S28-1 『過信~stupid~』
日めくりカレンダーは2022年11月21日を見せていて、
まだかまだかと11月22日が後ろから顔を覗かせている。
「余裕だろ、そんなの」
それは、田丸龍之介の口癖だった。
そんな自信満々な姿をうらやましく思うこともあったが、彼は周りのみんなから鼻で笑われることが多かった。
言ってることとやれてることの不一致というのが誰かの不信用に限りなくつながっていくことはもはや世の常なのだから、その状況になることに何の疑問も抱かなかったし、感じる余地はないのも分かっていた。
そう、本人以外は。。
私の知る限り、ただの一度も本人だけはその言葉を疑うことなく発していたし、事あるごとに自信満々だった。
もちろんすべての事に、そんなスタンスではなく、減らず口を叩いているわけでもなく。
彼にとって大切な事、そう、だいたいはサッカーに関してだったかな。
サッカーに関してはどうしても、プライドというか、自信の置き場所は譲れなかったみたいに感じたなぁ。
今もまだサッカーは続けているのだろうか?
あの頃のまま、自信家でいるのだろうか?
今頃、どこで何してるんだろう・・??
あれだけ自信をもって何かに熱くなれる彼のことを、密かに憧れの眼差しで見ていた私は、ふとこんな夜更けに昔を懐かしみ、彼を引き合いにしながら自信の正体とは何だろうと自問自答を呟きながら、眠りについていた。
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黒板の右側に書かれた日付は、2013年9月27日と書かれている。
「田丸はさ、最後のインターハイでサッカーは区切りって感じ?」
龍之介と同じサッカー部で主将の宮崎はまもなくに控えた高校最後のインターハイを共に戦う同級生の田丸龍之介に何気なく質問した。
そう、ほんとうに何気なく。何の気なしに。ただただ自然に。
「いや、俺がインターハイで終わるわけないっしょ。大学でもサッカー続けるよ。てか宮崎はもうやんないの、サッカー?」
「ん〜、フットサルとか遊びではやるかもしんないけど、ガチではもうやらないかなぁ。そこまでの才能ないし」
「もったいないな。俺はうちのサッカー部で同学年でほんとうにうまいなって思ってたの、宮崎だけだったのに。上でも通用すると思うけどな、宮崎なら」
「そう?ありがとな、そんな風に言ってくれて。・・じゃあ田丸はどっかから推薦の話とかセレクションの話とかきたりしてるんだな」
「いや、そういうのは無いかな。まあ、これまで2、3回戦負けだからさ、あんま見てないでしょ、大学側も。別に一般で入っても、入ってから上がってけばいいだけだしね」
「ほぉ〜ん、そうなんだ・・。頑張れよ。。」
どこにそんな自信がこいつにはあるんだろう、と宮崎は思った。
不思議で仕方がない。だって俺よりも下手なのに。たまたまそのポジションにうまいやつがいなくて、最上級生ってことでレギュラーなだけなのに、とも思った。
サッカー以外のところでは面白かったり、波長があったり、つきあっていると楽しいやつだから大事な友達であることは間違いない。
だけれど、だからこそ、友達として言ってあげるべきなのか。
この大会が終わる頃までは検討しようと思った。
もしかしたら思いっきり最後までサッカーをしたら、スッキリして上のレベルでやるなんて無茶なことは言わないかもしれないから。
はっきり言うか、好きにさせてあげるか、友達だからこそ難しい選択。
田丸は、完全に【過信】の権化だった。
(つづく)
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