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ジョージアで見つけた未来

1月からの一ヶ月間、ほとんど馴染みのなかったジョージア・トビリシで「ノマドニア」のワークショップに参加していた。10職種のノマド向け職業を実践形式で学ぶ、いわば「職業体験型ノマド塾」のようなものである。

ある日、SNSでたまたま見つけて、「こんなプログラムがあるなんて」と妙に心が騒ぎ始めたのを覚えている。

ジョージアからフィンランドへ

その心の騒ぎの源泉は、昨年のフィンランド一人旅にさかのぼる。

空港から静かな電車に乗って向かったヘルシンキの街並み、少し足を伸ばせば姿を見せる森や湖、寝台列車でたどり着いたロヴァニエミ、サンタ村で言葉を交わしたサンタさん、そして二日連続で拝めたオーロラ。そのすべてが眩しくて、心が踊りっぱなしの日々だった。日本に帰国してからも、毎日のように思い返しては胸が熱くなるほど、強烈に焼き付いていた。

日本は安全で快適だし、ごはんも驚くほど多彩でおいしいし、人の細やかな気遣いにも何度となく助けられてきた。ただ、時々「自分と違う人を受け入れない空気」のようなものに息苦しさを覚えることがあった。留学経験の話をすると外国人扱いされるのには、会社員時代に慣れてしまっていたものの、自分が本当にありのままでいられる場所を無意識に探し続けていたのかもしれない。

また、歩いているだけで情報が目にも耳にも飛び込んでくる東京の街では、何かしなきゃと急かされているような気持ちになることがあった。ヘルシンキ・ヴァンター空港に降り立ち、電車のホームから車内に乗り込んでヘルシンキ中央駅へ向かうあいだ、静けさの中でそんな心のざわざわが削ぎ落とされていった。その体験がずっと記憶に残っていた。「音が少なく、広告の呼び声も静かな世界」がどうしても忘れられなかったのだった。

もともと、会社員から独立して、フリーランスのコーダーとしてリモートワークをしていた私だが、「自分が本当に心からやりたいことって何だろう?」と考え始めた時期にノマドニアの存在を知った。公式サイトによると、開催地はジョージア、バリ、韓国。韓国は行ったことがあるから、行ったことのない国で挑戦したい。でもジョージアって、アメリカの州かな? いや違うらしい・・・どうやらヨーロッパとアジアの境目らしい。

ジョージアでは既にノマドニアのワークショップが30回以上開催されていて、どうやら一番盛り上がっていそうだ。ジョージア暮らしを経てフィンランド生活の夢を叶える。前例はなさそう。もし同じ計画をしている人がいたら即友達になりたいくらいだが、そんなレアなルートも面白そうだと思った。

ところが、私が最短で申し込めるのは1月。
1月のジョージアの気温を調べると、なかなか寒そう。「それなら暖かいところに行きたい!」と思い、あっさり第一希望をバリにして選考に申し込んでしまった。すると定員オーバーで落選。第二希望だったジョージアを打診され、「やっぱり私はジョージアに行く運命なのね」とジョージア行きを決めた。

画面越しの仲間、現地での再会

渡航前には何度かZoomミーティングがあり、同期の顔を事前に見ていたが、オンラインで見ていた人たちが実際に目の前に現れると、なんとも言えない安心感があったのを覚えている。

私と同じく「ジョージア=アメリカの州?」と思っていた人は多いようだが、海外経験が豊富で、想定外のハプニングにも動じなさそうな、たくましい印象の人ばかり。

私の自己紹介は、中国とアメリカに留学していたことや、日本で会社員を経てフリーランスになったこと、そして北欧にも住みたいという、ふわっとした野望があるといった内容。「本当にやりたい仕事を見つけたい」という勢いだけで飛び込んだため、まだ自分の言葉できちんと説明しきれなかった。

それでも、とにかく「やるからにはすべての講座に真剣に取り組もう」とだけは決めてきた。

10職種に真剣に挑む

ノマドニアに参加したからといって、自動的にやりたいことが見つかるわけではない。それはどんなプログラムやスクールでも当然だ。
私は、何かを見つけるために、あえて苦手そうな職業でも全力で挑戦することにした。

たとえばデザイン。コーディングを学び始めた頃「コーダーにとってデザインは切っても切り離せないし、一人で両方できたら最強!」なんて思いがあった。が、デザインをやってみると、お腹が痛くなるほどの苦手分野であることが分かった。ノマドニアでは、理論を学んだらすぐ手を動かす実践に突入する。10作品近くを2日間で作り上げるという、今までにないハイスピードぶり。悩んでいる暇がない。とりあえず、悩むのをやめて必死に手を動かしてみたら、意外と形になっていた。作品が完成して「あれ?案外できる」と思った瞬間、初めて「デザインって楽しいかも・・・」と思った自分がいた。

その他の職業に関しても、体験してみると「まったくダメ」というものは一つもなかった。
ただ、「できるけど好きじゃない」ものもあるし「これは続けたい」と思えたものもある。その微妙な違いがクリアになった。丸ごとその職業が得意・苦手というより、「この工程は得意だけど、ここは疲れる」というふうに、自分の心がどう反応するかが見えてきた。

異国で見つけた目標と、「今を生きる」感覚

ジョージアで暮らすあいだ、過去を思い出して落ち込んだり、先のことを考えて不安になったりする時間が少なかった。理由はいくつかあるが、まず日本で感じていた「守られている感」が薄れた分、自分の身を自分で守らなくてはと意識が研ぎ澄まされていた。街を歩くだけで予想外の出来事に遭遇するし、そのたびに小さな教訓を得ることになった。さらに、かわいい丸文字のようなジョージア語はさっぱり読めず、情報も限られている。逆にそれが自分と向き合う時間を増やし、「今」に集中して生きる感覚をもたらしてくれたように思う。

