月見ル君と僕にゃ宿はなし
1
僕が遠出するとなると、落し物やらなんやらの一つ二つのトラブルに見舞われるのが普通で、それを避けることは不可能の近く、殆どあきらめている。
行きの電車、切符を無くして改札を通れなくなってしまった。駅員さんに聞くと「さいどお支払いいただくしかないですね」冷酷な一言、つっけんどんに突き放されてしまう。
彼女の態度や言葉に侮蔑の念が込められていやしないかと疑心暗鬼になる。だって、一つ目の改札は潜れて、しばらく先にある二つ目の改札、この短い間に切符を紛失したのだから粗忽者にはちがいなく、おっちょこちょいでだらしのないやつと馬鹿にされたって仕方がないのだ。
しかしここはみんなが使うステイション、種々雑多、いろんな人がいる筈。粗忽者だって馬鹿者だって利用者の中にごまんといる筈。
だからこそ馬鹿の相手をするのが疲れたのかしらなんて駅員さんの顔色を伺いながら要らないことを考える。というより彼女はなんの感情も持ち合わせていなさそうである。
高価な切符、重ねての支払いはどうにか避けたいのだという意思をそれとなく伝えると、「先ほど通過した改札へ戻って取り忘れがないかご確認ください」と少し面倒臭そうに彼女は言う。
「大体の人は切符の取り忘れですから」駅員さんはもう後方のお客を見ている。あなたの番はおしまいです、とまでは言われてはないが、そんな気になって、そそくさと来た道を戻った。
来たばかりなのにつかれる。
人が多い、とんでもなく多い、目が回る。
どこからやって来たかも一瞬わからなくなった。
「どこからやって来て、何時にこの改札を通りましたか」それだけを僕から聞きだすと、端末をぺぽぺぽしながら改札をパカっとあけて、そうすると中から切符が出て来た。
あらま。
僕は駅員さんが言った通り、切符を取り忘れていたのだった。お恥ずかしい。
歌わせてもらう書店CITYLIGHTBOOKへむかう。
気持ちを落ち着かせようと今日ご一緒するみらんちゃんの「低い飛行機」を聴く。
イベントでも思わぬトラブルがあったが(ここには書かないけれど)、みらんちゃんの歌が素敵で、自分も楽しく歌えた。
2
同じ過ちを繰り返さないで、やり通せる人間なんかほんの一握りであり、だって普通ならばそういった学習したことって日々の生活に埋もれていくわけで、いざ同じ局面を迎えた時には
既に懐にはなく奥底に埋もれて見えやしない。だから同じ過ちを繰り返してしまうのは致し方ないのさ、と腹落ちさせる力だけがメキメキと成長する。ね、しょうがないさ。
宿から締め出されてしまった。あらま。
前回の東京遠征時もやった。まただ。今度はバンドメンバーもろともである。
本日、月見ル君想フ、この前は街明かりの本屋で今日はお月がバックに浮かぶステージ、月あかり。
バンド編成、共演は東郷清丸、ベランダ。御二方ともとっても素晴らしかった。自分ではとうてい到達しうることができないパフォーマンス。
達人をみると毎度思う。世にはすごい人たちで溢れている。ここにもいる、ここにもいると、画面やインターネットでは伝わらない、人間の確かな凄みがある。
だからといって腐ることはない、腐ってはいけない。僕は僕の光を放たなくちゃいけない。誰も来れないところへ。
終演後に共演者やお客さんとお喋りしていたら、こんな時間。あら、時間がない。みんな車に乗って、到着はギリギリになりそう。ここをこう行ってこう行ってこうこう、、(僕はただゆられているだけ)
バンドメンバーみんなでとった大部屋、なんだか合宿みたい、コントラバス弾きの加藤さんはトランプを持って来たという。まだほんの一杯しかビールを飲んで無かったから部屋に帰ったら買い込んであらためて呑もうかしらと考えていた。腹も減った。
光り輝く宿、だけれど扉が閉められている、入れない、電話をかけるも応答なし。あらま。チェック時間は過ぎている。
日付が変わった頃、他に宿もあるはずもなく。どうしたものか。運転してくださってる加藤さんは、このまま京都まで帰るのでもいけますよ、と言うがどう考えても辛い。(バンドメンバーは当日車でやってきたのだ)
結局、銭湯、休憩所つきのサービスエリアで夜を明かして翌朝出ることにした。サービスエリアに向かう道中、ビル群の隙間からは夜を照らす東京タワー、やっぱりこの街の象徴は君さ。
その上にはぷっかり浮かぶお月。ステージにあったみたくまんまるでないやつ。
慰められているのか責めたてられているのかよくわからない都会の風景だ。
足柄、藤川サービスエリア、清水ジャンクション、、結句楽しい楽しい帰り道となった。宿をなくしても楽しく過ごせるもんであるなあ。
宿なし写真集