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【追記イラストあり】まろと私
飼っていた猫の話です。ロスの話なども含まれます。苦手な方は閲覧お控え下さい。
私は小さい頃からずっと猫が好きだった。
理由ははっきりとは覚えていないが、一言で言えば一目惚れなんだろう。無条件に愛していた。
もしかしたら前世は猫だったのかもしれない。
「もう猫は二度と飼わないからね」
一番最初に飼った猫が天国に旅立った時、母に言われた。
その仔はある月が綺麗な晩の日、突然やってきた。首輪などはしていなかったから野良猫だと分かった。三毛猫だった。
だが、野良猫にしては妙に人懐っこいし、毛並みも綺麗だ。多分誰かに飼われていたのだろう。玄関に入ろうとしていた。
もちろん入れることもなく、すぐにどこかへ行くだろうと私は半ばガッカリしてた。
というのも私は小さい頃から猫が好きでずっと飼いたいと思っていたからだ。
一戸建てに引っ越しになり、ようやく飼える条件も出来た。絶好のチャンスだった。
私のそんな気持ちを汲み取ってくれたかはわからないが、その猫はいなくなるどころか、人の気配を察して、先回りして存在をアピールしていた。
台所に行けば台所の窓に影、2階に行けば2階の屋根に上り、窓をカリカリと引っ掻く。はたまたお風呂場にまで来てしまった。
猫ながら物凄い執念、根性だと思う。
そんな日々が1週間続き、遂に家族も根負けして、その猫をお迎えすることが決まった。
その日から、生活の中心はその仔中心になった。
会話も自然と増えて、家の中が明るくなっていった。
夢だった猫との暮らしに心弾む毎日だった。日々の辛いことも猫との触れ合いで全部が上書きされ、全てが愛おしく思えた。
そんな日々が1年程続いていたある日、その子の体調が急変し、あっという間に天国に旅立って行ってしまった。別れを惜しむこともなく。
私は気持ちの整理がつかないまま、ただただ悲しみに暮れていた。
もちろん私だけではなく、家族中が辛かった。会話がなんとなく減ってしまった。
特に母は一番長い時間側にいたので、余計にしんどかったのだろう。
だからもう飼いたくないと口にした。
それ以降はなんとなく話題にもならず、数年の月日が流れた。
ある日、職場に一枚の貼り紙が貼られ、チラシも配られた。
ーー子猫の里親探してます。
の文字に2匹の可愛らしい子猫の写真が写っていた。兄妹なのだろうか、毛の模様や顔がそっくりだった。
どうやら1匹は貰い手が見つかりそうだが、まだもう1匹は見つからないらしい。
このまま貰い手が見つからないと、保健所に連れて行かれるとのこと。
保健所に行った後の末路はなんとなく知っていた。
(私が引き取りたい、助けたい)
だが、もう猫は飼わない…飼いたくないと母は言っていた。母も猫は好きだ。多分私より。母は昔から猫がいる生活をしていた。
別れが辛いから嫌なんだろう。母を説得するのは並大抵の覚悟では出来ない。
諦めて、他の誰かが引き取ってくれるのを待つか。そんなのは無理だった。ほっとけなかった。
数日かけて、なんとか説き伏せて迎え入れることが叶った。直筆の誓約書まで書いたくらいだった。
猫を迎える当日、ケージに入れて車で30分程揺られ我が家にやってきた。
知らない場所、知らない人に子猫はとにかく警戒心を強め、じっと睨むように見つめていた。
手をちょっとだけ出すとすかさず猫パンチが火を吹く。爪が食い込み、痛い。
だが、私はそれでも嬉しかった。猫が家にいると実感出来た。
母も一目で子猫にめろめろで、「私はもう世話はしない」と言いながらつきっきりで世話をしていた。
その日から再び家に大きな灯りが灯されたように、見える世界が変わったような気がした。
子猫は「まろ」と名づけた。
まろはとても賢く、トイレも教えなくてもすぐに覚えた。
数日もすると餌の場所も分かっているようで、お腹が空くと貰えるまで鳴いたり、擦り寄ってねだる。
そのねだり方がまた可愛くてあざとい。まさにおねだり上手だ。
猫は元々夜行性でもあり、夜中にトイレに起きる人を見るとにまろは待ち伏せしていて、颯爽と駆け寄っていく。
後にわかったのだが、家族中餌をこっそりあげていることがわかった。特に父はまろに対して寛容で基本的怒ったりしないので、一番懐いていた。
まろは愛情たっぷりに育ち、あっという間に大人の猫になった。
日の当たるところを良く知っているので、日が動くとまろも合わせて移動して寝ていた。
