2:母の書く字に似てきた気がする
自分の字が、いつの間にか
母の書く字に似てきたことに気が付いたのは
最近のことです。
僕はずっと母の字が好きで
丸っこくて、ゆるやかな文字は
僕を安心させました。
ひらがなの「す」が似てきたように思う。
幼い頃に持ち物のひとつひとつに
油性ペンで名前を手書きしてくれた母の姿と
その文字のそれぞれの佇まいを思い出します。
自分の書く字が好きではありませんでした。
筆記具や紙が変わる度、
その日の気分や体調によって
文字の雰囲気が変わりました。
そういう人は多いと思う。
あとからノートを見返して
とても同一人物が書いたとは思えないほど
多種多様な文字が並んでいるのを
面白いと思えればよかったのですが
僕には、常に同じような字を書けないことが
気持ちの悪いことでした。
大きくなるにしたがって
持ち物に名前を書くことも
書類を書いてもらうこともなくなって
母の文字を見る機会は減っていきました。
実家を出てから、母に手紙をもらうようになりました。
母の書く字は昔と同じでした。
手書きの文字を見ることが少なくなって
今の子供たちは持ち物に名前を書いたりしないのでしょうか。
母の字に似てきた僕の字は
それでも日によってばらばらだけど
母に育てられたことを思い出すことができる。
離れていても大丈夫だと、
そう教えてくれている気がします。