薄手のアイドル、スーツのあなた|樋口円香の/への眼差し
頑張る重み
以前透の感想を書いていたときに、円香はノクチルの中で視線(見られること)に最も過敏である、ということを書いていました。で、今更ながらGRADを読了したので、さっくり書こうかしらというのが今回。
ですが、GRAD読んでも視線の話がほとんどなくてちょっと拍子抜けしてしまいました。強いて言えば、視線に最も過敏な円香が登場するアイドルに対して眼差しを向けていた、くらいは言えるでしょうか。あとは敗者復活の敗北コミュもそうかもしれません。
そんな円香ですが、コミュ中に一度、視線の向け方を間違えてしまいます。いや、決して間違っていたとは言えないというか、最終的に和解できているので、結果としては間違っていなかったんですけど。
【ギンコ・ビローバ】でも出てきたアイドルが今回キーキャラクターとしてでてきます。今回がラストチャンスだという彼女を見て、円香はきっとなにかが違う、という感情を持ったんじゃないでしょうか。なんていうと、代弁者になろうとしないでって怒られちゃいますかね。
GRADの終わりを見るに、名前はアイドルのままでしたけど、というかそもそも円香が優勝したのでなにかしらの区切りはつけてしまったのでしょう。ただ、PR動画とか発信しているので、そこでバズれば活動は続けられるようにも思えますが、諦めることについての話も円香から出ていたことと、またどこかでという発言から、やっぱり諦めたのだと思います。
哀れみ……
励まし……
尊敬……称賛……? ――違う、どれも失礼
私はこの子になりたいとは思わない
なら優越感……いや――……
さて、アイドルは円香がバラエティ番組で笑ってくれなかったことにたいして、哀れんでますか?と声をかけます。「願いは叶う」では、円香は自身の気持ちを見つめ直します。そして、かけた言葉は「……頑張ろう。お互いに」でした。
バラエティ番組での反応やPに対して自身をさらけ出したときの言葉から考えると、恐らく円香は否定したくなかったんじゃないでしょうか。
ここでたくさんの人が落ちると思いますが
10年後、20年後……
何人が『あの頃は無謀な夢を見た』と言うのでしょうね
必死に針を回したのに、そんな過去の自分を笑って
きっと乗り越えた顔をする
今まで、諦めるって道から離れることだと思っていました
もしくは、立ち止まるとか、後ずさるとかそういう風に――で
も……
…………
そうじゃなかったんですね
諦めるのは踏み出すこと
始める時と同じように
円香はかなり優しい子なので、泣いてる子は放っておけないし、安っぽい笑顔だと評したイベントをしていたCDショップだって気になるし、浅倉透のこと聞いたらすっとんできたし。そして、そんな優しい円香は薄っぺらい自分とは違って重い言葉を発している彼女の過去を否定するようなことを笑い飛ばすことができなかった。
思えば、「あなたは、あなたのままで、間違っていない」という発言でしたね。これは多分をつけますが、円香はそのまま間違ってはいないということを伝えたかったのです。だから、先程僕が書いたように、否定したくなかった。肯定はしない。ほぼ同じ意味だとは思いますけど、たぶん、これは大事なんじゃないかなって思うことにします。まぁどっちでもいいかもしれないけど。
で、これを無理くり視線との話にリンクさせるなら、彼女がやってきたことが無能アイドルなんていう肩書で曝されるのは間違っている偶像だ、というふうに捉えることは一応可能です。円香はそのことに対して自覚的ではあるものの、優しいので折り合いをつけることができないのです。でも、そこは折り合いをつける必要のないところだろうと思います。
そもそもノクチル自体そのままで、というようなコンセプトがあるでしょう。無理に飾りつけようとしないようなところこそが魅力です。もちろん、クリスマスのイルミネーションみたいに、飾り付けることが悪ということでもありません。また、決勝敗北コミュでは怖いものが怖くなくなるのは成長なんだろうか?という疑問を投げかけます。伝えたい事自体は違うかもしれませんが、円香がそのまま変わらなくていい部分が不器用に寄り添おうとするところだと思います。
円香は多分願いなりを持つ人が正当に評価されるべきだ、という思いを持っているんじゃないでしょうか。願いは叶う、願い続けることが大事だという円香は、Pの前ではシニカルに振る舞っていましたけど、私は恵まれているから重さを持たないなんていう自意識からも、願いは叶う”べき”だと考えているんじゃないかな。多分。
