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ごく平凡な女が、「神様!」と崇められるようになった理由!!|「好色元禄㊙物語」に学ぶテクニック(1)

※引き続き、「好色元禄㊙物語」を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。


ごく平凡な女が、「神様!」と崇められるようになった理由


本作の主人公は、お夏とお七の姉妹。

お夏は、したたかで奔放な<強い女>です。


一方お七は、よく言えば<貞女>、悪く言えば<面白味のない平凡な女>でした……冒頭時点では!

ところが、お七は中盤に大変身を遂げます。そして彼女は、「神様!」「観音様!」と崇められるようになる


本記事では、このお七の<神格化>に注目します。

ごく平凡な女だったはずのお七が、なぜ崇められるようになったのか?そして、彼女は本当に<神様>になったと言えるのか?


お七が崇められるまで(1)


まずは、お七が崇められるようになった経緯を整理してみましょう。


▶ 久松の裏切り

・Step 1:久松(お七の夫)は真面目な男です。しかし、どうしても報われぬ!いつまで経っても貧乏暮らしだ!彼はそんな人生に自棄を起こして、金と引き換えにお七を男に抱かせてしまいます。

・Step 2:お夏と新造(お夏とお七の父)は、久松がお七を売ったことに気づく。そして、久松を糾弾しました。元々が善人で小心者の久松は大いに取り乱します。かくして彼は新造を刺し殺し、さらにお夏を強姦してしまいます。


▶ お七の殺人

・Step 3:一方のお七。彼女は愛する夫に裏切られたこと、そして強姦されたことに強いショックを受ける。さらに帰宅すると……父は殺され、姉は強姦されていた!

・Step 4:お七は半狂乱になり、久松を刺殺してしまいます。


▶ お七の旅立ち

・Step 5:お七はすぐに我に返る。そして、愛する久松を殺してしまったことに激しく動揺します。

・Step 6:そんな時、西鶏(若い坊主)がふと言った「境の港の女郎屋に、千人の男と枕を交わして、そのままふっつりと消えた遊女があったそうな」「わしが考えるには、大方、男を殺したようなおなごが己の罪をちょっとでも滅却しよう思うてやったことやないやろうか」。

・Step 7:西鶏の言葉を聞き、お七が呟いた「うち、それやるわ。千人の男はんと枕を交わす。己の体を滅茶苦茶にして、お上のお裁きに代えてみるのや。それがひょっとしたら、死んだ久松はんへの供養に繋がるかもしれんし……」。

・Step 8:かくして、お七は西鶏を伴って千人斬りの旅に出ました


つまり、お七は【自罰(己の体を滅茶苦茶にして、お上のお裁きに代えてみるのや)】と【供養(死んだ久松はんへの供養)】のために、千人斬りの旅に出たのです。


お七が崇められるまで(2)


で!

この後お七は各地を巡り、男たちに体を与えていきます。そして、男たちは無償で性交に応じてくれるお七を「生き仏」と崇めるようになる。


この辺りのことを、識者は以下のように表現しています。

千人斬りを決意したお七、以後彼女のいる所には、常に男の長蛇の列が出来上がる事となり、次第に彼女の存在は神格化されていく。

※「東映ピンキー・バイオレンス浪漫アルバム」より引用


彼女は行脚しながら男たちに身を任せ、いつしか観音様のように崇められて宗教性をまとい始める。

※「気高き裸身の娘たち」(「戦う女たち――日本映画の女性アクション」収録)より引用


そう、神格化!観音様!宗教性!


お七は、なぜ崇められるようになったのか?


かようにお七は神格化されていくのですが……はて。奇跡を起こしたわけでもないのに、なぜ人々はお七を崇めるのでしょうか?


前掲の「気高き裸身の娘たち」では、以下のように解説されています。

それは男性のなかにも、女にとって望まぬ相手とのセックスは精神的・肉体的苦痛が伴い、男千人斬りは快楽ではなく、”受苦”であるという無意識の前提があるから了解され、派生するものだ。自らは苦行をしつつ、男たちには快楽を与えるゆえに、彼女は男たちの目に聖性を帯びて映る。
娼婦という汚れ役を引き受けるから観音ともなる(以下略)。


つまり、

・1:「女にとって、望まぬ男との性交は苦痛である」と男たちは思っている

・2:ゆえに、男たちは【お七 = 苦痛に耐えつつ、俺たちに快楽を与えてくれる人】と認識する

・3:かくして男たちの目には、お七が聖性を帯びて見える

……というわけですね。


なるほど!

私たち人間には【他人のために苦しみを引き受ける人 = 自己犠牲の人】は聖性を帯びて見えるのです。


女にとって、望まぬ男との性交は苦痛」は本当か?


さて、さらに考察を進めましょう。


ご注目いただきたいのは、上述の【「女にとって、望まぬ男との性交は苦痛である」と男たちは思っている】という点です。

そう、男たちはかように考えている。旅に出る前のお七も同様の認識でしたたよね(彼女は、自罰のために千人斬りの旅に出たわけですから)。


しかし……「女にとって、望まぬ男との性交は苦痛」というのは本当なのでしょうか?


女にとって、望まぬ男との性交は苦痛」は必ずしも事実ではない


というのもですね、こんなシーンがあるんですよ。

---

来る日も来る日も男たちに抱かれ続けるお七。

ある日、西鶏がお七の体を洗ってやりながら言いました「お七はん、ここにきて少し太くなったんと違いますか?」「不思議ですなぁ。食事もろくに摂らんと、男を次から次へ極楽に送り込んで、それでかえって脂ぎってくるというのは」。

対するお七は、「男はんの出さはるものをたっぷり栄養にして、しぶとう丈夫になっていく。自分の体を苦しめよう思うて始めたことが、近頃ではなんやら、段々と楽しみにすらなってきて……今度はどんな男はんが現れるのやろかと、心待ちしてますねん」。

---


そう、お七は次第に<望まぬ男との性交>を楽しく感じるようになっているんですよ!


男はアホ


つまり、男たちは【お七 = 苦痛に耐えつつ、俺たちに快楽を与えてくれる人】と認識しているものの、現実には、お七もまた快楽を味わっているのです


こう考えると、「嗚呼、ありがたいありがたい!」とお七を崇める男たちってアホみたいですよねぇ……

前記事で申し上げた通り、本作では総じて【女は偉大、男はアホ】と描かれています。


現実世界に即して言うと……


なお、以上ご説明してきたことは、現実世界でも往々にして見受けられる現象です。


例えば、

・1:A氏は、熱心にボランティアに取り組んでいる

・2:人々はA氏を賞賛した「ここまで他人に尽くせる人はいないぞ。すごい!まさに自己犠牲の精神!A氏は神様だ!」

・【3】:しかし、じつはA氏は<他人の役に立つ自分>が大好きだった。他人から感謝されることで彼は自己肯定感を獲得し、生きていけるのだ

……なんて具合ですね。



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(担当:三葉)

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