三題噺「林檎、人参、タバスコ」
「おい、生きてるか?」
「ああ、なんとかな。クソ、痛え。下半分持っていかれちまった。一思いにやれってんだよな。」
そういうと林檎は、ラップに包まれた断面をさすった。
「一体なんに使われたんだ。」
「それがな、カレーの隠し味とかでよ、俺の半身をミキサーにかけて入れやがった。」
「そうか、それはなんとも。」
それを聞いた俺は少し身震いした。そうしてまた林檎に質問した。
「人参は、、人参はどうした。」
これはあまりに聞き難いものであったし、何より答えなどとうにわかりきったことであったが、俺はそれを聞かずにはいられなかった。人参は短いながらも友人であったからだ。
「いっちまったよ、、あまり言いたくはねえけどよ、皮を剥かれて切り刻まれてたよ。見てられなかったぜ。まぁ、玉葱よりはマシな最後だったと思うけどよ。」
バツの悪そうな顔で林檎はそう言った。彼なりに言葉を選んだのだろう。俺は何も言えなかった。
このちっぽけな世界で俺たちは無力だ。いたずらに鮮度という理由で、林檎や人参などの野菜たちは生きたまま保管されている。巷ではサラダなる地獄の料理があるそうだが、この世界のヌシはそれを好まないようで、肉やら魚やらの付け合わせになることが多い。
周りの食材諸君に言えばすこぶる皮肉に聞こえるかもしれないが、最近、俺は食材でないことに少しばかり安心している。どうやら俺はなかなか使う機会のない調味料らしいのだ。亡き人参が言うには俺はタバスコという調味料らしい。まだもう少しは生きられそうだ。
「そういや、あんた長生きだろ?どれくらいいるんだよ?」
黄色がかった断面を撫でながら、林檎は俺にそう聞いた。
「んー、俺はもう二年ほどいるな。」
すると林檎はアッとした顔でこう言った。
「あんた、期限切れだぞ。」
林檎の言葉を最後に大きな扉がゆっくりと開いた。