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【OAK】2021年、新戦力の台頭

「これまでで最も才能あるロスター」「100勝できる」と開幕前にマット・チャップマンはこの2021年のチームについて語っていました。
今となってはセミエンやヘンドリクスなどの主力をみすみす手放したフロントへの皮肉なのか、それとも強がりだったのかは分かりません。

しかし、2021年のチームは開幕時から、贔屓目に見てもタレントに乏しいチームでした。

そんなチームがプレーオフ争いに止まり続けたのも、新戦力の台頭があったからこそです。今回のnoteは2021シーズンを振り返るにあたって、チームに欠かせない選手に成長した新戦力という面から掘り下げていきます。

トニー・ケンプ

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2021年成績
131試合|打率.279|出塁率.382|OPS.800|bWAR3.5

トニー・ケンプとA'sの出会いには何かしらの運命的な要素を感じざるを得ません。
マイナー通算出塁率.389を誇る出塁マシーンでありながら、2Bと外野全ポジションをこなす汎用性も兼ね備えるケンプはまさしくマネーボール・イズムを体現するような選手でもありました。
ケンプはそれを彼がA'sにトレードされる1週間前に視聴した映画「マネーボール」からはっきりと感じたと言います。

2020年の短縮シーズンで出塁率.363と持ち味を発揮したケンプは翌2021年のテンダーを勝ち取り、そして今年全てのカテゴリーでキャリアハイとなる成績を収めました。

三振を超える四球を記録するアプローチはそのままに打率を.279まで伸ばし、今まで以上に長打の脅威を感じさせる選手に生まれ変わりました。

特に印象的だったのはプレーオフ争い中のNYYとの直接対決で放った勝ち越しHR。NYYのジャッジ、ギャロ、スタントンといった大柄な選手たちがホームラン・ショーを展開する中、一際小柄なケンプが応酬してみせたのがなんとも印象的でした。

168cmと他の選手と比べると1フィート近く小柄なケンプですが、安易にスラップヒッティングに走ることは決してしません。良い角度で打ち出しながらパワー不足故にハーフライナーに終わるシーンは少なからずありますが、それでも彼は自分のスタイルを曲げず、今年ついに大きな成果を出しました。ゴリアテと同じ土俵で戦い続けるダビデ。そのようなある種の気高さを彼からは感じています。


コール・アービン

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2021年成績
32試合|10勝15敗|防御率4.24|178.1回|bWAR1.5

2021年最大のサプライズだったのがこのコール・アービンでしょう。
ルール5ドラフトのための枠空けでPHIからトレードされてきたアービンは、スプリングトレーニングでの好投とドールトン・ジェフリーズやAJ パクといった有力なライバルの故障と不振にも助けられ、キャリアで初めての開幕ローテの栄誉を手にします。

これまで全くの無名の存在で、球速も90マイルそこそこ、プラスと言える球種は一つもない、公平に見てもそのような評価に落ち着くほかなかったアービンがここまでの活躍をするとは誰も予想できなかったでしょう。
結局、アービンは1年間ローテーションを守り切り、2桁勝利を挙げました。終盤の不振さえなければ防御率3点台でフィニッシュしていたことでしょう。

なぜアービンがブレイクしたのかという理由は僕にはまだ分かりません。ただ、一つ言えるのは間違いなくアービンのコマンドは優秀だということです。

BB% 5.5%はメジャー12位にランクインし、どの球種でも必ずコーナーを捉えることができる能力にはシーズン中何度も舌を巻かされました。

しかし、コマンドが良いからというだけでメジャーで活躍はできません。
三振が少ないためインプレーが多いアービンですが、打球速度などの指標は芳しくありません。この手のタイプにしてはゴロが多いわけでもなく、ラインドライブやフライもそれなりに打たれているにも拘らず、被バレルが少ないのは単なる幸運か、それともアービンなりの幻術なのか。その真価が問われる来年はこのx-statsの揺り戻しに注目です。


ジェームズ・キャプレリアン

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2021年成績
24試合|8勝5敗|防御率4.07|K/9 9.3|bWAR1.4

