オルソンの今年の敵は「外野4人シフト」?
マット・オルソンの昨年は序盤の故障離脱を乗り越え、主砲としてステップアップを果たすシーズンになった。
是非とも今季は3年連続のゴールドグラブに加え、シルバースラッガーも受賞してMLB No.1の一塁手に名乗りをあげて欲しいところである。
が、しかし、研究と適応を旨とするMLBだけあって、今年も日進月歩の対策が編み出されているはずだ。
今回は他球団が取って来そうなオルソン対策と、それにオルソンがどう対応するかについて、さらには今年のトレンドについても考えていきたい。
まず、この記事を書くに至ったのは、先日のSFとのエキシビジョンゲームで目を引くプレイがあったことにある。
4回裏の攻撃、先頭のチャップマンが四球で出塁後のオルソンの打席でSFは外野に4人を配置するシフトを敢行したのだ。
3Bを守るフローレスを外野のレフト線へ動かし、外野手3人はそれぞれライト方向へスライド、
3人となった内野も三遊間はガラリと空けて、一二塁間に全員を配置するという型破りな陣形である。
新しいオルソン対策は「外野4人シフト」?
思い切った作戦ではあるが、理解はできる。
そもそも、オルソンはMLBで最もシフトの対象となる選手の1人だからだ。
オルソンは引っ張り方向に全体の67%の打球を放つため、彼の打席では86.9%の割合でシフトが用いられる。これは100打席以上立った打者ではMLB8位の高水準だ。
とはいえ、多くの球団のシフトは内野手4人を引っ張りゾーンへ寄せるもので、外野4人シフトを敷く球団はまだまだ少ない。
では、どこに外野4人シフトを敷くメリットがあるのか?
外野4人シフトはさらにポピュラーになる
外野4人シフトが俄かに熱を帯び始めたのは2018年からである。
その年、オルソンを含む15人の打者に対し、8つの球団が外野4人シフトを敷いている。
さらに2019年には101回もの外野4人シフトが敷かれている。
ポピュラーになりつつあるこの外野4人シフトのメリットは、効率的に野手を配置できることにある。
シフトの対象となった打者は左打ちのパワーヒッターである。
その代表例であるジョーイ・ギャロとオルソンを例に見てみると、
このように打球傾向ではフライボール、打球方向はライト方向にほとんど固まってしまっているため、その対極にある流し方向のゴロ打球の為に三塁手を配置する旧来の守備配置は非常に効率が悪いことがわかる。
シフトを多用する球団の一つであるTBの外野手キアマイアーは「特定のサイドに単打を打たれることを厭わない。アスレチックな選手にもシフトをやるけど、通常は大柄なパワーヒッターにやる。彼らが単打を打っても、得点させる為には2本のヒットが必要になるから、喜んで(単打は)OKするよ」と簡潔に意図を説明している。
オルソンは度々、外野4人シフトを敷かれている。
私の記憶とスタットキャストのデータによれば、
TB、CIN、MINの3球団が敷いていたことが推測される。その3球団はいずれもデータの先進的な活用で知られるチームだ。
特にTBはワイルドカードゲームでも、外野4人シフトを敢行。
オルソンが打者の時だけでなく、TBはこの試合でOAK打線を封じ込める為に全体的に外野を深く守らせていた。
OAKは、広くHRが出にくい球場を本拠としながらも長打頼みの攻撃を展開するため、長打が絡まなければ得点の可能性は低い、
また俊足の選手が少ないことも相まって、外野をドン引きさせてしまえばフェンス直撃の当たりやコーナーへ飛んだ長打性の打球でもシングルに抑えられる可能性があると踏んだのだろう。
結果的にTBの狙いは的中し、長打が持ち味のはずのOAK打線は長打を一本も打たせてもらえないまま完敗してしまった。
まさしく前述のキアマイアーの狙い通りの結果になったのである。
オルソンの対策やいかに
オルソンはこの試合で特に執拗なシフト戦略によって封じ込められ、私としては他の球団がこの戦略を追従しないことを祈るばかりだった。
NFLラムズのオフェンスがペイトリオッツとのスーパーボウルで弱点を暴き出され、その後凋落してしまった例もある通り、プレーオフは特に注目を浴びやすい。
だが、最初で示した通り、私の予感は悪い方に当たってしまった。
そして冒頭へ戻る。
オルソンの対策はこうだった。
まず左腕のバラギャーに対し、オルソンは初手でバントを試みる。しかしこれはファールに終わる。
続く2球目もファールで追い込まれたオルソンは、決めにきたカーブを見事に軽打し左中間へ運んだ。
そして、このヒットを受けて一塁走者のチャップマンは悠然と二塁を蹴って三塁へ。
これら一連のプレーにひとまずの外野4人シフトへの対抗策が詰まっているのではないか。
外野4人シフトへの対策(?)
