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     ぐうたらのあなぐら

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日常で思ったこと自由に書きます。ここはぐうたらのあなぐらです。
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2024年12月の記事一覧

白い時間

白い時間

センセイはしきりにごめんねと謝り、大丈夫?と何度も言った。
12月25日の夜だからか、もしくは彼女の口癖なのだろう。
僕の横に座った彼女から、外の匂いがした。
おでんの汁と具のあいだから鯉が見える。センセイの方の器には日本猿が沈んでいる。
彼女はちくわにたっぷり辛子をつけて半分食べ、頬に手を当てながらおいひいと言った。
一軒目でたくさん食べたからと、センセイはおでんのちくわと昆布だけで、夕飯がまだ

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背中の穴

背中の穴

実家で久しぶりにゆっくりしていると、早めに帰ってきていた兄が僕の部屋の方に血相かかえてはいってきた。
「背中?」
背中を見てほしいのだという。
表で子供達と遊んでいたら尻餅をついて背中を打ちつけてしまったらしい。
かなり痛むそうで、顔を歪めながら僕に背を向ける。
この部屋には絆創膏一つありやしないのだから僕に見せたって仕方ないだろうと思ったがとりあえず見てやることにした。
彼は自分で服を捲った。

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チョコレイトで待ちながら

チョコレイトで待ちながら

「チョコレイトいります?」
駅のホームでおそらく知らない女性に声をかけられた。
以前どこかで会った人なのだろうと頭をスクランブルエッグみたいにかき混ぜてどうにかこうにか、彼女を思い出そうとし、大抵そういった場合、僕はコミニケーションがちぐはぐになってしまう。
自責の念と、どうにかやり過ごせやしないかという助平ごころとがごちゃまぜとなって平静を装えないのだ。
彼女の方からどこそこあれこれの時はどうも

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私たちブラウニーで会いましょう

私たちブラウニーで会いましょう

「いまどきブラウニーを知らない人なんていないよ」
出会ったばかりの女性に笑われた。
その日は笑われてばかりだった。
はたしてそうだろうか。僕はそのブラウニーというものがそれほど世間に浸透しているとは信じられなかった。
適当に入った喫茶店。何度も前を通ったことがあったが、入るのは初めてだった。
流行のグループや映画を悉く知らない僕に最初は驚いて、それからけたけた笑い、覚えたほうがいいよ、その方が絶対

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