8月6日目〜勇気の証〜

20代の頃、私はドイツを旅した。
20代の頃の私は、ドイツという国にとても関心を持っていた。決定的な何かがあったわけではないけれど、第二外国語としてドイツ語を選択したことがきっかけでドイツの文化に関心を持ち、ドイツを通じて多くの良き出会いに恵まれたこともあって、旅することにしたのだった。

1度目は旅行会社のツアーでロマンティック街道へ、2回目は個人経営の旅行会社?でシュヴァルツヴァルト等、ドイツ南西部へ。少しだけフランスのストラスブールにも行った。どちらも一人で行った。

特に行ってよかったと思うのは2回目だ。
公共施設のパンフレットコーナーの引き出しに、ひっそり保管されていた旅行会社のチラシ。
それが始まり。
見知らぬ会社だったが、こちらから連絡するのにためらいはなかった。

手配してもらった飛行機に乗り、ドイツ国内で乗り継ぎ。現地の日本人のガイドさん、小さな町のかわいらしいホテル、ホームステイ先のドイツ人のご夫婦、披露した人並みの腕前の書道、ドイツの盆栽センター、夜9時になっても明るい夏の夜、手入れされた森、歴史ある修道院、湖のほとりの生ハム屋さん、定刻に響く教会の鐘の音、片言の、単語の継ぎ接ぎのような私のドイツ語、辛抱強く聞いてくれた、旅先で出会った人たち…。

今私はこの思い出を、自分の記憶の引き出しをこじ開け探りだしながら書いている。あんなに刺激的だったのに、書き記したはずの記録がどこかに行ってしまったからだ。
大事なものもそうでないものも、何もしなければ同じように忘れていく。
でも、記憶の端っこさえ見つかれば、経験と記憶をするすると引っ張り出すことができる。
あの旅は、それほど私にとってかけがえのないものなのだ。

これぞと思うものには迷いなく飛び込んでいける勇気と芯の強さが、私の中にはある。年齢を重ねた今でも自分の中にちゃんとある。あの旅での経験が、そう信じさせてくれる。

迷い多き日常において、他人と比べて自分には何もないと思っていたけど、そんなことはない。
ちゃんとあるのだ。勇気のかけらが。あの旅がそれを証明してくれている。

あの旅のことを思い出すことができてよかった。

#忘れられない旅

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