約15分間続く「クロスカッティング」を徹底分析!!|『見知らぬ乗客』に学ぶテクニック
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本記事では、「見知らぬ乗客」に【クロスカッティングの使い方】を学びます。
※「見知らぬ乗客」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。
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「クロスカッティング」とは?
本記事では、「見知らぬ乗客」の終盤、「『クロスカッティング』が見事に活用されたシーン」を分析します。
まずは、クロスカッティング(Cross-cutting)についてご説明しましょう。
はて、クロスカッティングとは何か?
それは、「異なる場所で起きている2つ以上のシーン」を交互に繋ぎ合わせる編集テクニックのことです。
……と言うと何だかややこしそうに聞こえるかもしれませんが、さにあらず。映画やドラマ、アニメなどでお馴染みの手法です。
例えば、「『主人公が、犯人の隠れ家に向かって走る場面』と、『犯人が荷物をまとめ、逃走しようとする場面』が交互に映し出されるシーン」。
鑑賞者は「果たして主人公は、犯人が逃走する前に隠れ家にたどり着けるのだろうか?」とハラハラドキドキして、画面に釘づけになるでしょう。……これです!これがクロスカッティング。
「主人公が、犯人の隠れ家に向かって走る場面」だけでは、このハラハラドキドキ感は生まれませんよね。「主人公が、犯人の隠れ家に向かって走る場面」と「犯人が荷物をまとめ、逃走しようとする場面」が交互に映し出されるからこそ、鑑賞者は手に汗を握る。
つまりクロスカッティングには、「鑑賞者を物語に引き込む効果」があるのです。
キャラとあらすじをご紹介
本記事で分析するのは、「『遊園地へ向かうガイ』と『遊園地へ向かうブルーノ』が交互に映し出されるシーン」(約15分間)です。
まずは前提知識として、「キャラ」と「あらすじ」をご紹介しましょう。
<ざっくりキャラ紹介>
▶ ガイ:20代半ば頃の男性。テニスプレイヤー。妻と離婚協議中で、離婚後に別の女性(アン)と結婚する予定。
▶ ブルーノ:ガイより少し年上(30歳頃?)の男性。富豪の子息。じつは精神異常者。
<あらすじ紹介>
(1)
・ある日、ガイとブルーノが偶然出会う。
・ブルーノは「交換殺人」(ブルーノは「ガイの妻」を殺害/ガイは「ブルーノの父」を殺害)を持ちかける。
・ガイは冗談だろうと考え、相手にしない。しかしブルーノは、早々にガイの妻を殺してしまう(殺害場所は遊園地)。ガイはショックを受ける。
(2)
・ブルーノが言う「次はきみの番だぞ」。ガイは拒否する。しかしブルーノは、何度も何度もガイの前に現れ、「早く父を殺してくれ」と催促。
・さらに、警察はガイを疑う(ガイには妻を殺す動機があり、かつアリバイがない)。
・その後いくつかの出来事を経て、ブルーノはようやく理解する「ガイは交換殺人に応じる気がないようだ……」。
(3)
・ブルーノは、ガイの「裏切り」を許さない。ガイが殺害現場にいた証拠を捏造することで(遊園地に、ガイのライターを置くことで)、警察にガイを逮捕させようとする。
・ガイは、ブルーノの企みに気づく。そして、ブルーノを捕まえてライターを取り返そうと考える。
・とはいえ、ガイは警察にマークされている。下手に動けば逮捕されるおそれがある。そこで考える「何食わぬ顔でテニスの試合に出場し、警察を油断させよう。そして試合後に、警察の目を盗んで遊園地へ向かい、ブルーノを捕まえるのだ。ブルーノは、人目につかぬよう日没後に行動を起こすだろうから、早々に試合を終えれば十分に間に合うはずだ」。
……こうして、本記事が分析するシーン、すなわち「『遊園地へ向かうガイ』と『遊園地へ向かうブルーノ』が交互に映し出されるシーン」が始まります。
改めて確認しておきましょう。ガイの目的は、「①テニスの試合に出場して素早く勝利を収め、②警察に逮捕されることなく、③日没までに遊園地にたどり着き、④ブルーノを捕まえること」。
換言すれば、鑑賞者は「ガイは試合で、素早く勝利できるだろうか?」「警察に逮捕されることなく移動できるだろうか?」「日没までに遊園地にたどり着けるだろうか?」「ブルーノを無事捕まえられるだろうか?」という関心を持って、画面を見つめることになる。
一方ブルーノの目的は、「遊園地に向かい、日没したら殺害現場にライターを置くこと」です。
すべての「クロスカッティング」をチェック
ここからは、「『遊園地へ向かうガイ』と『遊園地へ向かうブルーノ』が交互に映し出されるシーン」について、詳しくご説明していきましょう。
まずは以下の図。これは「当該シーン中のすべてのクロスカッティング」をピックアップし、整理したものです。
【ガイのテニスの試合が始まる → ブルーノが自宅を出発する → 試合中のガイ → 駅へ向かうブルーノ……】というように、【ガイの映像】と【ブルーノの映像】が交互に繰り返されていることがおわかりいただけると思います(ちなみに、15分間で26回もクロスカッティングが行われています)。
詳細は別途ご説明するので、ここでは「いかに細かくクロスカッティングが繰り返されているか」に注目して、ざっとご覧いただければと思います。
「『遊園地へ向かうガイ』と『遊園地へ向かうブルーノ』が交互に映し出されるシーン」の大雑把な流れを、ご理解いただけたかと思います。
