この1分間に、鑑賞者の「感情」はどのように揺れ動いたか?|『汚名』に学ぶテクニック
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本記事では、「汚名」に【鑑賞者の「感情」の揺さぶり方】を学びます。
※「汚名」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。
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テーマ発表!!
本記事では、「アリシアが、セバスチャン邸のワイン貯蔵庫の鍵を盗み取るシーン」を分析します。
わずか1分弱ながら、多くの鑑賞者の記憶に残る名シーンです。
<キャラのご紹介>
・アリシア:若い女性。アメリカ政府の情報機関の女スパイ。
・セバスチャン:中年男性。ナチスの残党。何やら悪だくみをしている様子。
<あらすじのご紹介>
1:アリシアがセバスチャンに接近。情報収集のために彼と結婚する。
2:アリシアの活躍により、「セバスチャン邸のワインボトルに何か秘密が隠されているらしい」と判明。
3:情報機関は、「ワイン貯蔵庫に潜入すべく、まずは鍵を盗み取るべし」とアリシアに指示を出した。アリシアは隙を伺い……そしてついに、絶好のチャンスがやってきた!
分析①
ある夜、セバスチャン邸の寝室でのこと。
アリシアがふと気づく。机の上に無造作に鍵束が置かれている。鍵束の中には……ワイン貯蔵庫の鍵もあるではないか!そしてセバスチャンはいま、隣の部屋で着替えをしている!
よし、チャンスだ!アリシアはそっと机に近づきます。
多くの鑑賞者の胸が高鳴り始めるでしょう「果たしてアリシアは、セバスチャンに気づかれずに鍵を盗み取れるのだろうか?頑張れ、アリシア!」。
分析②
アリシアが鍵束に手を伸ばした。……と次の瞬間!隣室からセバスチャンの声が聞こえてきた「パーティにはデヴリンも来るのかい?」。
何というタイミングか!鑑賞者は「うっ!」と思わず声を漏らすでしょう。
アリシアの体もビクッと震えます。
……しかし、セバスチャンは隣室からアリシアに話しかけるのみ。こちらの部屋にやってくる様子はない。どうやら彼はアリシアの思惑には気づいていない様子です。
分析③
アリシアは鍵束を手に取り、ワイン貯蔵庫の鍵を外そうとします。セバスチャンがいつ着替えを終え、こちらの部屋にやってくるとも知れない。アリシアよ、急ぐのだ!
間もなく彼女は、ワイン貯蔵庫の鍵を鍵束から外すことに成功。そして素早く机から離れた。
多くの鑑賞者はホッとするでしょう「あー、よかった!」。危機は去ったのです。
分析④
間もなく、セバスチャンがこちらの部屋にやってきました。彼は笑顔を浮かべ、アリシアに近づく。
そしてアリシアの両手を握った!
この時、2人の両手がグッとアップになります。鑑賞者は直感するでしょう「アリシアのどちらかの手の中に鍵があるに違いない!」。
さて、このシーン。どうと言うことのない些細な1コマに見えますが……これ、すごいショットだと思うんですよ!だって一切説明することなく、ただ両手を映すだけで「アリシアのどちらかの手に鍵が握られている」ということが鑑賞者に伝わるんですよ!
マンガの世界でも、小説の世界でも、そして映画の世界でも、「説明するな。描写せよ」と言いますが、まさにこういうことなんでしょうねー!
では話を戻して……セバスチャンがアリシアの両手を握った。そしておそらく、アリシアのいずれかの手の中には鍵がある。
緊張感が高まります。鑑賞者はドキドキです「まずいぞ……じつにまずい!」。
分析⑤
一方、アリシア(と鑑賞者)のドキドキをよそに、セバスチャンは笑顔。彼は穏かな口調で「きみを信用しないわけじゃないが、若い男はみな敵だからね」と言う(彼はアリシアにぞっこんなのです)。
その時、カメラがアリシアの表情を捉えた。
彼女はセバスチャンの言葉を受け、口元に笑みを浮かべています……が、しかし。その目には落ち着きがない。黒目が左へ右へ、そして下へと絶えず動いている。
アリシアの緊張が伝わってきます。
間もなく、カメラが再び2人の両手に近寄った。鑑賞者は息を押し殺して画面を見つめる。
そしてついに……セバスチャンが、アリシアの右手を開いた。
分析⑥
アシリアは……何も握っていない!
多くの鑑賞者が、ホッとひと息つく場面です。
セバスチャンは、アリシアの右手にキスをした。
分析⑦
鑑賞者は一瞬安堵したものの、すぐにまたドキドキが始まる。
というのも、右手になかった以上、アリシアは左手で鍵を握っているに違いありません。そして、セバスチャンは間もなく左手にもキスするでしょう。まずいぞ……!
直後、カメラがアリシアの左手を捉える。鑑賞者のドキドキは最高潮に達します。バレてしまう……!!
分析⑧
しかし次の瞬間、アリシアがセバスチャンに抱きついた!セバスチャンは「かわいいヤツめ」といった感じで、アリシアを抱き締める。
そう、アリシアは左手を開くのを防ぐべく、咄嗟にセバスチャンに抱きついたのです。
鑑賞者は思わずガッツポーズを取るでしょう。アリシアはなんて機転が利くんだ!
そしてアリシアが、セバスチャンの死角で左手を開くと、案の定鍵が握られていました。彼女はそっと鍵を床に落とし、チェストの下に蹴り込んだ。
……以上が、「アリシアが、セバスチャン邸のワイン貯蔵庫の鍵を盗み取るシーン」です。
まとめ:「感情曲線」による整理
ここまでご説明してきたことを、「感情曲線」を使って整理してみましょう。
※感情曲線:「鑑賞者の感情の揺れ動き」をグラフ化したもの。下図の場合、「右」に行くほど【緊張(ドキドキ)】、「左」に行くほど【安堵(ホッ)】を、鑑賞者が感じたことを意味する。
たった1分弱の間に、鑑賞者はこれだけ「感情」を揺さぶられるわけですからね。そりゃ、画面に釘づけになるに違いありません。
鑑賞者を魅了するじつに素晴らしいシーンですよね!
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(担当:三葉)