Gallopエッセー大賞受賞【後編】
前編が長くなりすぎたので後編はできるだけさくっとまとめます。できるだけ。できるだけね。うん。できたらいいな。
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その後、私は目を覚ましてから情緒不安定の極みに陥った。出さなかった2つの原稿を読み直し、やっぱりこちらの方がよかったんじゃないかと悶々としたり、出した原稿のメモを読み直しては、重複してる言葉や、チープな言い回しに気づく度に布団の上で枕に顔を埋め、声にならないなにかを枕の中に吐いて過ごした。そんな日々が3日も過ぎると、あんな駄文で賞なんか獲れるわけないとネガティブに振り切った心境にいたった。そして、さらにしばらくすると頭の中からエッセーを出したという事実は消え去り、穏やかすぎる自粛という鳥籠の中のような日常が戻ってきた。
時は流れ、コロナも一旦の終息ムードがただよい始めたころ「はて?そういえばなんか書いて送ったな」と、唐突に思い出した。それはもう唐突に。そして「大賞は決まったのかな?」そんな他人事のような気持ちで、積み上げたGallopのバックナンバーから今週のGallopを手に取り、誌面に目を通すが、エッセー大賞のことについては何も書かれていなかった。審査って時間かかるもんなんだなー。そんなことを考えつつ、先週のGallopの上に今週のそれを戻そうとした。そのとき、その端に「エッセー大賞1次選考通過作品発表」の文字をみつけた。え?先週!?驚いた。応募したことを忘れていて、完全に読み飛ばしていたのだ。なんてことだ。
忘れていたとはいえ、欲はでるもので、もしやの気持ちで目次に目を走らせ、該当ページを探す。「あぁ。これ、お笑いの賞レースの結果発表をネットでみるときの感じや」そんなことを思った。同時にこれは「ウケ的には手応えがないけど、審査員にハマってくれてればもしかしたら合格してるんちゃうか…」のときのやつや。とも思った。そして、そういうときは99%落ちているのが賞レースの常である。芸人以外にはピンとこないことだろう。激しく共感していただけるあなた、今年も賞レース頑張りましょう。話は逸れたが、これはお笑いの話ではない。エッセー大賞なのだ。開いたページに記された11人の通過者の中に自分の名前があった。嬉しかった。嬉しかったのだが、問題が1つ。自分が何を書いたのか忘れていた。とりあえず、昨年M-1とR-1で1回戦通過を逃すという大チョンボをしていただけに久々の「通過」の文字が愛しくてしかたなかった。
と、これが私が一時選考通過の発表が誌面での掲載から一週間以上送れた理由である。
その後、私がどうなったか。情緒不安定になった。1ヶ月ぶり2度目の情緒不安定だ。それも前回の非ではなく、である。考えてみればそうであろう。最終選考ということはより厳しく作品を見られるであろうし、選考委員のプロの作家さんも本格的に他の作品と比べるだろう。となると、前回も述べた重複した言葉やチープな表現等が悔やまれて仕方ないのだ。こんなことなら何書いたか必死になって思い出さなきゃよかったとさえ考えた。「あれさえちゃんとしとけば、大賞だったのに!」そんな感じで辛酸をなめている未来予想図ばかりが頭に浮かんで私を苦しめる。そして、そんな日々が3日も過ぎると、あんな駄文で賞なんか獲れるわけないとネガティブに振り切った心境にいたった。そして、さらにしばらくすると頭の中からエッセーを出したという事実は消え去り、穏やかすぎる自粛という鳥籠の中のような日常が戻ってきた。
そう。これがデジャブである。
しかし、平穏な日々は長くは続かなかった。得意の忘却術でエッセーのことを考えずにいた私の心を揺さぶる者が現れた。それは私を苦しめる存在の権化。そう。週刊Gallop編集部である。
何が起こったか説明しよう。週刊Gallop編集部は私が1週間遅れでツイートした「最終選考に残った」という旨のそれを、数日してからGallopの公式アカウントでリツイートしたのだ。私のツイッター上に表示される「週刊Gallopがリツイートしました」の文字。これは何を意味しているんだ?私は考える。もう大賞は決まっているのか?その上で私のツイートをリツイートしているのか?だとしたら…私は受賞している!?いや、受賞した人間のツイートをこれみよがしにリツイートなんかするだろうか?…まさか…これは…ブラフ!?だとしたら私は落選なのか?いろんな考えが頭に浮かんでは消えていった。3日ぶり3度目となる最大級の情緒不安定の中、私は様々な検証を行った。そして、ひとつの答えに辿り着いた。それは
「週刊Gallopのアカウントは"Gallop"って言葉でエゴサして該当するものを探しリツイートしているだけ」
ということだ。
…ふざけんな!!揺さぶってくんな!ほんの少しの時間で期待と不安を30往復くらいしたわ!もしかして、受賞してる人間は先にフォローしてるとかあるんかなと思って週刊Gallopのフォロワーまで確認しにいったからね!まぁわかんなかったんだけどさ!