そして、円香がwingで全力だったということをPに指摘されたときに、誰にも言わないでと言ったのも、私が頑張ってはいけない、頑張ったと認められてはいけないのだという風に考えるのも、願いは叶うべきだ。私と違って本気な人の。ということだと思います。頑張りに関しては透GRADにも近い部分がありますが、違うところは円香自身頑張ったことは実は自覚している点じゃないでしょうか。ただそれが誰かによって承認されてしまうのがマズイことなんだろうなって思います。私はアイドルに本気じゃないんだ、と思い込むことによって、視線からも守られるために。wingで敗北すると、本気だったんだなって自覚するのは、敗北することによってある意味自分の気持ちと向き合える「風穴」が生まれたんじゃないかなって。
ということまで踏まえてみると、アイドルに向かって「……頑張ろう。お互いに」といった言葉の”重み”が伝わってくるようです。そして、その発言は円香が重い一歩と称したアイドルが「脈を打て」で円香に対して伝えた言葉です。
まだ円香が自身の考える重みを持つことはないとは思いますが、少なくともアイドルにとっては重みを持っていたように見えます。だから、円香には申し訳ないけど結局気の持ちようなところありますよね。いずれにせよ、アイドルにとって円香は重みのある存在であったという事実は、円香自身も否定してはいけないことだと思います。
変化と肯定
あと、GRADでいうともう一つ、GRAD敗退コミュ②後で「思っていたより遠いんですね 客席から見る、ステージ」という言葉がありました。感謝祭のライク・ザ・シーでは透のこっちが見てたって感じという言葉に対して、円香は「見てるぶん、見られてたんじゃない」と返します。透はそれにいいね、って言うんですけど、円香はさいあく。って言いそうですよね。
とここまで考えてみると、透GRADは見られることに対しての話もあったのでそういう意味では円香の自意識と結構繋げられますが、あの幼馴染中での透はどこに行くか知ってて走り出してるって言われるんですよね。そして『天塵』では円香はそのことにこそ怯えます。どこへ行くの私たちや、どこへ行くんだろう、ねぇ透なんて言葉からもそれはうかがえます。
そういう意味で言うと、円香は最もノクチルを象徴しているとも言えるかもしれません。つまり、幼馴染のままがいい、と。小糸ちゃんは言わずもがな、透だってわからんって言いながらどんどん走り出します。雛菜はちょっとだけ違いますけど、円香は変化に対しても過敏です。
考えてみれば内発的動機による変化というのも突き詰めれば外部的要因によって占められているでしょう。意味だって文脈(シチュエーション)によって左右されるのですから。というか、世の中のことの何一つとっても個人の中で完結することはありえないです。そういう意味で言えば変化に対して目をつむっている円香は、変化することを肯定的に捉えるべきなのか、というコミュが今後も続いていく可能性があることをも示唆しているように思えます。
まぁ変化に関して言えば時間が否応なく流れる以上、変わらないってことはありえないんですけどね。そこで透の時間意識は面白い題材かもしれませんが、はてさて。
で、もう少しだけ『天塵』の話なんですが、透にできて私にできないことはないっていうのも、やっぱり最初読んだときは面食らいました。が、円香が優しいという前提に立つと、透にできて私にできないことはないから、透を一人だけ走り続けさせはしないっていう風に考えられるように思えます。ただ、そうは言うものの透と円香は捉え方が違うように見えます。
先程ライク・ザ・シーでも触れましたが、こっちが見てたって感じる透に対し、見られていたと返す円香は受の意識が強いように見えます。対する透は、以前のnoteでも書きましたが、能動的に働きかけることをします(つづく、コミュなので限定の話です)。
やはり、透を考える上では円香が、円香を考えるにあたっては透は切っても切れない関係でしょう。ただ、コミュを読んでる限りだとライターが違うように思える(透と凛世ライター、明るい部屋とかノクチルイベコミュが一緒で三峰と円香ライターが一緒な雰囲気を感じる)ので、まぁ統括している人がいるみたいですけど、そのあたりどうなるんだろうなっていう感じでは見てます。
さて、もう少し視線についていうと、ステージに対してここは本当にアンフェアな場所、という発言や、ステージから見えるのは今日その人が客席にいるという事実だけ、なんてことも言います。だからやっぱり透とは見え方が違うような気がします。また、Pが今日は届くよ、なんていうと、円香は受け取り側が解釈する感じで、ていうそのとおりではあるんだけどなっていう返しをします。やはり、今後も視線に関してはフォーカスが当てられていくんじゃないですかね。GRADだけで全部回収できたと思えないので。
あなたは誰の眼差し?
