏はそれを「重心」と表現しています。その「重心」が解決できれば、他の問題も解決できるポイントを論理的に判断します。「遊園地」では来客数でした。②リアプライ(アイデアなどを再活用すること)で探す。「世界中からアイデアを探す」。他の戦略やアイデアの革新部分を抽出しながら戦略的な要素は修正する。まったく新しいアイデアなどは、ほとんど世の中にはない。過去の何らかの知識や経験から人は多くのことを学び、そこから新しいものを生み出します。スティーブン・ジョブズ氏のiPhoneでも、パソコンや携帯電話があってこそ生まれたアイデアです。過去に、ユニクロの柳井社長は、「生産システムはNIKEから学んだ。」と言っていました。ソフトバンクの孫社長は、「アメリカではやったものが、何年か後に日本ではやる。それを参考にしているタイムマシン経営。」と言っていました。森岡氏は、「全く新しいことを1から考えることは効率が悪い。新しいものだと思っても、実は世界ではすで行われていることもある。」と言っています。③ストックを蓄える。日ごろから情報の質的と量的な蓄積を心がける。得意分野を作る。ストックが多いほど解決策が思いつく。「情報収集力は大切であるが、全てのことを知ることはできない。先ずは目的に合わせた情報を収集する。必要であればチームで役割担当を分ける。外部のストックも利用する。」「集団知は、個人知に勝る。」とも言っています。④コミットメントし続ける。「考えつくまで考え抜く」必死さと執念が必要。「淡白な人にアイデアの神様は降りてこない」。森岡氏は「志とノウハウ」が必要と言っていますが、何よりも「志」があってこそ、つらい時や困難にも立ち向かえると思います。森岡氏の株式会社の経営理念は、「マーケティングとエンターテイメントで日本を元気にしたい」です。どこかの会社の経営理念のように、キャッチコピー的に格好よくいっているのではなく、森岡氏のYouTubeを見ると、心から思っていることだと感じます。キャリアの中で多くの困難にも遭遇してきたのでしょうが、「どんなに高い壁でも、階段を作れば登れる。」と言っています。
・戦略フレームワークの視点 : ①課題と解決策は現場にしかない。これはトヨタ自動車が言っている「3現主義」とも一致しています。三現主義とは、「現場、現物、現実」の3つの“現”を重視し、机上ではなく、実際に現場で現物を観察して、現実を認識した上で、問題の解決を図らなければならないという考え方のことです。森岡氏の活動を見るとその考え方が、尋常ではないほど徹底しています。例えば、人が自然の中で求めるもの(本能)を理解するために、狩猟免許を取りマタギに弟子入りしています。ちょっとやばい人です。ここまでできる人はまずいません。②物を作る発想からサービスを作る発想。これは「感情マーケティング」の、商品やサービスの機能や性能を訴えるのではなく、その商品やサービスの機能や性能を得たことで、顧客の内に生まれる感情に訴えるという考え方と共通しています。USJで森岡氏が仕掛けた「クリスマスイベント」では、従来のCMでは、「こんなイベントがあります。こんなことをやっています。」のような紹介CMから、小さな子供と父親の「いつか君が大きくなってクリスマスの魔法が解けてしまうまでに、あと何回こんなクリスマスが過ごせるかな・・」というCMに変えています。このコピーで、親の切ない気持ちを生み出して、結果、内容は前年と全く変わらないのに、集客効果は前年に対して倍増しました。これが感情に訴えかける「感情マーケティング」の効果です。余談ですが、私の記憶に一番残っているCMは、JR東海の牧瀬里穂さんが出ていた「クリスマスイブ」のCMです。山下達郎さんの印象的な歌とともに、牧瀬さんの可愛らしさに「キュン」といた思いが今での心の奥に残っています。③消費者の頭の中にないものは存在しない。どのように認知させるかを考える。従来のCMの見せ方を変る。CMに有名な芸能人を起用する。近年は、インスタグラムの映えを意識したイベントやSMSやTweeterによる、個人の「口コミ」効果も積極的に利用しています。④文脈を変える。これは、「見せ方」を変えるという意味です。認知心理学では文脈効果と言われています。文脈効果とは、周囲の情報・状況によって対象の認識が変わることがある現象を指します。もの自体は変わらないが、感じかたで違うものに感じるということです。森岡氏は、例として、弱みの見せ方(眼鏡)を変える。山しかない不便なところにある赤字のリゾート施設を、山(自然)がある。という文脈に変えてアドベンチャー施設に変えて成功しています。物が変えられないときには意味 (フレーム)を変える。古い遊園地を昭和のレトロな遊園地。という文脈に変えて、懐かしさや郷愁を感じられる施設にして、コロナ前の13倍の来場者数を実現しています。ちょっと意味が違うかもしれませんが、チャップリン氏は「人生は近くで見ると悲劇だが、 遠くから見れば喜劇である。」と言っています。同じものでも、見方を変えると違う意味付けになるという例だと思っています。
