
事実は小説より奇なり
・・・身体いてぇ・・・
なんか、硬いし、ッっっあ゛ーー・・・・・・
アタマ・・割れそう・・・
その感覚にぐっと眉間に力を込めて耐える。
ひゅおぉと隙間を抜ける風の音。
その風が扉だか、窓だかをカタカタと鳴らしていく。
脳はぐわんぐわんと回り、思考が正常に作動しない。
その、はっきりしない意識の中でも気づく
明らかに知らない匂い。
寝転んだまま恐る恐る目を開けると薄暗い中にすっと一筋、光が差し込んでいる。
光を辿って目線を上に向けるが、はっきり見えない。
いつものように、智を人差し指で持ち上げてピントを合わせようとした俺の指は空を掻いた。
「眼鏡っっ!!!!」
思わず飛び起きたせいで激しい頭痛がぶり返す。
自身の生活に欠かせない、よくいうあれだ、身体の一部。
やばい、どうしよう・・・
手を伸ばして自分の周りをぺたぺたと探ってみるが求めるものはない。
なんだよ、ここ・・・どこだよ・・・
床は木の板で、ザリザリと土埃が積もっている感じ。
みえなくて不安はあれど、恐怖は感じない。
光が差し込んでて、隙間から吹き込む風も音のわりに冷たくないし、建物の外からは川のせせらぎと虫の声。気温も心地よいと感じるくらいだ。
怯える要素が何もない。
脳がやっと自分の置かれた状況を整理し始めた。
確か昨日は・・・そう、ひとりでヤケ酒をかっくらった。
俺は企業戦士という名のいわゆる社畜で、なんとかワンチャン定時で上がれるか?!と思った昨日も上司がいきなり週明けに取引先に提出する資料を作り忘れてたテヘペロこれ過去8年分のデータと資料ね!!頼むぞ営業部のエース!!!と押し付けてそのまま出張に出て行った。
23時まで会社のパソコンに向かって恨み節を吐きながらプレゼン資料をまとめて、プリントアウトしてたら途中で詰まってコピー機の警告音がまるで俺の叫びみたいで。わかるよ、俺もツライよってグチャグチャに泣き崩れて、その詰ま理の原因になったしわしわの紙に「一身上の都合により退職します」って書いてそのまま会社を出た。
「・・・え?」
えっ、で??????
呑んで、潰れて、、、それで??
思い、出せない・・・
頭の痛みは二日酔い・・・なのか?
胸焼けや吐き気はない。そう、もともと俺は酒が強いわけでも好きなわけでもなかった。ただもう仕事を捨ててヤケになっただけなのだ。
弱いからすぐアルコールが回って・・・階段から転げ落ちたとか、で・・・
「もしかして・・・異世界転生!!?!?!?」
いやいやいや、ラノベ系のアニメ見過ぎ。
もっと現実的に考えろ、誘拐されて拉致監禁とか・・・
でも、俺を誘拐して何になる・・・はっ!!
財布!!!カバン!!!!!!!スマホ!!!
「ないっ!!!」
あーーーーーーーっっもう・・・絶対それだ・・・
俺という人間はもう別の誰かが成り代わって、社畜人生唯一の楽しみだった貯蓄はまるっと誰かのものになって・・・俺はもう俺じゃなくなったんだ・・・
一身上の都合で退職してこのまま人生まで閉じてしまうことになるのか・・・
あぁ、初めて飛行機に乗った幼い俺はパイロットになるってキラキラしていたよな
サッカー選手にもなりたいって毎日ボールを蹴っていたあの頃・・・
自分の未来に夢を膨らませていた俺はどこへ・・まさかこんなところで人生を終えることになるとは・・・
「ちょっと、やえさん、よしときなよ!!」
無理やりに走馬灯を流していると、建物の外からひそひそと声がした。
「じゃけど、この辺りじゃ見ん格好のひとじゃろぉ」
「そぉじゃけど・・・、得体の知れんモンだ、近寄っちゃ危ないよ!シンさんが来るまで戸は開けまぁや」
・・・この辺りではみない格好・・・
俺はスーツだ。仕事終わりのくたびれたサラリーマン。
それを、「得体の知れないモン」という。
これいかに・・・
え、まじで、異世界転生系?!
ちょっと待てよ?!社畜人生9年の俺に異世界で役立つスキルってある?!
もしかして何か新しいスキルが身についてる感じ?!
外の声が聞き取れるのはご都合主義のありがた設定??!!?
