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小説 続ける女〜session16


「じゃぁ、どうして大石莉子は吉良義人の死後、脅迫状を出し続けたのか?その疑問が残るってことでしょ。」




「その通りです。大石莉子が吉良に恨みを持っていないとしたらなぜ脅迫状を出すような真似をしたのですか?」




「それは吉良への恨みではなく、同情からよ。」




「同情?」



「大石莉子が脅迫状を送りつけたのは吉良義人の死後からで、それ以前の脅迫状は吉良本人のもので間違いなかったわけよね。」


「はい。」


古川は頷いた。


「吉良の死の直後、吉良のマンションから発見された脅迫状は筆跡鑑定から吉良本人のものであることは確認されています。」


「そのことを大石莉子に話した警察関係者がいるわね。」



「・・・・。」




古川は黙った。勿論、その人物の心当たりが古川にはあった。吉良の不審死のあと、省庁であらぬ噂がいろいろ流れたので、古川は密かに警視庁公安部のある人物に極秘に吉良の死に関しての再調査を依頼した、その人物が大石莉子に接触したはずである。



その時にあるいは脅迫状について大石に話したのかもしれない。



今回、なかなか吉良の死について納得しない岩村のために、その人物に再々調査を依頼したのが、それは断られ、そこで玲子にその依頼をまわしたという経緯がある。




言葉に窮する古川を気にする風でもなく玲子は言葉を続けた。



「大石莉子は吉良が脅迫状を自分自身に出していたこと、そしてその差出人を自分にしていたことを知って愕然としたはず・・いや・・。」


玲子はそこで一度言葉を切って考え込んだ。



「吉良は大石莉子と東京で再会してからというものストーカーまがいの行為をしていたようだったから、大石莉子にとってあるいはそのことは予想できたことかもしれないわね。そのことは大石莉子にとっては悲しいことだっただろうけれど、同時に吉良義人を哀れに思う原因になったのだと思うわ。」



「哀れ?」


「そう。哀れみよ。大石莉子にとって吉良義人は輝く存在でなければならなかった。自分を捨てた吉良義人は自分の手に届かない存在であるべきだった。だからこそ自分の子供に吉良の名前を与えたのよ。その吉良が恥も外聞もなく捨てた自分に執着する姿に大石莉子はとまどった。そうこうするうちに吉良は死んだ。正直、吉良が死んだことについては彼女は大きな衝撃はなかったと思う。ただ、脅迫状の一件だけが哀れだったのよ。」



玲子は立ち上がって、応接室の大きな窓ガラスの前に立った。




風は一層強くなって木々を激しく揺らしている。



玲子はその美しい瞳を細めた。




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