相手が使った比喩を下敷きにして、からかったり冷やかしたりする ~アニメ「怪異と乙女と神隠し」の場合
◆概要
【相手が使った比喩を下敷きにして、からかったり冷やかしたりする】は「魅力的なセリフ、会話」を作るためのアイデア。
◆事例研究
◇事例:アニメ「怪異と乙女と神隠し」(第1話)
▶1
本作の主人公は、菫子(女性20代)。
彼女は書店で働いている。
ある日のことだ。
・Step1:菫子はレジを担当していた。しかし客はいない。暇だ。退屈だ。彼女は思わずあくびした。
・Step2:それを見て、同僚の蓮が声をかけた「眠そうですねぇ」。
・Step3:菫子は声を弾ませる「よくぞ聞いてくれた!昨日、オカルト板に『きさらぎ駅』の続報が来ただろ?」。
・Step4:蓮がうなづく「ああ、あれ!」「詰め甘々でうそ丸出しな創作都市伝説……。よく楽しめますね、いい年して」。
・Step5:菫子は声を荒げる「何気に自分も読んでるくせによく言うよ。小僧!」。
そして、
・Step6:菫子は嬉々として語り出した。曰く「オカルトは、人知を超えるものへの畏れと戸惑いを楽しめる……!食欲や性欲みたいな、人の根源に関わる本能を刺激する娯楽さ!」。――そう、菫子はオカルト大好き人間なのだ。
・Step7:菫子の言葉を受け、蓮は言った「つまり菫子さんは……本能に作用するポルノのごときものに夜通し熱中していたと!」。
・Step8:菫子は蓮を睨みつけた「ああん!?もしや私はいま、あらぬ誤解をされてはいまいか!?」。
▶2
ご注目いただきたいのは、「つまり菫子さんは……本能に作用するポルノのごときものに夜通し熱中していたと!」という蓮のセリフである。
このセリフは必要不可欠なものではない。「本当にオカルト好きですねぇ」なんて呆れるだけで十分なのだが――ストレートにそう言ってしまっては面白みを欠く。
そこで【相手が使った比喩を下敷きにして、からかったり冷やかしたりする】という技法の出番だ。
「つまり菫子さんは……本能に作用するポルノのごときものに夜通し熱中していたと!」というからかいの言葉を置いたことで、印象に残る楽しいシーンになったといえるだろう。
また、このセリフによって「蓮 = 頭の回転が速い毒舌キャラ」と強調された。「なかなかひねくれたキャラだな(笑)」「こいつは面白そうだ(笑)」と物語に引き込まれた鑑賞者は少なくないはずだ。