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群青先生

突然だが、私の学校には群青先生がいる。何を言っているのか分からないと思うのだけれど、名前の破壊力は大いにあると思う。

  蓋を開けてみれば、ただ青いシャツをいつも着ている、痩せ型の、無精髭を生やした30歳の先生なのだが、どうも少し変わっている。

  いつも理科室にいて、生徒が居ようがお構い無しに、悠々とタバコを吸って、フラスコで沸かしたインスタントコーヒーを嗜む。道徳的には悪いのだろうけども、そんな彼を慕う生徒は少なくない。かくいう私もその生徒の内の1人なのだ。

  少し前、私は先生に「自由気ままでいいですね」と、少し意地悪なことを言ったことがあった。その頃の私はと言うと、学校生活が少し上手くいっていなくて、当たれるものには嫌味を言うようなひねくれ者であった。
  そんな私の嫌味を、先生は鼻で笑いながら煙をひと吹きして

   「まあな、これくらいしないと続かないさ。堅苦しく考えすぎなんだよ、お前たちは」

  と言った。

  そして、「カフェオレでも飲め」と、フラスコでお湯を沸かし始めた。私はすこし納得いかなかったが、とりあえずいただく事にした。  
     
  白茶色の液体がマグカップに並々と注がれた。ふうふうと冷まして、ゆっくりと口に流し込んだ。甘くほろ苦い味が鼻腔を抜けて、すっと胸が温まるような感じがして、少し落ち着いた。ちょっと落ち着いたら、なんであんなことでカリカリしていたんだろうかと、少し気が楽になった。

  「いつでも飲みに来たらいい、俺は何も言わん。」

  サラっとこんなことを言って、先生はタバコの火を消して「後片付けはしろよ」、と捨て台詞を吐いて理科室を出ていった。

  それからというもの、私の悩みは、なんだか軽いものへと変わっていった。私にもよく分からない、群青先生の言葉が刺さったわけでもなかったし、あのカフェオレに感動したわけでもない、、、と思う。
  ただ、確実に言えること。それはきっと、先生のカフェオレを飲む時間が、初めての息抜きを覚えた瞬間だったということ。ただそれだけ。

  今ならわかる気がする。先生の言葉も、あの日のカフェオレの意味も。そんな話をしても、先生はただ笑ってタバコをふかすだけなのだけれども。やっぱり先生は、不思議な先生だ。



  群青先生は今日も理科室にいる。


 タバコを吸って、ビーカーでコーヒーを沸かす。



  私は今日も理科室にいる。


  甘いカフェオレを片手に物思いにふけて。



  何も喋らないけど、それでいい。


  何も喋らないけど、それがいい。


  
   

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