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幸せは毒薬ですか?

幸せになりたい。

しあわせ。毎日のように馳せて時に声になって6畳1間に融ける。しあわせ。なんて曖昧で、掴みどころがなくて、無責任なのだろうか、と思う。幸せになりたい。喉から手が出る程、欲しくて欲しくてたまらない。血が滲む程憎い。ばかやろう。不公平だと思った。

「しあわせって結局のところなんなんだろうね 」。

隣に恋人がいること。おいしいご飯を食べること。ふかふかの布団で、昼過ぎまで眠ること。美しい宝石を身につけること。景色の良い、広い家に住むこと。あたたかな家族がいること。ただいまとおかえり。苦しいくらいに人を愛すること。金曜の夜に飲むビールとか、好きな音に溺れること。或いは、命があるだけで。

――しあわせって、結局お金じゃないですか?

お金もまるでない。バグレベルで人を愛せない、結婚だってする予定もない。容姿に恵まれているわけじゃない、何ひとつ秀でた才能もない。6畳1間はごみで溢れていく。アルコールの量とダサいくらいのリストカットだけが増えていく。悲劇のヒロインにもなれやしない。到底足りないから。家族は引くほど優しいでしょう、友達だっているでしょう、働けるし、少しは趣味に割く時間とお金もあるし、五体満足で大きな病気もないでしょう。身体を売ったことだってないのに。しあわせでしょう、あなたは、しあわせでしょう、ねえ。言われてもないのに声がするから、ふしあわせだとも言えない。きりがない。

幸せはまるで毒薬だ。1度呷れば上を見ることしかできないから、一生苦しいだけだ。それでも要らないだなんて死んでも言えないから質が悪い。こんな毒に頭の先まで浸かってそれで煙草の煙と吐き出す。しあわせになりたい。それみたことか、人間は欲と浅ましさとしあわせのかたまりだ。糞が、糞が。

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