夢追翔は前進しているか〜『青空を睨む』を睨む〜
にじさんじ所属バーチャルシンガーソングライター・夢追翔さん(通称ゆめお)の新曲『青空を睨む』が公開されました。
最近はにじ3Dを使った歌ってみたも出していましたが、今回は復帰後3曲目のオリジナル曲にして満を持してのフルトラ3Dです。
ただちょっと、期待しすぎていたなというのを実感したので記しておきます。あくまで個人の感想、所謂お気持ち記事なので通例通り「お前の中ではそうなんだろうな」スタンスで眺めて頂ければ幸いです。
ゆめおのこれまでの話
ゆめおがデビューしたSEEDs2期やその後の統合後すぐは、男性の歌勢・音楽勢はほぼいませんでした。剣持さん・チャイカさん・力一さんなどはライブに出ていましたが、少なくとも前者2人は配信では音楽の印象は強くありません。
一方のゆめおはライブこそ出ていないものの、歌枠・音楽系配信・歌ってみた動画など、音楽勢としてのアイデンティティをかなり保っていたように思います。
しかし2019年4月の三枝さんを皮切りに、どんどん歌や音楽に長けた後輩ライバーが入ってきました。前述の先輩達も複数のライブや3D配信を重ねて実力を伸ばしています。その間ゆめおは音楽よりも司会やコラボの盛り上げ役としてのキャラクター性が注目されていたように思います。
そして炎上と謹慎復帰後、更新頻度を大きく下げつつようやく最近は音楽寄りに戻っていますが、正直かなり周囲と差が付いているなと感じています。
現在のにじさんじの音楽シーン
この1年でにじさんじの音楽シーンは大幅に進歩しました。
複数のメジャーデビュー、複数のCD発売、3Dの進歩によるライブ演出の強化、生演奏配信の増加、有名作曲者や有名アーティストとのコラボ。それに伴ってか歌ってみたやオリジナル曲も順調な伸びを見せています。
ライバー本人の努力と運営の支援、そして周囲の協力者(作曲者・演奏者・絵師・動画師等)によりハイクオリティな物がどんどん出され、それが正当に評価されているという実に良い環境です。
ただ弊害があるとすれば、「顧客の目と耳が肥えてしまった」という点があります。
それまでであれば充分及第点だった物が、なまじもっと良い物を知ってしまったばかりに何だか物足りなくなるという現象です。
ソースは自分で申し訳無いのですが、ゆめおの新曲は今のにじさんじの音楽シーンでは実力不足だろうなと感じてしまいました。
あまり比較するのもどうかと思うので直リンクは張りませんが、ゆめお曲公開の次の日に公開されたこじハラの曲を聞くと素人ながらに(或いは素人だからこそ)楽曲も歌唱も差が歴然だなと思ってしまうのです。
個人的残念ポイント具体例
・曲調にツギハギ感がある、インパクトが薄い、どこかで聞いたことがある(今回だとコーラス部分にYOASOBIさんの『群青』を感じた)
・歌詞はストレートで今のゆめおらしさはあるが、キャッチーなフレーズが無い
・打ち込み音源に安さ、薄さを感じる
・高音の発声は一時期よりはできていると思うが、声が出ているだけでそれ以上の魅力になっていない
・MVが単調で意図がわかりにくい(ゆめおの動きが少ない、画面構成が謎)
・3D描画のミスがわかるカットがある
前半はあくまで感覚論ですし、多分これがにじ3Dや一枚絵のMVであったなら「いつものゆめおの曲だな」で流していたと思います。
しかし今回は事前にゆめおにとって大事な曲であると聞き、フルトラ3DMVということで大きく期待していたのですが、その分出来栄えに対し落胆も大きくなってしまいました。
前述の通り、にじさんじの3Dは見る度にクオリティが上がっている為、知らず知らずにハードルを上げてしまっていたなという点はこちらが反省すべき点です。が、そこは個人的に重要視している部分でもあるので掘り下げます。
たかが3Dモデル、されど3Dモデル
前述の指摘の最後の1点、3D描画ミス(冒頭で地面に反射しているゆめおの胴体から膝までの足が消えている)について、これに気付かず、或いは気付いていながらに公開してしまったというのはゆめおの評価を下げざるをえないポイントです。「お前こんなミスを含んだ状態で大事だとかもっと見てとか言ってんの?」という気持ちになります。
