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課長「お客様に喜んでいただく。部下も守る。両方やらなくちゃならないってのが上司の辛いところだな」|『ザ・リング』(2)
前回に引き続き、映画「ザ・リング」をベースに新しい物語を妄想します。
※「ザ・リング」のストーリーなどについては、前回の記事をご参照ください。
妄想開始!
嘉村 それではまいりましょう!
三葉 はい。
嘉村 「ザ・リング」は、見た者を1週間後に呪い殺す「呪いのビデオ」の謎に迫るホラー作品ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……さて!どんな物語にしましょうか?
案①
三葉 まずは、「ザ・リング」風の物語を作る時に注意すべきポイントを確認しておきましょう。
三葉 ……ですね(より詳しくは前回の記事で)。
嘉村 ふむふむ。
三葉 さて以上を踏まえて「案①」ですが……ズバリ!「仕事一徹だった刑事が、妻にかかった呪いを解くために『妻のためなら何でもする夫』に成長する物語」です。
嘉村 ほぉ。刑事が主人公ですか。
三葉 はい。ここではA氏と呼ぶことにしましょう。
嘉村 ふむ。
三葉 A氏は仕事熱心な刑事です。地味で泥臭い仕事も厭わず、朝早くから夜遅くまで駆け回っている。立身出世が上手いタイプではありませんが、上司からは頼られ、部下からも慕われています。
嘉村 なるほど。
三葉 さらに「罪を憎んで人を憎まず」を地で行く人情派で、職業詐欺師や暴力団関係者の中には「自首する時にはA氏に手錠をかけてもらいたい」と考えている者も少なくありません。
嘉村 ほぉ……。
三葉 「旦那は、あっしらを1人の人間として扱ってくれる。礼なんてできる立場じゃないが……せめてあっしを逮捕して手柄にしてください」って具合ですね。
嘉村 あー、なるほど!「はぐれ刑事純情派」の路線ですね。アレだ、藤田まことさんだ!
三葉 一方、誰よりも仕事熱心で手を抜くことを知らぬということは……。
嘉村 あっ、家族がないがしろになっている!
三葉 ええ、その通りです。A氏はいつも忙しい。彼の妻は、旦那の立派な仕事ぶりを誇りに想う一方、寂しさを抱えています。
嘉村 なるほどねぇ。
三葉 子どもがいるとか、あるいは近くに親兄弟が住んでいれば話は別なんでしょうが……A氏夫婦に子どもはいません。また、妻の両親は早々に他界している。さらに、妻は山奥の寒村出身なので近くに親戚や友だちもいない。
嘉村 それは寂しいですね。
三葉 さて!
嘉村 はい。
三葉 そんなある日のことです。A氏の妻が体調を崩す。
嘉村 ほぉ。
三葉 最初はただの風邪だろうと思っていたのですが……どうも様子がおかしい。顔は青白く、立っているのもままならない。そして日に日に弱っていく。
嘉村 ふーむ。
三葉 医者に行っても首をひねるばかり。結婚してから20年ほど経ちますが、こんなことは初めてです。A氏は困惑する。
嘉村 ふむふむ。
三葉 そしてしばらくすると、妻の背中に奇妙なあざが浮かび上がってくる!
嘉村 ほぉ!
三葉 どうやらそれは妻の出身地……ここではB村と呼びましょう。そのB村の地図のようです。これはもう明らかに異常です。ただの風邪や病気でない。A氏は迷信深い方ではありませんが、何かしらの呪いや祟りが原因ではないかと考える。そして謎を解く鍵はB村にある!
嘉村 ふむ。
三葉 A氏は実妹を呼び寄せ、妻の面倒を見るよう頼みます。そして1人、B村に旅立つのです。かくして、A氏の冒険が始まります。
嘉村 なるほど。
三葉 A氏は電車とバスを乗り継ぎ、数時間かけてB村に到着します。早速妻の親戚や、村の派出所の警官に事情を説明して何か心当たりがないか聞いて回りますが……どうもおかしい。
嘉村 ほぉ。
三葉 非協力的な上、何か隠しているように見える……怪しげな雰囲気です。
嘉村 ふむ!「はぐれ刑事純情派」かと思いきや、「八つ墓村」か「トリック」かという雰囲気になってきましたね。
三葉 しかし、そこはベテラン刑事のA氏。巧みな話術と推理力を駆使して真相に迫っていきます。
嘉村 おお!今度は「古畑任三郎」や「相棒」の路線ですね。
三葉 そして、徐々に真実が明らかになっていきます。すなわち、こんな具合。
三葉 A氏は、夫に虐殺されたその女の想いを知り、自分のこれまでの生き方を反省します。
嘉村 ふむ。
三葉 彼は妻に暴力を振るっていたわけではありませんが、しかし、「夫に十分愛されない妻の寂しさ、悲しみ」は、A氏の妻にも共通するところでしょう。
嘉村 なるほど。
三葉 さらに妹からの連絡によると、妻の体調は刻一刻と悪化しているとのこと。もうほとんど時間は残されていないようだ。……かくしてA氏は変わります。
嘉村 ほぉ!