「顔立ちが、そねぇに悪モンにゃ思えなんだ。だいじょーぶじゃわ」
ぎっ・・・ギギギ・・
建て付けが悪いのだろう、やたら重々しい音がする。
光量が急に増えて目が眩む。
しまった!!!隠れるか、寝たふりかするべきだったか?!
「おやぁ、おきんさったか?」
眩しくて、声の主はシルエットとしてしか認識できない。
「のどが乾いたろ、こりょー飲みんさい」
声の主が建物に入り、姿が近づいてくる。
やっと視力が追いついて人物の容姿が捉えられた。
・・・着物だ・・・
着物着たお婆ちゃんだ!!!!!!
優しそうな顔で、湯呑を差し出してくれている。
「どねーした?いらんか?」
なるほど!!?!!!??!!
タイムスリップだ?!!!?!!?!?!!
異世界転生じゃなくて!!!俺は!!なんか!!よくわからないけど!!!
タイムスリップしたご様子だ!!!!!!!!
わーっそういえばなんとなくぼんやりとしかみえないけど
この建物も、俺のひい爺ちゃんが観てた時代劇のあの感じだ!!
と、いうことは・・・?
江戸時代とか、そういうあたり????
「どっか悪ぅしたか・・・すまんなぁこんなとけぇおらして」
「あっ!!いや、大丈夫です!!ちょっと、驚いただけで!」
「ほぉか?まぁ驚いたんはあぁしもいっしょじゃ!おあいこじゃあな」
「でっすよね、アハハ」
おばぁちゃんはニコニコと笑って湯飲みを手渡してくれた。
ほんのり暖かくて、無性にのどが乾いてきた。
ありがたくそれを飲み干して、いまここは何時代なのかと訊こうとした時だった。
「あぁ、シンさーーーん!ここじゃーー!!」
外にいたもう一人の女性(声からしてこのおばぁちゃんよりは若い印象だ)が誰かを呼んだ。
んっ?!シンサン??!
シンさんってあの新さん?!トクダシンノスケ??!!!?!
ひい爺ちゃんと観たあの時代劇を思い出す。
って事はやっぱ江戸時代ぃぃい!!!
すっげ!!!まじ?!!
俺はもうこの時、不安とかよりミーハー魂が爆発していた。
大してファンでもなかったのになんなんだこの心境!!
え??
いやいや、ミーハー魂っておかしいよな。
あのトクダシンノスケはエンターテインメントの偶像であって
このシンサンがあの新さんとは限らないだろ、しっかりしろ、俺!!
「ばぁちゃん、待ってろつったのにぶん殴られたらどうすんだよ」
・・・あっれ・・・
シンサンめっちゃ若者言葉使うじゃん・・・
光からシルエットが浮き上がる。
建物に入ってきたシンサンはやっぱり着物だった。
髪はマゲじゃなくてざんばらりん?だったけれど・・・。
「おぁ・・・」
「おう酔っぱらい、もう平気か?」
「えっ・・と・・・ハイ、ダイジョウブデス」
「どうすっかな・・・お前何モンなわけ?」
めんどくさそうに頭をかいて、俺を伺うシンサン。
サラリーマンですつっても伝わんないよなぁ
そもそも、2020年から来たわけだし、タイムスリップっていっても信じてもらえないよなぁ・・・つーかタイムスリップが伝わんないっての。
「オイっ!聞いてんのか!!!」
「ヒィ!!」
ダンっと俺が座る床を蹴るシンサン。
苛立ちが土埃と共に降りかかる。
やっぱり俺の知ってる新さんと違う!!!