ここまでメインで話したいと思っていた視線についてはちょいちょいといった触れ方でしたが、視線というところにフォーカスを当てると【ギンコ・ビローバ】TRUEぐちゃぐちゃに引き裂いてしまいたいという発言の意図も見えてくるように思えます。
というのも、偽の選択肢で「それでも、よかった」を選択すると、円香は「この寒いのにアイドルだからって薄手の衣装とかありえない」、っていいます。対するPはスーツを着ている間は精一杯頑張ろうとしています。曰く、スーツを脱いだらそんなにできた人間じゃないからと。
ただ、円香ひいてはアイドルたちとプロデューサーとは明確に違う点があります。アイドルはその身を守るものが常に薄手の衣装でしかなく、常に視線に曝されます。その点、プロデューサーに関して言えば、折り目正しくきちっとしたスーツを着ながら、曝される視線というのはアイドルたちに比べて直接的ではありません。
もちろん、プロデューサーが頑張って仕事を取ってきている描写もよく見受けられますし、全員分のプロデュースを恐らく一人でやっていて、その割には頻繁に現場にも同伴しているしというおよそ人間とは思えないほどの過密スケジュールで働いています。ですが、テレビの向こうの「手が届かない画面の向こう」からの視線はありません。
だからこそ、円香は引き裂かれてしまえばいいと思ったのです。ただ、それだけの理解ではいけなくて、GRADの「椅子の背もたれに」ではどの選択肢を選んでもそれはプロデューサーとしての言葉?それとも、あなた自身の言葉?と疑問を投げかけます。
Pがここではぐらかしたのは、凄まじい危機察知能力というか、こういうとこだけ頭が切れるミスターニュータイプなんでしょうか。ともあれ、はぐらかすということはスーツを着ていたけど自分自身の言葉だったということを示しています。
そもそも独り言という体裁を取ったのも、プロデューサーとしての立場では正解が彼自身わからなかったからです。いや、恐らく正しい言葉として伝えられたかもしれないですが、それはやはり立場の言葉でしかなかったのだと思います。なんていいつつプロデューサー自分自身の「青臭い考え」をよく見せていると思いますけどね。
そしてもう一点、プロデューサとしての自分が言えること、円香のためにできることをずっと考えていた。だけど……というのに続けての独り言という発言でしたが、青臭いと言われようと、円香のあなたのままで間違っていないという言葉を思い出し、きっとプロデューサーとしては違うことを言わないといけないのかもしれないと思いながらも。そういった心持ちが見られるでしょう。
だから、円香はわかっていて聞いたんです。最初に「あなたは、そう思うんですね」って言ったあとに、プロデューサーとしてか個人としてかを尋ねるくらいですから。で、今までのことを踏まえて考えると、今までの円香ならスルーしてたりおめでたいですね、なんて言っていたんじゃないかと思います。でも、今回は八つ当たりせずに、そしてあなた自身の言葉だとわかった上で言葉にしてほしかった。って考えると、恐ろしいほどのプロデューサーの危機察知能力がうかがえますね。なんでや、Pお前透のときは行くぞって湿地連れてったじゃないか。円香にだってそれくらいしてあげてもええやろ!
