小説 人蟲・新説四谷怪談〜十一
もともと伊一郎は恋愛に無頓着なところがあったが、最近、顕著に梅子とふたりきりになることを避けているようだった。
兄の忠彦は梅子の気にし過ぎだというが、梅子は伊一郎の心の変化を感じとっていた。
心の変化ばかりではない。
伊一郎はめっきり痩せた。
もともと痩せ型ではあるが、痩せこけたと言っていいほど痩せた。
そして、目の周りには大きな隈。
その目もどんよりと濁っている。
忠彦は秘書を辞め、選挙に向けナーバスになっているだけだというが、梅子にはとてもそう思えなかった。
もっと病的な異常を伊一郎から感じるのだ。
そのことを確かめるために強引に伊一郎と食事の約束をとりつけたのだった。
梅子は時計を見た。
午後8時25分。
スマートフォンの画面から伊一郎の電話番号を呼び出しアクセスしてみる。
呼び出し音もなく、すぐに留守番電話に繋がった。
梅子の胸にドス黒い不安が広がっていく。
梅子は溜息をつき、もう一度スマートフォンを取り出した。
そしてアドレス帳を検索する。
その結果が表示される。
「中津川玲子」
梅子はスマートフォンに耳を当てた。
呼び出し音が鳴った。
「もしもし・・。」
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