そんな俺を、優しいお婆ちゃんの声が救ってくれる。
「こりゃ、そねーな言い方しんちゃんな、この人だって困っとんじゃけん」
俺が握っていた湯飲みをそっと取り上げて、土埃を払ってくれる。
「とりあえず、しんちゃんのうちへ連れて行ってあげぇそこでゆっくり落ち着いて話しょーや」
「チッ・・・ついて来い」
ありがとうおばぁちゃん・・・でも俺シンサンのお家行くの恐いナ・・・
スタスタと去っていくシンさんと、その後をちょこんちょこんと歩いてついていくおばぁちゃん。もう一人いた女性はシンサンと入れ替わりにいなくなっていた。
相棒の眼鏡をなくして、おぼつかない足取りでなんとか二人を追いかける。
シンサンは恐いけど、知らない時代の知らない土地に一人取り残されるのはもっと恐い。
ぐるりとあたりを見渡せば、山に囲まれ、田んぼだか畑だか・・それから小川と・・・なんとなく建物らしきものがポツポツあるようだ。
江戸時代だし、辻斬り??山伏???なんかよくわからないけど
山賊に襲われるかもしれない・・見ぐるみ剥がされてっっ
って財布も何も持ってないんだった。
まぁ令和のお金じゃなんの役にも立たないしななんて思っているうちにおばあちゃんたちを見失ってしまった。
今度こそ終わった・・・
「あぁあ・・・こんなTHE ENDありかよブラザー・・・」
「くだらねぇ事言ってねーで早く来い」
「ッグぇ」
「お前、もしかして目が見えないのか?」
「みえないというか、目が悪くて・・・でも時空の狭間??とか??に、眼鏡を落としたみたいで・・・」
「じくうのはざま???」
「イエ、何でもないデス」
「おら、こっちだ」
首根っこを掴んで引きずられる様に案内された家は
山を背にした大きな大きな家だった。
「・・・シンサン、やっぱりあの新さんなの・・・?」
「あのってどれだよ」
白壁と木製の門をくぐり、綺麗に剪定された庭を抜け、石畳をしばし歩くと玄関と思わしき格子の建具。
「ん、どーぞ」
カラカラと戸を開けて招き入れられたそこは広々した土間。
その先は一段上がって畳の広間がある様だった。
なんと立派な将軍のおうち。あの白い馬はどこに・・・
「待ってろ、お前汚ねぇし、なんか着るもの持ってくるから」
シンサンはさっさと下駄を脱いで奥の間へ向かう。
あっあっ俺の服が汚いのは認めるけど、着物なんか自分で着れないよ?!
そんな心配を他所に、シンさんが持ってきたのはジャージだった。
「ジャージだ!???!!!?!」
「あ゛?!お前文句言える立場か?!」
「え゛?!いや世界観どうなってんの!?!」
「何がだよ!!!さっさと着替えろ!アレクサ、電気つけて」
「アレクサ!!!!?!!?!なんて?!!?!」
「ハイ、確カニソウ言ワレマシタ」
ピッという機械音とともに辺りが明るくなり、電気がついたことが分かる。
「おっおう?!何ここどうなってんの?!江戸時代だけど俺の知ってる世界線と違うの?!パラレルワールド?!!?!」
「っハァ???!お前さっきから何言ってんだよ」
もうなにがなんだか分からない。
頭を抱えてぐねぐねと転がり出しそうな俺に困惑しきった声をかけるシンサン。
そうだ。
さっきおばあちゃんに聞こうとしていた事を思い出す。
「・・・ココハ、ドコデスカ」
そう尋ねた俺の目には、口をぽかんと開けたシンサンがぐっと俯いて、肩が揺れている様に見える。
「アッハッハッハ!!!」
見間違いじゃなかった。
大爆笑のシンサン。
「なに??異世界トリップでもした気になってた?!」
震える声で、笑い声の合間に、息も絶え絶えという感じで聞いてくる
「違います!!!タイムスリップです!!!」
「ブッハハハハ!!!!訂正するのそこじゃねぇだろ!!!!!」
ひとしきり笑い転げたシンさんは
「そんなになるまで働いてんじゃねぇよ、社畜サン?」
って言いながら俺のくたびれたネクタイを引き抜いた。
『社畜の俺がトリップしたのは新幹線で3時間の温泉街!!?』
みたいな話を奥津温泉舞台に誰か描いて・書いてくれないかなぁ。
こんばんは!!!
おはようございます??とーやまです!!
異世界トリップしたと思ったら、都会からは想像できないちょっと時代錯誤するくらい長閑な田舎でした!!時間軸も世界線も一緒でフツーに2020年だし、帰ろうと思えば今すぐ元の生活に戻れるけど、都会で疲弊した社畜くんの心身を癒す温泉チャプチャプストーリー。
社畜くんは営業畑だったので、この寂れた温泉街を建て直す施策を次々展開して、温泉街は人気の観光地へ!
そして社畜くんは都会では得られなかった仕事に対する充足感を得る!
WIN-WIN!!!みたいな!!!
鏡野町が何かの作品の舞台にならないかなぁって。
アニメ化、ドラマ化オファー待ってます。
原案 とーやま とかかっこいいじゃないか・・・笑
昨日、たくさん(当社比)♡いただいててびっくりしました!!
ありがとうございます(*'▽'*)
なにがどうなってみてくださったのか・・・
あんまり気負うと続かなくなるので、今日は下手くそな物語で息抜き!笑
もし最後までお付き合いいただいた方がおられましたら
この場を借りて・・・
貴方様の貴重なお時間を頂戴いたしまして誠にありがとうございますっっ!!
では!また♪
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