三葉 非協力的な村人を殴り、蹴り飛ばす!さらには、「言いたくねぇか?なぁ、オッサン。言いたくねぇか?だったら仕方ねぇなぁ。おまぇの体に訊くことにするぜ」なんて言って、拷問にかけることも辞さない!
嘉村 おおっ!「西部警察」……いや、違うな。もっと過激に、うん!「県警対組織暴力」の菅原文太さんだ!
三葉 とまぁ、こうして呪いの真相にたどり着き、最後は妻の命を救うことに成功するわけですが……。
嘉村 ええ。
三葉 さて、以上「案①」のストーリーを「ザ・リング」と比較する形で整理しておきましょう。
嘉村 ふむふむ。「ザ・リング」が、「レイチェルが『呪いのビデオ』の真相に迫る中で → サマラの想いを知り → 自分の生き方を反省 → 『母親らしさ』を獲得する」物語であるのに対して……。
三葉 はい。「案①」は、「主人公が『妻にかかった呪い』の真相に迫る中で → 夫に虐殺された女の想いを知り → 自分の生き方を反省 → 『妻想いの夫』に成長する」物語です。
嘉村 なるほど!
三葉 「案①」と「ザ・リング」は、一見するとまったくの別の物語です。しかし、ストーリーの構造に注目するとじつはそっくりだということをご理解いただけたかと思います。
案②
嘉村 続いて、「案②」にまいりましょう。
三葉 はい。「案②」は、「ブラック企業の課長が、部下らにかかった呪いを解くために『お客様に喜んでいただく。部下も守る。両方やらなくちゃならないってのが上司の辛いところだな』と奮闘する物語」です。
嘉村 今度は、ブラック企業が舞台ですね。
三葉 はい。主役は課長です。彼は元々悪い人ではないのですが……。
嘉村 ええ。
三葉 何しろ企業の体質がブラックですからね。社風もあるし、これまでの習慣もある。そして彼自身が激務に忙殺されていることもあって……部下にきつく当たったり、乱暴な指示を出してしまったりしています。
嘉村 なるほど。
三葉 そんなある日のこと。いつものように徹夜で仕事をしていると、部下の1人が何やら奇妙なことをブツブツ呟き出します。
嘉村 ほぉ……。
三葉 深夜のテンションで意味不明なジョークを飛ばしているのかとも思ったのですが……どうもおかしい。まるで何かに取り憑かれたかのように見える。そして直後、高熱で倒れてしまう。
嘉村 ふーむ。
三葉 翌日も、また別の部下が奇妙なことを口走り、高熱でぶっ倒れる。……こうして彼の部下は1人また1人と減っていきます。
嘉村 ふむふむ。
三葉 最初は「連日の無理が祟ったのだろう」、「1日休めば元気になるさ」と楽観視していたのですが……。
嘉村 ええ。
三葉 いつまで経っても熱が引かず、なかなか会社に出てこない。彼は心配になり、激務の合間をぬって見舞いに行く。そして、会社のかかりつけの医者に話を聞いてみる。
嘉村 ふむ。
三葉 そうこうする内に、課長は気がつく……それが単なる体調不良ではなく、何やら超自然的な呪いだということに!
嘉村 ほぉ!
三葉 かくして課長の冒険が始まります。
嘉村 なるほど。
三葉 部下たちが口走った言葉をヒントに調査を進める内に、いくつかのことが明らかになります。すなわち……。
三葉 こうして課長は、旧日本軍の上官がいかに粗暴で、下級兵士がどれほど苦しんでいたかを知ります。そして、それを反面教師としてこれまでの自分のマネジメントを反省するに至ります。
嘉村 なるほど!
三葉 さて、以上のストーリーを「ザ・リング」に沿って整理してみましょう。
嘉村 「主人公が『部下たちにかかった呪い』の真相に迫る中で → 旧日本軍の下級兵士の想いを知り → 自分のマネジメントを反省 → 『部下想いの上司」に成長する』……ふむ!
三葉 ところで……「ザ・リング」には、「レイチェルが『子ども想いの母』に成長したこと」を象徴するシーンがあります。
嘉村 ほぉ。
三葉 すなわち、「レイチェルが仕事を休むシーン」です。物語冒頭の仕事熱心な彼女からは考えられぬことですが……レイチェルはエイダンに向かって、今日は一緒にのんびり過ごそうという風に微笑みかけるのです。
嘉村 ふむふむ。
三葉 「案②」にもこんな象徴的なシーンがほしいと思い、アレコレ考えた結果がこちら!……物語終盤、部長が、課長に向かって言います。「きみのところの○○くんたち、もう1週間も休んでるねぇ。このままだときみの評価にも関わるよ。……わかるね?部下を切るのも上司の仕事だよ」。
嘉村 うーむ……酷い。
三葉 それに対して、課長はニコリと微笑んで「ご忠告ありがとうございます」。そして部長を殴りつける。部長がひっくり返る。
嘉村 おお!
三葉 辺りがシンと静まり返る中、課長は肩をすくめて、「お客様に喜んでいただく。部下も守る。両方やらなくちゃならないってのが上司の辛いところだな」と呟く。
嘉村 おお!どこかで聞いたことのあるセリフですが……カッコいい!!
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クリエイター向け:「ザ・リング」の構造を使って、オリジナルストーリーを考えよう!!【1】
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
(担当:三葉)
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