【見返し編①】「100年ドラえもん」のためのオリジナル和紙が誕生! その舞台裏をお届けします。
今ある最高の技術によって、ドラえもんが誕生する22世紀の未来まで、てんとう虫コミックス『ドラえもん』を届けたい!
そんな想いからスタートした、てんとう虫コミックス『ドラえもん』豪華愛蔵版 全45巻セット「100年ドラえもん」のプロジェクト。
今回は、なんと「100年ドラえもん」のために、オリジナルの「和紙」を作っているという話を聞き、制作現場へ伺うことに。
…しかし、本文用紙は退色度合いが少ない「オペラクリアマックス」が使われると、既に発表されています。
では、一体どこに、そのオリジナル和紙を使うのか?
それは・・・・・・「見返し」です。
見返しとは、「表紙」と「中身」との接合部を補強する目的で貼られる紙のこと。中身を保護し、本の耐久力を保つ役目があります。
『小説 映画ドラえもん のび太の月面探査記』より。「見返し」の紙とは、写真でいうと、「どこでもドア」が登場する直前の「紙」のことです。
つまり、「100年ドラえもん」の見返しとは、藤子・F・不二雄先生が描いたまんが『ドラえもん』の中身と、布クロス装の表紙とを繋ぎ合わせる橋渡しのような存在であり、22世紀の未来へ届けるための大事な存在です。
見返しの紙は、通称、「100ドラ透かし和紙」と呼ばれています。その名から分かるのは「和紙」ということだけですが、果たして、「透かし」とは、一体どういうものなのでしょう? 「100年ドラえもん」制作チームが「100ドラ透かし和紙」に込めたこだわりを、製造元を引き受けてくださった福井県越前市の和紙メーカー・石川製紙さんの工場からレポートします。【撮影:明直樹(MOv)/ 聞き手:佐藤譲】
和紙を選んだ理由。
「100年ドラえもん」の見返しの紙に、なぜ、和紙を使おうと思われたのでしょうか? ドラえもんルーム編集長の徳山さんと、「100年ドラえもん」のブックデザインを担当する名久井直子さんはこう語ります。
徳山:
「最初、『100年ドラえもん』のブックデザインを担当する名久井さんから、『見返しのためにオリジナルの和紙をつくりましょう』と提案されたときは、ビックリしました。
でも、石川製紙さんを訪れ、和紙の見返しを作っていく中で、「100年ドラえもん」にピッタリであることを強く実感しました」
名久井:
「和紙は、長く持ちます。『100年ドラえもん』は、100年先まで届けたい本、というコンセプトなので、すごく合うんじゃないかと思い、ドラえもんルームに提案しました」
石川製紙さんで作ってきた和紙のサンプルを触らせてもらいました。
石川製紙さんは、江戸時代から「手漉き和紙」の製造を行っています。手漉きをやってきた石川製紙で、「機械漉き」になったのは1960年代初頭のこと。伝統の手漉きで培った技術力を活かした抄紙機(しょうしき)を考案し、その機械を現在でも大事に使用しています。紙を生む機械を「抄紙機」と呼びます。
そして、「100年ドラえもん」のオリジナル和紙を作ることに。
石川製紙さんの工場の2階部分の抄紙機の一部。年季が入っています。
「地合いを整える」って?
和紙作りの現場で、よく飛び交った言葉が「地合いを整える」というものでした。「もっと地合いを整えますか?」と確認をし合っています。
「地合い」とは、紙を構成している繊維組織の均整の程度のことを指します。染料の濃度、水の量、機械漉きのスピードによって「地合い」は変わってくるので、微細な差を石川製紙さんと「100年ドラえもん」制作チームが相談していました。
今回の見返しの色は「グレー」で、色の表現がとても難しく、少しずつ染料の量を増やしていきながら、何度も作り直しました。
なぜ、少しずつ染料を足していくかというと、色を濃くすることは簡単でも、薄くすることは大変なことだからです。
名久井:
「絵の具をイメージすると分かりやすいかもしれません。白い絵の具の中に、黒の絵の具を入れるとします。少しの黒でも簡単に濃いグレーになりますが、もう一度、色を薄く戻したいときには、たくさんの白が必要になりますよね。
今回の和紙づくりで、染料を少しずつ増していったのはそのためです。つまり、濃くしすぎると、もう一度元に戻すのがとても大変なので」
そうした試行錯誤を経て、制作チームのイメージに近いグレーへと調整していきました。
紙が生まれる場所
石川製紙さんの抄紙機は、現在の社長・石川浩さんのお父さんが設計してつくったもの。ひとつの抄紙機で、薄い紙から、分厚いものまで、様々な紙をつくれることに、「100年ドラえもん」チームは驚きました。
石川さんによると、1平米あたりの紙の重さで、30g〜360gまで、この抄紙機で作れるということです。なかなかイメージがつきにくいかもしれませんが、紙の仕事に携わっているメンバーからは「そんな抄紙機、聞いたことがない!」と驚きの声が聞こえてきました。
「100年ドラえもん」の見返しの紙は、優れものの抄紙機から誕生するのです。
通称「100ドラ透かし和紙」
徳山:
「『100年ドラえもん』のためだけのオリジナルな紙なので、便宜上の通称を付けることになりました。最初は、100ドラWM和紙、という名前の候補がありました。WMは、watermarkのことで、透かしを意味します。より分かりやすいネーミングにしようと、『100ドラ透かし和紙』という通称にしました」
こちらの写真は「100ドラ透かし和紙」が生まれるまでの、微妙な色の変化の様子です。
それにしても、肝心の「透かし」はどこに入っているのでしょうか?
名久井:
「目に見えていないだけで、すでにドラちゃんはいますよ」
ーーえ?
次回は、「透かし」について詳しくお伝えします。一体、どんな技術なのでしょうか?
ドラえもんルームより〜舞台裏の写真〜
今回は、「100ドラ透かし和紙」づくりの作業風景をちょっとだけお見せします。
石川製紙の工場にて、「100年ドラえもん」チームが職人さんたちと話し合っているところです。職人さんたちがチームのこだわりを実現してくれました。
サンプルの和紙を、日の光のもとで確認しています。紙の色や地合いをチェックしています。
紙の厚みを測ります。紙のプロたちが集結し、ひとつひとつ丁寧に確認をして、「100ドラ透かし和紙」が作られていきました。