【ATH】ジェフリー・スプリングス獲得
※サムネイルはMLB.comから
12月15日、アスレチックスはレイズから先発左腕ジェフリー・スプリングスと先発左腕ジェイコブ・ロペスを獲得しました。
対価は惜しいですが、もしスプリングスが期待通りの成功をすれば大勝にもなり得るトレードだと思います。今回はこのトレードについて書いていきます。
ジェフリー・スプリングスとは
スプリングスは32歳の先発左腕です。
2018年から2020年までプレーしたレンジャーズ、レッドソックスではくすぶっていましたが、2021年からレイズに加入すると一流投手に変貌。
2021年に救援として43登板、35.2%の奪三振率(K%)を記録すると、2022年からは先発に転向しさらにステップアップを果たします。33登板(25先発)で、防御率2.46、fWAR3.1を記録してブレイクを飾り、2023シーズン開幕前に4年31Mのエクステンションを結びました。
しかし、2023年は3登板のみでトミー・ジョン手術を受ける羽目になり、やっと今季2024シーズンに復帰。復帰後は7登板をこなしたものの、9月に再び故障への懸念からシャットダウンされました。
トミー・ジョン手術から復帰後のスプリングスは見るからに球威が落ちていました。
術前には91.7マイルあった4シームの平均球速は、今季89.8マイルに低下。決め球のチェンジアップを軸に空振りを奪えていたとはいえ、球威の低下は懸念事項です。
ただ、健康を取り戻し、球威が術前の水準になれば、スプリングスは依然フロントスターター級の実力を持つ投手です。
ジェイコブ・ロペスとは
おまけ的な存在ですが、ロペスについても書いておきます。
ロペスは26歳のスウィングマンです。MLBでは2シーズンしか投げておらず、合計8登板で目立った数字を残せていません。
しかし、AAAでは好成績を残しています。2023年は26登板(24先発)で奪三振率29.8%、防御率2.68を記録。2024年も21登板(19先発)で奪三振率27.9%、防御率4.26を記録しました。
昨季のAAAでの球種データを見てみましょう。
4シームの平均球速は90.1mphとかなり遅い部類に入ります。しかし、サイドに近いアングルから投じ、エクステンションが優秀なことも関係しているのでしょうか。技巧派の割に空振りを奪えています(1000球以上投げた投手の中でトータルWhiff%は上位15%)。
レパートリーの中ではスライダーはやはり優秀で、MLBでもxwOBA.129、Whiff%は35.5%を記録しています。
この手のタイプにしては制球力が悪く、MLBで先発として成功する可能性は高くないでしょう。ただ、マイナーオプションが1つ残っており、今季はスウィングマンとして待機しつつ、スライダーを武器にショートリリーフで活路を見出してほしいと思います。
セベリーノに次ぐ先発補強が必要だった
アスレチックスは先日、ルイス・セベリーノと球団史上最高額となる3年67Mで契約し、先発補強を着々と進めていました。
もともとフルシーズン完走経験があるのも、信頼を置けるのもJP・シアーズのみ。さらに昇格間近のめぼしいエースポテンシャル有望株も不在という中、先発補強は必要不可欠でした。
デイビッド・フォーストGMは「開幕するには8人から10人の投手が必要になることは分かっていると思う」とし、セベリーノ獲得後も先発補強に動いていたようです。それがスプリングスの獲得という結果に現れました。
ローテーションは大幅改善
スプリングスの獲得によって、ローテーションは大幅に改善したと言えるでしょう。
ルイス・セベリーノ
ジェフリー・スプリングス
JP・シアーズ
オズバルド・ビドー
ミッチ・スペンス
JT・ギン
ジョーイ・エステス
ブレイディ・バッソ
ジェイソン・アレクサンダー
ホーガン・ハリス
ジェイコブ・ロペス
ガナー・ホグランド
セベリーノ、スプリングス、シアーズという実績ある3枚は健康ならば開幕ローテが確定。それ以降はスプリングトレーニングの争いに委ねられるでしょう。上は開幕ローテを争う候補者です。
フォーストGMは「ビドーが候補者のグループのトップ」と語り、その後にスペンス/ギン/エステスの3人が続くという見立てをコメント。さらにマイナー契約で加入したジェイソン・アレクサンダーについても「彼は先発ローテーション入りを果たす絶好の機会を得るだろう」と言及しており、注目しておきたいところです。
対価は惜しい・・・
対価としてレイズに放出されたのは、先発右腕ジョー・ボイル、一塁手ウィル・シンプソン、右腕ジェイコブ・ウォッターズ、2025年ドラフト補償ラウンドA指名権です。
この内、パッケージの目玉と言えるのが、25歳のジョー・ボイルです。
