今日の居場所
―銀色の街の風景について―
世の中に信じられるものなんてあるのかどうか、目に映るものなんて、作られた現実だもの。見えない不確かを信じるほうが、見える嘘を否定するより簡単。だって、そのほうが自分の感情を出さなくて済むのだから。
追いかけっこをしてるみたい。
永遠に捕まえることの出来ない私が、息を切らして走れなくなるまで、ずっと追い続けて。そしてそのうち誰も居なくなって、終わる。私は誰一人として捕まえられずに死んでいく…孤独だよね。日常に埋もれている意味を探そうとしたところで、手に出来るものなんて限りあるものだけで、それがどんなに時間の移り変わりを示そうとしたところで、結局過ぎて行くものを止めることは出来ないんだから。最後には、何を追い求めていたのかすら、分からなくなってしまう。そうやって、ただ生きながらえているだけの自分がいることを、否定すら出来ずに。生きるだけ。
「雨の日って街が銀色に見えると思わない?」
雨音が歌う梅雨の季節になっても、僕たちは何も変わらずにふたりで並んで同じものを見つめて歩いていた。そこにあるものがとても遠くに感じてしまっていても、ただ手を伸ばして。
「銀色?」
街の風景は静かに時間を過ごしているように見えて、僕はその色を改めて自分の目に映してみた。ほんの少し、いつもの風景よりも静寂を感じる気がして
「確かに。そうかもしれない。」
と言うと理緒は
「雨の日って陽の光が射さないから、1日中ずっと景色が同じ色だよね。でもね、私は雨の日の夜が一番好きなの。銀色の中にいつもよりもネオンの灯りが滲んで見えるから。」
そうして僕らは夜になるのをずっと待っていた。夜の雨の街はどこかしら寂しい面影を残したまま、雨に反射する灯りが、まるでフィルターを通したフィルムの中の光のように視界に映った。
「いつもの夜景の色と、違う気がするね。」
「そうだよね。晴れている日の夜景の色って、私にはちょっとはっきりとしすぎていて。だって、灯りは作り物なのにね、何も嘘がないみたいに本当のふりをしている気がするから。滲んだ雨の日の灯りは、何だか夢の中みたいでね。」
「夢の中、か。」
「だってまだ、夢を見ていたいから。」
里緒の目に映って反射している雨の夜の街のネオンたちが何重もに光を重ねているとき、僕の目にはその滲んだ風景の1日の移り変わりが確かに映っていた。里緒はずっと、その灯りを見つめたままだった。
<to be continued>