秘密保持契約書の審査マニュアル⑤(前文②:目的)
BtoBの製造業の上場会社において、法務として働いている筆者が、企業法務10年の経験を踏まえて、自分のために又は企業法務に配属されたばかりの方向けに秘密保持契約書の審査マニュアルを作成する。
今回は、第5弾として、「前文②:目的」について、考えてみる。
1.前文の内容
前文とは、表題(タイトル)と第1条の間に記載されている部分をいいます。
秘密保持契約の前文では、契約当事者が秘密保持に関して秘密保持契約を締結する旨を記載します。
これに加えて、共同研究開発や具体的な取引の可能性を検討するなど、秘密保持契約を締結する目的を記載することもあります。
次の例は、前文に目的を記載したものになります。
ここからは、前文を規定するときに注意すべき、「当事者」と「目的」のうち、前回「当事者」について説明したので、今回は「目的」について説明します。
2.目的
経済産業省のひな型では、前文に両当事者が情報開示を行う目的が記載されている。
もちろん、目的を必ず前文に規定しなければならないわけではなく、本文中に目的に関する条項を置いても良い(例えば、定義条項に「本目的」を定義するなど)。
とはいえ、前文に目的が記載されていれば、両当事者間で何のために情報が開示されるのかが一目瞭然となり、便利なので、前文に目的が記載されることが多い。
3.目的を定める際の注意点
目的外使用禁止の条項において、前文の目的を引用することとなるため、秘密保持契約において重要なポイントとなる。
(1)目的の内容を具体的に記載する
同一当事者間で複数の検討事項や取引が存在する場合には、目的の記載があまりに抽象的であると、秘密保持契約の適用範囲が不明確となる。
例えば、同じA社とB社の間でも、「XX製品についての共同研究の可能性」を検討している場合、秘密保持契約書の前文に記載されている目的が「A社とB社における業務提携の可能性の検討」としか書かれていないと、この秘密保持契約書が、「XX製品の共同研究の可能性の検討」に適用されるのかがわかりにくくなる(「業務提携」に「共同研究」が含まれるとも読めるが、当初はA社とB社の合併を検討した場合などの事情があると、この秘密保持契約書が本件の共同研究の検討にも適用されるかは疑義が残る)。
そこで、目的を記載するにあたっては、ある程度特定できるように具体的な記載にする必要がある。
(2)目的の範囲を適切に設定する
また前述のとおり、秘密保持契約では、秘密情報の目的外使用禁止が定められている(経済産業省のひな型2条1項2号参照)ことが多いため、目的があまりに狭すぎると情報を利用できる範囲が狭くなりすぎて、当事者が意図した目的を達成できない可能性がある。
例えば、目的をA社とB社における「XX製品」の共同開発の検討とした場合、「XX製品」以外の製品(例えば「YY製品」)の共同開発には使用できなくなる。
逆に、目的をあまりに広くしてしまうと、こちらが想定していない目的で相手方に情報を利用されてしなう危険性がある。
そのため、自社が重要な情報を開示する可能性が高い場合には、目的が必要以上に広くなっていなか確認が必要となる。
(3)検討段階の場合における目的の注意点
秘密保持契約を締結する場面が、これから取引を行うかどうかを検討する場面であるときは、秘密保持契約において「(所定の)取引に入る可能性を検討する目的」と定めることが重要となる。
また、仮に検討がうまくいって、その後その取引を行うこととなった場合、その取引について合意した契約において、改めて秘密保持について合意することが多い。
例えば、A社とB社において共同研究の可能性の検討をしている場合には、秘密保持契約を締結し、その後、秘密保持契約に基づいてお互い情報を交換して検討した結果、共同研究をすることとなったときには、共同研究契約を締結するということになる。そして、その共同研究契約の中に、秘密保持に関する条項を定めるという場合が多い。
4.おわりに
以上が秘密保持契約の「前文②:目的」についてです。
次回、「第1条:秘密情報の定義」について更新していきたいと思います。