ボイルは2023年にサム・モールとのトレードでレッズから加入した剛腕。2023年は3先発で防御率1.69と上々のデビューを飾り、飛躍の期待も大きかった今季でしたが、13登板で防御率6.42と苦戦しました。
ボイルの弱点は壊滅的な制球力でした。今季のBB%は40イニング以上投げた投手の中でダントツワーストの17.7%(ワースト2位が14.7%)。そこら辺にいる投手が全員グレッグ・マダックスに見えてくるくらいの制球力で、ファンからは“ボイ浪”として親しまれていました。
とはいえ、先発投手として破格のエンジンを誇り、スライダーのStuff+も149という超高数値を叩き出していたボイルに対して、期待は依然として高かったはず。大学、マイナー時代から常に向き合ってきた制球難も、アスレチックス加入当初は改善を見せた時期もありました。
ボイルは投手工場レイズに加入することになります。レイズはかつて制球難に苦しんでいたタイラー・グラスナウを見事にエース級に育てた実績がありますし、ボイルが同様に開花する可能性も低くないでしょう。
2番目のピースといえるウィル・シンプソンも逸材でした。
2023年ドラフト15巡目で入団したシンプソンは、ドラフトイヤーから活躍を続け、今季はAAまで到達しました。
A+の109試合で16本塁打、wRC+142を記録。秋口に昇格したAAでも勢いは止まらず、18試合でwRC+155を残しました。
パワーツール、角度を付ける技術の高さが持ち味な一方、コンタクトツールが弱点と言われるシンプソンですが、今季のA+では三振率(K%)24.7%に対し、四球率(BB%)14.6%とアプローチは上々。順調に成長している選手でした。
ただ、アスレチックスは2024年ドラフト1巡目で一塁手ニック・カーツを指名。さらにMLBにも有望株タイラー・ソダーストロムがおり、シンプソンが組織内で定位置を掴むのは難しい状況でした。
シンプソン自体のポテンシャルはかなり信じていましたが、デプスの充実度的にいかんともしがたい部分です。15万ドルの契約金で入団した15巡目の選手が、1年でトレードチップになれるほど成長したことを喜ぶしかないですね。
3番目のピースであるジェイコブ・ウォッターズは、ちょうどボイルの下位互換的存在です。
2022年ドラフト4巡目で入団したウォッターズは、大学時代は100マイルに迫る4シームと空振りを量産できるカーブ、そして壊滅的な制球力で知られる投手でした。
2023年はA+の22登板で防御率6.62、四球率(BB%)14.9%と苦しいフルシーズンデビューに。今季はというと、四球率(BB%)が改善されたものの、三振率(K%)が20.8%まで落ち、防御率5.04と停滞していました。
球速が落ちているとのリポートもあり、実際AAAで登板した1試合のデータを見ると、速球系の平均球速が92-94マイルに留まっていました。持ち味だった90マイル後半の速球が影を潜めた一方で、制球力も改善されず、とてもプロスペクトとして大きな期待を寄せられる状況ではなかったですね。
そして、選手以外のピースが、アスレチックスが持っていた2025年ドラフト補償ラウンドA指名権です。
これは収入が低い10球団に与えられる補償指名権で、今年のアスレチックスは全体36位の指名権を持っていました。
QO物件であるセベリーノとの契約によって3巡目指名権を失っていたため、アスレチックスのドラフト上位指名権は全体11位、48位、111位となります。
対するレイズはというと、元々持っていたCBAピック(37位)に加えて、新たに42位指名権をゲット。これによってほぼ1巡指名権3枚を持つことになります。
有望株の出血が抑えられていた分、CBAピックでバランスを取った印象です。
スプリングスが復活すれば大バーゲン
対価はなかなか惜しいです。特に先発投手の若手の中ではピカイチのシーリングを誇ったボイルをここで見切ったこと、QO補償で失った指名権に引き続いて上位指名権を失ったことは痛いです。
ただ、スプリングスがもし復活すれば、このトレードは大バーゲンとなる可能性を秘めています。
それは、スプリングスが格安の契約を残しているためです。スプリングスの契約は今季が10.5M、来季が10.5M、そして2027年に15Mの球団オプションが残っています。
今オフのFA市場は先発投手の値段が高騰しました。ここ3年間の43登板で防御率2.44、大きな故障を経験しながら1シーズンあたりbWAR1.8を稼いだスプリングスのような投手が市場に出ていれば、まず今の契約のような値段では済みません。
フロントスターター級の投手をこの値段で確保できるチャンスは希少で、それを活かすためには仕方ない対価だったと思います。