そんなわけでスーツとしてではなく、っていう意識がきっと円香にもあったはずです。少なくとも、GRADではありました。【ギンコ・ビローバ】ではどうだかわかりませんけど、見ないふりをしていただけでもしかしたらあったのかもしれません。
あともう一つの見どころは、感謝祭では焼き芋の代金を頑なに払おうとした円香が、奢りを受け入れたことですよね。「気持ちを押し付けられても、私は返す気がないのでなるべく受け取りたくない」というのが円香談。受け取る理由があったら?というPに対して、場合によりと答える円香でしたが、今回がその場合によりだったんでしょう。ぐっと距離が近づいたような気がしますが、決勝敗北コミュ②の宛先がない歌、っていうのはファン感謝祭の無に送信とつながるところだったり、あるいは感謝祭最後の誰のためにも歌っていないと繋がると思いますが回収されてないのでどうなるんでしょうかね。これも今後でしょうか。
閑話
と、視線の話やそれ以外の話をここまでしてきましたが、GRADでは期待してたよりは視線について話がありませんでした。ちょうど直近で書いたnoteで透の次回のテーマは時間感覚なのかなぁ、なんて言いましたが、ノクチル全体のテーマとしてアウトプットだったり見られるということも忘れてはならないと思うので、その中でも視線に敏感な少女である円香を起点とするようなシナリオイベントもくるかもしれませんね。
視線といえば、ダウトは衝撃でした。デレすぎというかなんというか、え?ギンビロの次これなの?っていう。共通コミュ、特にwingとGRADは好感は抱いているような描写もあったのですが、いやいやっていうね。しかも、薄着でとかいう円香が私はずっと水着を着ていましたが、なんて言うもんだから面食らいます。
まぁここも好意的に解釈すると、意識して欲しい=スーツを着ていない素顔のあなた、ということになるんでしょうかね。円香の言う隙もそうだという風に解釈することも可能ではあると思います。Pが反撃した悲鳴というのも、別に虫が苦手という事実であって、P自身隙に関して理解できていなかったように思えます。
では円香の隙とはなんだったのか。恥ずかしがる素振りという言葉とその時点での描写からして、水着の依頼を引き受けたことだというのが素直かつ最もらしいものだと思います。が、円香の隙は個人的にはあの会話の全てが隙のように思ってしまいます。Pに撮影の出来を聞いたことも、その場にいなかったと言ったことも、隙を見せても何もしないといったことも、全部が全部隙だらけじゃないでしょうか。
また、ここで注目したいのは、Pに対して撮影の出来を聞いたこと、水着に関して敢えて見ないようにしてたわけじゃなかったんですね、と言ったことです。視線について色々考える円香が、Pにそれを聞くというのはこの時点ではすでに信頼度がかなり高まっているとしか考えられません。なんせ、薄着のアイドルですから。
というわけで今回は以上です。後半急に思いついたのでやや横道に逸れてしまいましたが、今後のSSRコミュ、あるいはサポートカードかイベントコミュか、イベントコミュが一番濃厚な気がしますが、視線についてやそれに付随して透への意識も確認できることを期待しています。
ちなみに透への意識というのは、透GRADで示されたように、透の良くも悪くもすごく見られてしまうような、頑張らなくたって勝手に偶像化されてしまうような透を一人にしないために誰よりも視線、眼差しに敏感になったんじゃないかなっていう。また、透の隣にいるということは否応なしにそれに曝されることだとも思いますし。思えば283プロへも当初は”監視”の名目でしたね。円香は見られる意識を強烈に持ちながら、一方で透に対するような、あるいはプロデューサー、GRADのアイドルへのように、見る存在なのだということなのでしょう。
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