課題をやっているうちに、気がつけば夜になっている日も少なくなかったが、半月を過ぎた頃、課題に追われるだけでこのジョージア滞在を終わらせたくないと焦り始め、「この滞在期間で掴めるものは全部掴みたい」と心に決めた。そこで、一日のどこかに必ず、自分と向き合い、自分の心を言語化する時間を作った。
言語化する際には、生成AIに助言をもらったり、講師や仲間に相談したりもした。そうしているうちに、生成AIの面白さにもはまっていった。

最終日を迎えた時には、ふわっとしていた目標がはっきり定まっていて、いつの間にか「私は日本・中国・フィンランドを行き来する三拠点生活がしたい」と具体的に語れるようになっていた。生成AIを本格的に仕事にするためのオンラインキャンプにも申し込んだ。一ヶ月前には想像もしていなかった未来だ。

また、参加前は、ノマドニアを終えたら一度日本に帰国して、落ち着いてから次のステップに進むつもりだったが、気がつけばワルシャワで幼い頃からの夢だったショパン聖地巡礼までさくっと叶えてしまい、今フィンランドでこの文章を書いている。「いつかやる」が「今やる」に変わったのは、異国の地で新しい挑戦をしながら、日々「今を生きる」ことを続けてきたからだと感じている。

同期という特別な存在

そして、私を支えてくれたのはジョージアで出会った同期たち。みんな価値観がバラバラで、行きたい場所も目標も違う。でも「違うから排除する」ではなく、「違うから面白い」という空気が当たり前にあった。

私の場合、一人一人とゆっくり会話をする余裕がないくらいの大人数の集まりが苦手で、親しい人と少人数で語り合うほうが好きだ。それに、一日の中で必ず自分だけの時間を持ちたいタイプでもある。ワークショップの講座が終わると、課題をカフェや自室で黙々とやったり、街をひとり歩きすることも多かったが、同期たちは自然に受け入れてくれていた。タイミングが合えば「一緒にごはん行こう」と誘ってくれるし、離れていても特に気にしない。こんなふうに、常に自然体でいられる関係は心地よかった。「そんなに褒める!?」と笑ってしまうくらい、私が何をしても褒めてくれる同期もいて、嬉しいやら照れくさいやら、でも本当にありがたいなと思った。

ある時、すでにカメラマンとして働いている同期にお願いして、私のジョージアでの思い出を写真に収めてもらった。もう一人の同期も撮影場所に駆けつけ、私のコートやバッグを預かっては、風で乱れた髪や服を直してくれるなど、寒い中付きっきりでサポートしてくれた。そして、撮影中は二人で「かわいい!」と連呼してくれていた。あの日の光景は、とても愛おしい思い出になった。

また別の日には、3人で一緒に住んでいる同期の宿に招かれ、晩ご飯をご馳走してもらった。ジョージアに来て一番「おいしい!!」と素直に思った。心もほかほかに満たされた。

一度、トラブルに巻き込まれて怖い思いをした時も、まったく別の場所にいた同期たちが予定を中断して駆けつけてくれた。駅の前でその姿を見た瞬間、安堵で涙が出そうになった。こんなふうに支えてもらえたことで「私も、大切な人が困っていたら、迷わず飛んでいく人になろう」と心から思った。

ジョージアを旅立つ日

ノマドニア最終日、私が同期の中で一番早くジョージアを離れることになった。日本人が多く集まる「のぞみバー」で同期たちと乾杯して、私が空港に行く時間がやってきた。

見送りのタイミングで、一人の同期の目がウルウルしているのが見えてしまい、私もつられて泣いてしまった。でも、それだけではなかった。「自分が旅立つことを、こんなにも惜しんでくれる人たちがここにいる。そんな仲間が、たった一ヶ月でできたんだ。」という事実に胸がいっぱいになり、さらに涙が止まらなくなったのだ。

あれから3日後。早朝のワルシャワを後にし、ヘルシンキへたどり着いた。同期たちも、これからトビリシを離れ、それぞれ違う都市や国へ向かおうとしている。

同期たちとは毎日連絡を取り合っている。離れていても、お互いを応援して高め合えるこの関係は、本当にかけがえのないものだ。
またどこかの国で再会できる日を楽しみにしている。その日までに、ジョージアにいた時よりも、ずっと成長した自分になろう。

最後に

ノマドニアを通して「これは意外と楽しい」「これは続けたい」「これは合わない」といった発見を一つ一つ積み重ねながら、ワークショップでも普段の暮らしの中でも思考し続け、「今できることをやろう」「ベストを尽くそう」と行動していくうちに、自分が進みたい道がいつの間にか明確になっていた。

そして、何よりも大きかったのは、心から信頼できる仲間と巡り合えたこと。この得難い環境を作ってくれたノマドニアに心から感謝している。

もし今、海外で暮らしてみたいとか、ノマド的な働き方がしてみたいとか、行動を起こしたい気持ちがあるのなら、この私の体験がほんの少しの後押しになれたら嬉しい。

ちなみに、もしノマドニアそのものに興味が湧いたのなら、運営から紹介コードをいただいたので、ここにこっそり置いておく。ge1135

私の夢への挑戦は始まったばかり。
この一ヶ月で得た「今を生きる勢い」で、これからも駆け抜けていきたいと思う。

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