感情的になり申し訳ありません。
Gallop編集部さん。大好きです。
なんでもいいんで仕事ください。
掃除でもなんでもします。
そんな話はさておき。
もうこれは誌面の発表まで待とう。そう決めた。詮索してもわからないんなら、雑念を払い日常に戻ろう。
そして私は日常に戻ることに成功した。
しかしそれはたった2日だけで終わりを告げた。そう事件は再び起こったのだ。それも前回以上の…。
その事件は奇しくも再びツイッター上で起こった。私が何気なくツイッターをチェックしていると、とある人物のアカウントにフォローされていることに気がついた。「なんだ?面識のない人だよな…?」最初はそう思ったが違和感を感じる。なんだ?何かがひっかかる。ん?公式のマークがついている?…なんだこの莫大な数のフォロワーは!?待てよ。この名前は…!これは…。そう。それは。
Gallopエッセー大賞の審査員を務める大先生であった。
血流が早くなる。頭の中ではまとまらない考えがぐるぐると暴れている。
これは…。そういうこと…なのか?
少なくとも私の作品を読んだ上でのフォローということだよな?となると、そういうことか?
待て。焦りは禁物だ。冷静になれ。今までの人生こういうときは大体期待した後で馬鹿をみたじゃないか。
でも、有に10万を越えるフォロワーを持つ大先生が、落選した奴をフォローしてくれるか?
頭の中のポジティブ天使とネガティブ悪魔は口論を始めている。ただし、両者共に顔のニヤけは隠しきれていなかったことであろう。
これは私の文章に何か感じてくれたことの証明ととらえていいのだろうか。
賞のこともそうだが、そう考えると単純に嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
もちろん、嫌いすぎるが故のマーキングの意味をこめたフォローとも考えられるが、そこまで卑屈になることはないだろう。せっせと文章を書き上げただけで嫌われるなんて考えたくもない。素直に好意的に受け取り明日を生きる糧にしよう。そう思えた。
まぁ現実的なことに目をやると、何かしらの受賞はぐっと近くなった気がした。よし。後は寝て待とう。これだけ一喜一憂できたらもう十分だ。そう思った…わけでない。考えることに疲れ果てたのだ。キャパオーバー。キャパオーバー。脳みそから絶対なんか溢れてるよ。考えすぎて死んじゃう。本気でそう思った。だから寝て過ごすことにしたのだ。おそらくこのご時世でなく、日々普通に生きてたら心と体はもたなかっただろう。
そして、3日で50時間くらい寝たあたりで、スマホに着信があった。
きた。過去の受賞者のツイートを遡り、受賞発表前に一報があることは調査済みなんだよワトソン君。
それが多分これだ。直感的そう感じた。落ち着け。深呼吸だ。よし。出るぞ。出るぞ。怖いな。出なきゃ。あー出なきゃ。出なきゃ。ちゃんと声出るかな。3日くらい誰とも喋ってないし。あー怖いなー。 あー怖…
電話は切れた。出れなかった。情けなかった。
しかし留守電のマークが点灯した。
焦りつつもアクセスしてスピーカーに耳を近づける。
『もしもし、こちらGallop編集部です』
らー!!!
興奮の余り、口をついた言葉は『らー!!!』だった。何故、その言葉だったかは多分一生わからないだろう。
続けてスピーカーからは
『エッセー大賞の件でお電話させたいただきました。後程かけ直させていただきます』
と丁寧な言葉が聞こえる。
私は興奮を抑えきれず、折り返しの電話をかけた。しかし出ない。30分おいて折り返す。出ない。さらに30分。出ない。さらに30分。やっぱり出ない。
お忙しいことですこと!!
心の中で叫んだ。
Gallop編集部さん。
重ね重ねごめんなさい。
そうですよね。
そもそも最初にちゃんと出れば良かったですよね。
はい。本当にごめんなさい。
そして最初の電話から2時間が過ぎた頃に、再び着信があった。1コールもしないうちに私は出た。
そして、大賞の受賞を告げられた。
素直に驚いた。どうせ佳作がいいとこだと本当に思っていたから。「大賞ちゃうんかい!」のツッコミをみまう気まんまんだった。なので、「大賞です」と言われて私は「すごいですねー」と意味のわからない、まるで当事者とも思えない返しをした。だって本当にすごいですねー。って思ったんだから仕方ない。そこから丁寧に諸々の説明をしていただき電話を切った。
しばし呆然とし、ふと机の上に目をやるとそこには出さなかった2つのエッセー。それを眺めながら、来年と再来年はこれで大賞とれるかな。
そんな甘い考えを頭に浮かべ、私はひとり幸せな夜をかみしめた。
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以上。
大賞に選んでいただいた作品は来週のGallop誌面に掲載していただけるようです。競馬のこと知らない人でもギリ分かるように気をつけて書きましたので、雑誌を手に取る機会がありましたらどうかよろしくお願いいたします。
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