1. セーフティバントでシングルを狙う。
2. 軽打で逆方向に運ぶ。
3. ランナーは走塁でシフトの穴をついて進塁する。
まずセーフティでシフトを破る方法だが、これは古典的だが効果的な方法だ。
オルソンは昨年、5本のセーフティバント(成功率100%)を決めている。
またこの翌日のエキシビジョンゲームでもバントを成功させている。
守備側は織り込み済みのプレーだが、シチュエーションを選んで狙い続ければ打率は上がるだろうし、守備側にも綻びが出る可能性がある。
面白かったのはここでシフトを敷く側だったSFが、LADとの開幕戦ではシフト破りのバントを積極的に狙っていたことだ。正直、無名の9番捕手に対してシフトを敷く必要があるのかは甚だ疑問ではあるが...
2番目の軽打で逆方向へ運ぶというのは、シフトや高速の変化球に対して有効な対抗策だ。
最も、自在にフィールドを使う打撃スキルが備わっていればシフトを敷かれずに済むかもしれないが、オルソンがシルバースラッガーを獲得できるレベルの打者になるためには”柔らかさ”も必要とされるところだろう。
この点に関しては期待しながら見守りたい。
3番目の走塁によってシフトを崩すというのは、少なくともランナー有の場面でのシフトを断念させる最も有効な手段かもしれない。
先ほどの動画でもある通り、オルソンのヒットから走者の動きを予測し、SSのクロフォードは三塁ベースのカバーに素早く動いている。
非常に訓練された動きだなと感心したものの、自ずとこのシフトの弱点も見えてくる。
例えば、ランナーの盗塁と組み合わせたエンドランのようなプレーがハマれば、カットプレーの虚をついて一気にランナー1塁から単打で得点できる可能性もある。
走塁によるプレッシャーというのが一番現実的で、一番効果的なのではないだろうか。
とはいえども、穴が見えない外野4人シフト
とここまで考え得る対策を書いてきたが、どれも効果覿面と言えるわけではない。
そもそもシフトに有効な策を見出すことができていれば、ここ10年で当初は懐疑的な見方を受けていたシフトがここまで隆盛を見せることはなかっただろう。
左のパワーヒッターで鈍足、しかも本拠地は広いコロシアムという三要素を踏まえた外野4人シフトという戦術が出来てしまった以上、オルソンはある程度、効率良く相手にアウトを与えることを覚悟しなければならないかもしれない。
何しろHR以外に長打の打ちようがないのだから。
TBなどは既に投手のタイプや外野手の守備力を踏まえた外野の守備シフトの導入を図っている。
春先少し話題になった「外野2人シフト」もこの一環で、きっと多くのファンが筒香がイニング間に忙しなく外野と内野を行き来する姿を目にするだろう。
TBが効果的に導入する(きっとするだろう)以上は、球界への流行は止まらないだろう。
その時、もしかすると左打ちのホームランバッターは淘汰されてしまうのかもしれない。
私は守備シフトの流行が外野にまで及べば、恐らくMLBはたまらずルールの改訂に乗り出すのではないかと踏んでいる。
何はともあれ、2020年の新トレンドになりそうな「外野4人シフト」とマット・オルソンの打撃からは、短縮シーズンであっても目が離せない一年になるだろう。