それでは続いて、「クロスカッティングが、どのような効果を発揮しているのか」、詳しくご説明しましょう。
分析1
まずは、ガイのテニスの試合が始まります(上図の【①:テニスの試合(優先)】部分)。初っ端から彼はやる気満々。一刻も早く勝利すべく、攻めに攻めまくる。そしてあっという間に主導権を握る。素晴らしい出だしです。
一方のブルーノ。彼は余裕を持って悠々と自宅を出発します(【①:遊園地へ】部分)。
つまり、2人とも予定通りに行動を開始した。鑑賞者は「さぁ、いよいよ始まったぞ!果たしてガイは、ブルーノを出し抜けるだろうか?」と関心を持って、画面を見つめることになります。
分析2
予定通りに動き出した……と思いきや、早速トラブル発生!ガイが調子を落とし、ポイントを奪われ始めたのです(上図の【②:テニスの試合(劣勢)】部分)。
ガイの顔に焦りの色が浮かびます。観客席のアンもギュッと拳を握る。
対するブルーノは、順調に遊園地に近づいていきます。
多くの鑑賞者は「うっ」と息を詰まらせるでしょう。「これはマズイぞ!ガイ、頑張るんだ!」。
分析3
ところが、です。すぐまた予期せぬことが起こる。
すなわち、ブルーノが誤ってライターを排水溝に落してしまったのです(上図の【②:ライターの回収】部分)。ブルーノはショックを受ける。
鑑賞者は、思わず身を乗り出すでしょう。そしてガッツポーズ「よし!いいぞ!チャンスだ!ガイよ、ブルーノが手間取っている内に、さっさと試合を終わらせるんだ!」。
分析4
ここからは、両者苦しい時間が続きます。
まずはガイ。彼はようやく調子を取り戻しました。しかし、試合を決めるには至らない。ポイントを取ったと思いきや、すぐまた取られる。デュースの嵐です(上図の【③:テニスの試合(膠着状態)】部分)。
一方のブルーノは、排水溝に腕を突っ込む。どうにかライターを回収しようとして、彼は精一杯腕を伸ばします。
鑑賞者は「ガイよ、頑張れ!早く勝利するんだ!」「ブルーノよ、お前はまだ拾うなよ……拾うなよ……」と、ハラハラしながら画面を見つめることになります。
ガイの勝利が早いか、それともブルーノが先にライターを回収してしまうか、じつに息苦しくなる場面です。
分析5
窮地を先に脱したのは……なんてこった!ブルーノでした。
ブルーノは排水溝からライターを拾い上げた。そして遊園地に向かって駆け出した(上図の【③:改めて遊園地へ】部分)。
鑑賞者はショックを受けるでしょう「ううっ!これは非常にマズイぞ!」。
分析6
しかし、大丈夫!ブルーノが駆け出した直後、ガイが試合に勝利。彼も遊園地に向けて移動を開始したのです。
鑑賞者はホッとするでしょう「よーし!ガイよ、よくやった。さぁ、急げ!」。
……が、しかし!一難去ってまた一難。安堵したのも束の間、すぐに次のピンチが訪れた。すなわち、ガイを逮捕すべく刑事も動き出したのです(上図の【④:刑事に追われながら遊園地へ】部分)。
かくして鑑賞者は、またもやハラハラドキドキしながら画面を見つめることになる。果たしてガイは刑事に逮捕されることなく、遊園地にたどり着けるのでしょうか?
分析7
ガイが駅に到着。彼は切符を購入し、ホームへ向かった。
しかし……間もなく刑事もやってきた!刑事はぐんぐんガイに近づいていきます。
鑑賞者は息を飲むでしょう「ヤバイ……いよいよ捕まってしまいそうだ!」。
しかし、ここで予想だにしなかったことが起こります。すなわち、1人の刑事が言った「もう少しヤツを泳がせることにしよう」。
かくしてガイは、無事列車に乗ることができました。
鑑賞者は胸を撫で下ろすでしょう。
分析8
と思いきや……その直後、ついにブルーノが遊園地に到着。
鑑賞者はドキッとするでしょう「嗚呼、間に合わなかったか……」。
しかし、まだ時間はある!そう、ブルーノは闇に紛れて行動しようと考えているのです。彼はじりじりしながら日没まで時間を潰します(上図の【④:日没を待つ】部分)。
分析9
さぁ、いよいよ佳境です!
ブルーノが日没を待つ。太陽はゆっくりと傾いていく。
一方のガイは列車とタクシーを乗り継ぎ、遊園地へ急ぐ(上図の【⑤:遊園地へ】部分)。
鑑賞者の目は画面に釘づけになるでしょう「ガイは日没までに遊園地にたどり着けるのだろうか!?」。
分析10
日没が早いか?それとも、その前にガイが遊園地にたどり着けるのか?勝者は……日没でした!
夜の帳が下りる。
かくして、いよいよブルーノがライターを置くべく動き始めました(上図の【⑤:行動開始】部分)。
鑑賞者はガックリ肩を落とすでしょう「ダメだったか……」。
しかし、絶望するのはまだ早い!ヒーローは遅れてやってくるものです。ブルーノが動き出した直後、ガイが遊園地に到着したのです!
……約15分間に渡るクロスカッティングは、以上で終了です。
まとめ:「感情曲線」による整理
ここまでご説明してきたことを、「感情曲線」を使って整理してみましょう。
※感情曲線:「鑑賞者の感情の揺れ動き」をグラフ化したもの。下図の場合、「右」に行くほどポジティブ(「よし、いいぞ!」)、「左」に行くほどネガティブ(「うっ、マズイ!」)な感情を、鑑賞者が抱いたことを意味する。
カットバックによって、鑑賞者の「感情」をグラグラ揺さぶる。かくして、鑑賞者は物語から目を離せなくなる……!
一瞬たりとも退屈する暇なぞない、じつに素晴らしいシーンですよね。
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(担当:三葉)