3Dの仕様上、このような描画が発生してしまうこと事態は仕方の無いことです。見えない部分のポリゴンを作らないのはよくあることですし、鏡面反射シェーダーと通常シェーダーの差により見え方が異なるのも理解できます。
ですが撮影中か編集中にゆめおかスタッフが気付くべき部分であり、即時の修正が難しいのであれば別アングルの構図を撮影したり編集で差し替えたりして、このような状態は見せないようにしてほしかったなと強く思います。
せっかく最近のにじさんじの3Dはクオリティが高いと評されているのに、こんなところで「大したことないじゃん」「できてないじゃん」と思われてしまう(恐らく3Dの仕組みに詳しくない人程そう思われる)のはとても勿体無いです。
また、Vtuberにとって3Dモデルは「身体・肉体」です。
存在すべき身体のパーツが無いというのは「これは作り物である」という感覚を呼び起こし、ライバーは3D空間上で生きているという目で見ている人に冷や水を浴びせるに等しい行為です。(なお3D配信でたまにカメラがライバーのモデルの内部に入り裏側が見えてしまう瞬間がありますが、これも同様に強烈な作り物感を生むので極力避けてほしいなと思います)
勿論前提として、リスナーも3Dモデルは作り物だと知っています。
が、そこに本人の動き等で「ゆめおが存在している」「ゆめおが生きてる」といわば夢を見せている状態なのに、その夢を醒ますようなカットが入っているのは非常に残念と思う次第です。
ゆめおは前に進んでいるのか
サクラ暴露という恐らくにじさんじ最大の不祥事を起こして以後、若干距離を置きつつゆめおを見てきました。
それ以前から歌についても模索しているのは知っていました。
元々真っ直ぐな声質が好きで、癖のある歌い方が多いにじさんじライバーの中でその癖の無さを磨けばもっと良い物になると思っていました。「歌に感情が無い」ことをゆめおはコンプレックスにしていましたが、感情を込めることと癖があることはイコールではないと思います。
また、聞いてるこちらが苦しくなるような高音よりも、ダウナー寄りの囁くような歌声が合っているし独自性もあったのではと個人的に思っていました。(le jouet生演奏配信2回目の「からくりピエロ」が好きです)
ですが本人の好みと憧れからか癖を加え、高音に挑戦するゆめおの歌を見る度に、まだまだだなぁという感想を持ちました。それもまたゆめおの選択なので止める筋合いは無いのですが、同時にそれをどう評価するかはこちらの自由だと思っています。
最近ではオリジナル曲や歌ってみたの投稿ペースアップや高音に以前よりは余裕が出て来たなど、ゆめおの成長・改善は感じます。
が、その出来栄えは周囲に比べるとどうしても見劣りする為、ゆめおの望む「有名になること」「数字を稼ぐこと」はなかなか困難だろうなとも思います。前に進んではいますが、現状の最先端まではあまりに離れすぎているという印象です。
本当に大事な作品であるなら、多くの高評価を得たいなら、全てを自分で賄おうとするのではなく他の優秀な人材を使い、代替ができない部分(例えば歌)に集中した方がもっと良い物が出来るのではないかとも思います。
全部自分の手で作りたいという気持ちや、勉強して自分でできるようになりたいという気持ちもわからなくはありません。が、どこに時間的・金銭的コストを掛けるかというのは今後充分検討してほしい、その上でなるべく良い物を見たいと思っています。リスナーのワガママではありますが。
最後に繰り返しとなりますが、実力不足な点は目を瞑ったとしても、ミスが残っているという軽率さは炎上の原因やその後の評価下げの原因とも通じる部分があります。
確認は充分に行い、可能ならダブルチェックをして、「これでもいっか」という妥協はなるべく無いようにしてほしいと思います。相応の作品には相応の評価しかされないのが世の常なので。
一度はゆめおを応援していた身として、「これがゆめおの実力だ、皆見てくれ」と胸を張って言えるような作品が今後出て来ることを望むばかりです。