そして私も思わずそんなまろの側でよく横になっていた。時々まろの体に顔を埋め、匂いを嗅いでいた。やや怪しげこの行為は「猫吸い」といい、猫を飼う人なら大体の人がやっていると後から知ってホッとした。大好きな存在の匂いというのは心を落ち着かせる効果もあるから、別におかしくはないだろう。
とは言えまろはちょっと嫌そうな顔はしつつも、爪を出したり噛みついたりはせず、好きにさせてくれた。癒しのひとときであった。
再び猫との生活に毎日がより楽しく鮮やかに染まっていった。
前回の経験も踏まえ、まろに対する健康管理も徹底していた。
餌は必ず猫用のもの。基本ドライフード、人間が食べるものでは刺身以外のものは与えない。
先代の猫の時は求められまま人間が食べるものも与えてしまい、塩分のとり過ぎで腎臓を悪くしてしまったことがあった。
まろにはできる限り元気に、長生きして欲しかった。猫の平均寿命は12年くらいと言われている。
だからきっとまろもそれくらいは生きてくれるだろうと信じていた。
ある夏の暑い日、まろは塀の上で寝ていた。
私の帰宅を待っていたのか、声をかけるとか細い声でにゃんと鳴き、何かを訴えるようにじっと見つめていた。
その日から食事をあまり取らなくなった。
床の間の涼しいところで体を丸めて寝る時間が多くなった。ご飯だよと名前を呼んでも一瞬顔を上げるだけで動こうとしない。
私は一抹の不安に駆られた。先代の猫は呼吸も苦しそうにしていたが、まろは特段そんな素振りは見せなかった。ただ静かに眠っている。
(きっと夏バテ気味なだけだろう。もう少し涼しくなったら大丈夫)
と言い聞かせ、不安を打ち消した。
だが、食事をあまりにも取らないので明日にでも病院に連れて行こうとした矢先だった。食事を寝床に持っていくと、ゆっくりだが、美味しそうに食べ始めた。今考えると相当無理していたんだろう。私はひとまずホッと胸を撫で下ろし、食べ終わるまで少し離れた場所で見ていた。
食事が終わると勝手口の方へ向かった。数日間まともに歩いていなかっただけなのに、その足取りはよろよろとおぼつかない。
庭で用を足したいとのことだろうと、私はドアを開けた。まろは危険がないか左右を念入りに確認しながら、そのままどこかに向かって行った。
それがまろを見た最後の光景になるとは知らないで。
夜になっても戻って来なかった。
朝になっても。
基本的に夜には必ず帰ってくる。一晩いないことはない。今までは一度も。
既に戻っててひょっとして家のどこかにいるのかもしれない。
私は必死に家中を探した。
その後、庭に出てまろがよく行く場所も全部みてみたがどこにも姿は見えなかった。
家の前は道路で、交通事故の可能性もあったが、道路でも発見は出来なかった。
ーー猫は死期を悟るとひっそりとどこかに隠れてしまう。
以前そんな内容が書かれた本を思い出していた。
だが、まろはまだ寿命というには早すぎる。
7年しか生きてないのだから。
まだまだ先は未来はあるのだから、そんな風に思いたくない。
だが、あの体調不良はその前兆だったのだろうか。
一体何が原因なのか。わからない。わからない。誰か教えて欲しい。
色んな感情がないまぜになった。
泣くにも泣けなかった。
いわゆる行方不明、安否確認が取れない状態なのだから。
お別れも言えなくて、気持ちの整理がつけられない。胸の中で、何がぽっかりと空いたような心地だった。
世界が一瞬でモノクロに色を変えてしまった。
数ヶ月経った今でも、気持ちの整理はついていない。
まだどこかで生きて、例え自分達の元じゃなくてもこの世界にはいなくても、幸せに暮らしているならどんなに喜ばしいことだろうか。
それを願っている自分がいる。
そしてまろと過ごした歳月を思い出すと辛く苦しくもなるが、だからと言って出会わなけば、飼わなければ良かったなんて思わない。毎日が本当に楽しく幸せだったから。悲しいだけの過去にしたくない。
今はただ、まろへの敬愛と感謝を込めて言葉を送りたい。
まろと過ごした7年間、毎日本当に楽しかった。私の生きる糧になっていたの。
うちの子になってくれてありがとう。
あなたの幸せを心から願ってます。
私の猫に対する好きは前よりずっと強くなった。
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こちらがエッセイコンテストで佳作をいただきました。
閲覧ありがとうございます。
昨年の入選作品はこちら。
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