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<呆然自失の女性キャラを西洋甲冑の中に閉じこめる>という趣味の悪さがすごい!!|「華麗なる追跡」に学ぶテクニック(2)

※引き続き、「華麗なる追跡」を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。


変装する女!


<1>

本話の主人公・忍は、正義の秘密機関に所属しています。

そして、彼女は捜査のためにたびたび敵組織に潜入するのですが……その際、様々な変装を行います


この【主人公が変装して正義を執行する】というのが、本話の特徴の1つです。


<2>

ところで【変装する正義の味方】といえば、そう!わが国には多羅尾伴内という著名なキャラがいますよね。


そして……どうやら、忍は多羅尾伴内の影響下に作られたキャラのようです。

この時期の東映が小林旭主演で往年の「多羅尾伴内」のシリーズを制作していたことを、ここで想起すべきかもしれない。『華麗なる追跡』は、女・多羅尾伴内なのだ。

※四方田犬彦「志穂美悦子 必殺・追跡・13階段」(「戦う女たち――日本映画の女性アクション」収録)より引用



<3>

さてここからは、忍がどのような変装を披露したのか確認してみましょう。


▶ 第1幕

・【1】ギャンブラー:スパンコールがきらきら光るドレスを着て、秘密賭博場に潜入しました。

・【2】青年紳士:唯一の男装。付け髭を付けてナイトクラブに潜入しました。


▶ 第2幕前半

・【3】お茶くみの老婆:「職安で紹介されました」という体でパシフィック貿易なる企業を訪問し、機密情報を盗み出しました。

・【4】OL:パシフィック貿易から脱出する際に、パシフィック貿易内の女子トイレにいたOLを襲って服を調達、その場で変装しました。


▶ 第2幕後半

・【5】修道女:黒衣の修道服を着て、セントジョルジュ教会に潜入しました。


▶ 第3幕

・【6】腰の曲がったカンボジア人老婆(= 麻薬のバイヤー):各国のバイヤーが集まる麻薬取引現場に潜入しました。


とまぁこのように忍は様々な姿に変装するのですが、しかし、「あっ、こいつ妙だぞ!」「誰かが変装しているに違いない!」と怪しまれたことはありません。鑑賞者からすれば忍が変装していることは一目瞭然なのですが、なぜかバレない……。

※ただし、修道女に変装してセントジョルジュ教会に潜入した時には、「修道女は普段10人なのに、今日は11人いる!」ということで、あっさり潜入がバレてしまいます。


<4>

なお上記の6つ以外にも、

・私服姿の忍:当時の流行りなのか、やたらカラフルな格好をしています。

・カーレーサー姿の忍:彼女はプロのカーレーサーなので。なお、レーシングスーツも1人だけカラフルで派手です。

・セーラー服姿の忍:回想シーンでのみ登場。

・胴着姿の忍:忍は格闘技(空手?カンフー?)の達人なので。

……も登場します。


こうしてみると、本作は【えっちゃんのコスプレを楽しむ映画】と言えそうですね。

※えっちゃん:忍役を演じた志穂美悦子さんのニックネーム。


<5>

ところで多羅尾伴内といえば、「ある時は○○、またある時は□□。しかして、その実体は××だ!」と正体を敵に明かすクライマックスシーンがよく知られています。

で、本作はどうかというと……本作にも、同様のシーンがばっちり盛り込まれています。


---

麻薬組織のボスや幹部、そして客(各国のバイヤー)が、麻薬の取引を行うべくとある島に集まった。

そして、さぁ取引開始というところで……1人の老婆が「フッフッフッ」と奇妙な笑い声を漏らした。カンボジアからやってきたバイヤーです。

一同、ぎょっとする。

麻薬組織のボスが問いました「何者だ?」。


すると老婆は立ち上がって「お前たちを三途の川へ導く水先案内人よ」

さらに、「私がわからないかね?何度も顔を合わせているはずだよ。ある時は、さすらいの女ギャンブラー。ある時はダンディな青年紳士。またある時はお茶くみの老婆。さらには黒衣の修道女。そして白髪のセムシ女。されど、その仮面の真実は……」

ここで老婆が、シリコン性と思われるマスクを外す。

マスクの下から現れたのは……そう!忍だ!忍が老婆に変装して潜入していたのだ!

忍はヌンチャクを取り出し、ポーズを決めると高らかに宣言しました「5年前、お前たちの悪辣な罠にかかり非業の死を遂げた矢代正之の1人娘・矢代忍だ!」


カッコいいですね♥


<呆然自失の女性キャラを西洋甲冑の中に閉じこめる>という趣味の悪さ!


最後に、私が特に好きなシーンをご紹介しましょう(第2幕後半)。


<1>

▶ 前提

・Step 1:忍が、父の仇たる麻薬組織について捜査を進める。苦戦しつつも、やがて彼女は麻薬組織のアジトを突き止めるに至った!

・Step 2:と思いきや、そこで忍の仲間(新平、凪子)が拉致されてしまう。

・Step 3:忍は新平と凪子を救出すべく、麻薬組織のアジトに潜入した。


▶ 新平の死

・Step 4:忍は、まずは新平の遺体を発見する。新平は拷問され、殺されていた……。


▶ 西洋甲冑の秘密

・Step 5:続いて、忍は凪子の行方を探す。

・Step 6:途中、麻薬組織の幹部(真弓)が部屋の隅に飾られた西洋甲冑をいじっているのを目撃する。何か隠してあるのだろうか?

・Step 7:真弓が部屋を出ていったのを見計らって、忍は西洋甲冑に接近。そして兜を開けてみると……嗚呼!何ということか!西洋甲冑の中には凪子がいた!


▶ 西洋甲冑を脱がす

・Step 8:あまりのことに衝撃を受ける忍。

・Step 9:忍は傍にあったサーベル風の剣を掴むと、甲冑のパーツのつなぎ目を叩いた。パーツがばらばらになって床に落ち、凪子の素肌が露わになる(彼女は素肌の上にじかに甲冑を着せられていたのだ!)


<2>

じつは凪子は、

・1:麻薬組織に拉致される

・2:ボスにレイプされる

・3:茫然自失となる

・4:西洋甲冑の中に閉じこめられる

……という状態だったのです。


いやぁ、この【呆然自失の女性キャラを西洋甲冑の中に閉じこめて部屋の隅に飾っておく】という悪趣味っぷり、すごいですよね。


<3>

そしてまた、【忍が甲冑を脱がそうとして剣を振るう】というのも、なかなかどうしてすごい演出です。

だって、彼女はいま敵のアジトに潜入しているんですよ。普通なら、できる限り目立たぬように、できる限り音を立てぬようにそっと動くはずです。


ところが彼女は、剣(もちろん金属製)で甲冑(これまた金属)を叩く!

当然、ガシャーンと激しい音がします。

そして、バラバラバラっと甲冑のパーツが床に落ちる!


これ、忍の動揺や怒りを表現しているのか、はたまたストーリーとしての整合性よりも映像的なカッコよさを優先してのことなのかわかりませんが……いずれにせよ、記憶に残る名シーンと言えるでしょう!


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(担当:三葉)

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