かつてNYYで1巡目指名を受け、かつてのA'sのエースだったソニー・グレイのトレードの目玉だったキャプレリアンも早くも27歳。度重なる故障に苦しめられ、もうメジャーで日の目を浴びる望みは薄いと誰もが感じていたことでしょう。

しかし、ヘスス・ルザードの故障離脱で空いたスポットで昇格すると、5月は防御率2.95の快投。そのままローテーションに定着しました。
キャプレリアンの特筆すべき能力はコマンドの良さです。びっくりするほどの球種はないものの、4シーム、スライダー、チェンジアップをゾーンのエッジに淡々と集める姿はルーキー離れしたものを感じました。

ただ、リリーフで98マイルを計時するなど球速の伸び代は確かにあり、スライダーやチェンジアップでも及第点レベルのWhiff%空振り数/全スウィングを記録しているため、キャプレリアンにはコマンドと奪三振力を兼ね備えた本格派に成長するポテンシャルが残されています。
終盤こそ不振に陥ってしまいましたが、来年以降のパフォーマンスが非常に楽しみになりましたね。来年も(怪我なく)ローテーションを回してほしいと思います。


セス・ブラウン

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2021年成績
111試合|20HR|OPS.754|DRS+7|bWAR1.4

27歳でデビューを果たし、2021年で29歳を迎えるブラウンは、STでの不振から開幕ロスター入りを逃し、もはやメジャーリーガーとして大成する夢は風前の灯になりつつありました。

しかし、開幕当初のチームの故障禍であっさりとチャンスを掴むと、そこから持ち前のパワーと意外な運動能力を発揮。低打率ながらもシーズン20HRを達成しました。

今年のブラウンにとって大きかったのは、逆説的ではありますが、その活躍によって初めてMLBレベルで安定した機会を得られたことです。
ブラウンは春先の活躍がひと段落した頃に不振にハマり、そこからバットの構え方やタイミングの取り方に修正を施し、再び調子を上げたように見えました。MLBレベルで試合に出て、問題点を発見し、その修正の成果を再びMLBで発揮することができた。というこの一連のプロセスを経たことは来年以降のブラウンにとって非常に大きいと思います。

また、OAAStatcast算出の守備指標では上位11%に入るなど、この手のタイプにしてはかなり優秀な守備力を発揮してくれました。マイナー通しても未経験のCFでもお試し起用され、そこでも悪くはなかったため、来年はロレアーノのいない開幕1ヶ月間PED使用の出場停止期間でスタメンCFになる可能性もあるでしょう。
三振が多い、打率が低いといった目についた欠点はあるものの、ブラウンはこれで問題ありません。この守備力でHRさえたくさん打てれば十分にお釣りが来ます。来年はもっともっとHR量産に特化して、30HRを目指してほしいですね。


デオリス・ゲラ

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2021年成績
53試合|防御率4.11|bWAR0.2

毎年何かしらのヒットを生み出すA'sブルペンの今年の最新作はこのゲラでした。
ゲラを簡潔に形容するならば、まさしく”ユスメイロ・プティート2号"という代名詞がふさわしいでしょう。彼もプティートと同じく、起用法に融通が利き、球速よりも投球術で戦う投手です。

ゲラは非常にbaseball savantが赤く、現代的な指標と相性の良い選手です。上位4%に入る優秀な打球速度のおかげで、x-statsは軒並み優秀。さらに球質にフォーカスしてみても、スピンレートとアクティブスピンが高めで、どの球種も変化量豊富で優秀な数値を叩き出しています。
今年の活躍が一時的なものではなく、継続的なものになると期待する材料は十分に揃っています。

そして今オフで調停初年度とコントローラブルなのも魅力的で、今後数年間に渡ってブルペンの重要な部分を担ってくれるかもしれません。
元はと言えばゲラはマイナー契約からの掘り出し物ですから、今後も第二・第三のゲラを見つけてきてほしいですね。