・森岡氏から個人へのアドバイス : 森岡氏はいろいろなメディアで個人の悩みにも答えています。私の主観も入っていますが3点にまとめてみました。①自分の特徴を理解する。森岡氏は「個人のコンピテンシー(基礎能力・competency)」を、主に「考える力(Thing)」、「伝える力(Communication)」、「指導する力(Leadership)」に分類しています。その内どれが最も「強み」であるかを理解する。理解する方法として、「動詞で考える」。例えば、「~~の計画を立てるのが好き」「人と交流するのが好き」「みんなの意見をまとめるのが得意」など書き出して、もっとも多くの「強み」が上がった項目が一番の強みの可能性が高い。就職で迷っているなら、会社の選択は、自分の特性「強み」を理解したうえで、会社ではなく、職種で選択するのが良いと思う。②特徴を磨く。森岡氏は「弱みが強みになった人を見たことがない。」と言っています。船井総研の創業者の故舩井幸雄氏は、コンサル手法として「長所伸展法」と言っています。「長所伸展法」とは、SWOT分析における「弱み克服」ではなく「強みの拡大」にフォーカスし、既に保有している良いものをより伸ばしていく手法です。森岡氏は、「ナスビはナスビにしかなれない。ナスビがニンジンや玉ねぎになろうとするのは無駄な努力。ナスビは、立派なナスビになろうとすべき」と言っています。マーケティング的にも、「弱点」の改善にリソースを投入するより、「長所」を伸ばすためにリソースを投入した方がマネタイズ(収益化)の面でも効果的です。③環境を選択する。世の中には、自分の力で変えることができるもの「変数」と自分の力では変えることできないもの「定数」がある。「定数」を変えようとすることは、無駄な努力になる。「変数」できる環境を選んで努力する。アメリカの神学者、ラインホールド・ニーバーの祈りの言葉に「神よ、私たちにお与えください。変えられないことを受け入れる冷静さを。変えるべきことを変えていく勇気を。そしてこの二つを見分ける知恵を」があります。マザー・テレサも、この言葉をお祈りに使っていたと記憶しています。お祈りに使うぐらいですから、簡単なことのようで、難しい事なのでしょう。
森岡氏は、ビジネスは競争であり、戦いだととらえています。戦いに勝つためには、①自分の強みで戦う。②自分の強みを知る。ことだと書いています。
・ユーザーエクスペリエンス : マーケティングに「ユーザーエクスペリエンス(UX: User eXperience)」とは、製品やサービスなどを利用して得られる「ユーザー体験」のことです。「ユーザーエクスペリエンス市場」の1分野として、「非日常マーケット」と言われるものがあります。顧客に日頃の日常的な生活から、まったく違う体験や感覚を感じてもらうための市場です。「遊園地」はその1つです。TDLは「ディズニーの世界」ですし、USJは「エンターテインメントの世界」です。そして西武園ゆうえんちは、「昭和の世界」です。ピューロランドは「キティちゃんの世界」です。他にも多くのビジネスが「非日常」を提供しています。映画やコンサートや演劇などのエンターテインメント事業などもその代表です。「ゾンビに追いかけられる経験」をした人は、たぶんいないでしょう。日常性格から離れるために「ソロキャンプ」に行く人もいます。脳科学では「非日常体験」は脳を活性化させると言われています。多くのビジネスの売り上げは、リピート顧客で成り立っていますから、エンターテインメント事業は飽きられないよう常に新鮮な「非日常体験」を提供し続けなければならない宿命があります。
人は、精神のバランスをとって生活するために、人は何らかの「非日常空間と時間」が必要です。それは人によって様々です。必ず毎月2本映画を見ると決めている知り合いもいます。毎年「伊勢神宮」にお参りする人も知っています。私の「非日常空間」は、「高野山の宿坊」に毎年1回宿泊することです。6年連続しています。高野山に泊まることで、「心と体がクリーニング」されて、リフレッシュします。私の近郊の「非日常空間」は、お茶の水にある「ニコライ堂」です。聖堂内に30分ぐらい座っているとスッキリします。コロナで暫く拝観中止になっていましたが、今は土日だけ可能になりました。ちなみに拝観料はたったの300円です。イブの12月24日に訪れました。「心と体がデトックス」されました。自分だけの「非日常空間」を持つことは、「生きていくためのシェルター」になります。自社の事業が「非日常空間」の提供が「顧客提供価値」だと定義した場合は、別の視点でビジネスを見直すことができるかもしれません。