ポール・ブラックバーン

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2021年成績
9試合|1勝4敗|防御率5.87

9先発で防御率5.87のブラックバーンを台頭した新戦力とするには違和感があります。しかし、彼のキャリアにとって今年メジャーで9先発できたことは計り知れないほど大きかったと思います。まさしく彼のキャリアを繋ぎ止めたと言って良いでしょう。

ブラックバーンはオフの補強を受け、シーズンを前にしてDFAを受けました。しかし、獲得に名乗りを上げる球団はおらず、ブラックバーンはAAAにアウトライトされて開幕を迎えました。しかし、ブラックバーンはそこから奮起しました。打者有利のAAAで好投を続け、しかもこれまでネックだった球速も95-96マイルにまで向上させていたと言います。

ただAAAでの好投にも拘らず、A'sのMLBではメジャートップクラスのローテーションが機能しており、また有望株ドールトン・ジェフリーズが控えていたため、ブラックバーンがメジャーで先発する可能性は限りなくゼロに近かったです。

そうブラックバーン・ウォッチャーの私も諦めかけていた頃、天変地異が起こります。エースのクリス・バシットが顔面にライナーを受け、急遽離脱する羽目になったのです。既にトレードデッドラインは過ぎており、A'sは内部のオプションを模索する他ありませんでした。当然、AAAで投げているジェフリーズこそが穴埋めの一番手候補だったわけですが、A'sにとってまさしく替えの先発が必要なタイミングでジェフリーズは登板間隔が合わず、たまたま登板間隔が合ったブラックバーンに声がかかることとなります。

ブラックバーンは突如の昇格にも拘らず冷静でした。MLB屈指のCWS打線を相手に好投を見せ、そのままローテーションに抜擢。9試合に先発し、打ち込まれる登板もありましたが、彼の持ち味は発揮したといえるでしょう。

もしブラックバーンが今季昇格することがなかったとしたら、間違いなく彼は今頃FAを選択し、アジアに活路を求めていたと思います。それが今は来年のローテーション候補の一角として扱われ、まだMLB定着に望みをつないでいます。

私はブラックバーンのブレイクの可能性をひしひしと感じています。メジャーでは95-95マイルの速球は影も形もありませんでしたが、球威低下の理由は1試合の中でも2巡目以降になると球威が落ちるスタミナ不足にあるのではないかと思います。裏を返せば球速の伸び代自体は本物で、スタミナ次第でその水準の球威を発揮できるようになるのではないでしょうか。
そして一昨年にスプリッターを覚えたことによってレパートリーが合理化されているとも感じました。スプリッターを投球の軸に据えることで、シンカー主体のスタイルになり、これまで中途半端な真っスラになっていた4シームを有効なカッターにコンバートすることができました。一つ一つの球種のクオリティが上がったせいか、コマンドもこれまで以上にハイクオリティでした。

もしブラックバーンがローテーションレベルの投手に成長するようであれば...。FAが近づくバシットやマナエアの放出は眼前に迫るこの状況ではかなり大きいでしょう。願わくば来年のSTで97マイルを叩き出すブラックバーンを見たいものです。


honorable mention...

ドールトン・ジェフリーズは本来ならこのnoteのヘッドラインになるべき選手でした。

STでは快刀乱麻のパフォーマンスを見せながら肩の怪我で開幕ローテ入りを逃し、ルザードが故障離脱した時は同時に離脱中、キャプレリアンの離脱でついにローテ入りし、好投はしたもののキャプレリアンが速攻で復帰し定着には至らず、バシット離脱時は前日にAAAで好投したため昇格できず、9月に不振のキャプレリアンと入れ替わりでローテに入ることが決まった時は登板直前に故障してシーズンエンドと、タイミングの神に呪われたようなシーズンでした。
もし開幕からローテに入っていれば新人王の可能性もあったでしょうし、シーズン中にローテに入っていれば2013年のソニー・グレイのように救世主となっていた可能性もあったでしょう。

ここまで間の悪い選手というのは正直見たことがありません。

来年こそ、来年こそはついにヴェールを脱いでくれるものとジェフリーズへの期待を込めてこのnoteを終わりたいと思います。



画像出典
Oakland A's 公式Twitterより。


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