「100年ドラえもん」のブックデザイナー・名久井直子さんに伺います。
こんにちは!
ドラえもんルームです。
今ある最高の技術によって、ドラえもんが誕生する22世紀の未来まで、てんとう虫コミックス『ドラえもん』を届けたい!
そんな想いからスタートした、
てんとう虫コミックス『ドラえもん』豪華愛蔵版 全45巻セット「100年ドラえもん」のプロジェクト。
さっそく、こんな疑問が浮かんできます。
「100年ドラえもん」には、どんな技術が詰まっているんだろう?
100年先の未来まで本を届けるって、どういうことなのだろう?
現在、「100年ドラえもん」は絶賛編集中ですが、その制作現場に取材をして、情報をお届けしたいと思います。今回は「100年ドラえもん」のブックデザインを担当する名久井直子さんにお話を伺いました。(聞き手:佐藤譲)
名久井直子さんのプロフィール
ブックデザイナー。1976年岩手県生まれ。武蔵野美術大学卒業後、広告代理店を経て2005年に独立。ブックデザインを中心に紙まわりの仕事を手がける。2014年、第45回講談社出版文化賞ブックデザイン賞受賞。主な仕事に、『逆ソクラテス』(伊坂幸太郎)、『あたしとあなた』(谷川俊太郎)、『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ)、『岩田さん』(ほぼ日刊イトイ新聞)、『なんで僕に聞くんだろう。』(幡野広志)など。
名久井さんは、2014年に藤子・F・不二雄公式ファンブック『Fライフ』の第3号で、藤子・F・不二雄作品の架空のコミックスのブックデザインをしてみよう、という企画に指名を受け、ドラミちゃんが表紙になった本と、『新オバケのQ太郎』のU子さんの本を作りました。
「かっこいいガールに焦点を当てたかった」と名久井さん。子どもの頃から、ドラミちゃんとU子さんの造形が大好きだったそうです。
また、2019年には、辻村深月さんの『小説「映画ドラえもん のび太の月面探査記」』のブックデザインも担当されました。
辻村さんの数々の著書のブックデザインを担当してきた名久井さん。辻村さんのドラえもん愛をご存知だったこともあり「この作品は辻村さんにとって大きな一冊だろうと思って、緊張感がありました」とのこと。
小説「映画『ドラえもん のび太の月面探査記』」の表紙をめくると、読者が自らの手で開けるどこでもドアが。『月面探査記』はどこでもドアからスタートする作品ということもあり、「辻村さんの原作小説を読む際も、読者の皆さんにどこでもドアを開けてもらいたいと思って入れました」と名久井さん。
現在、「100年ドラえもん」のブックデザインをされている名久井さんに、その魅力を伺っていきます。
より良いもので、より長く残したい
ーー名久井さんはこれまでに1000冊以上のブックデザインをされてきました。今回の「100年ドラえもん」は名久井さんにとって、どんな仕事ですか?
名久井:
すごくワクワクしています。もちろん、100年後は、私は生きているかどうか分からないのですが(笑)。ワクワクします。編集部からは「より良いもので、より長く残したい」という方針を受け取って、日々、動いています。
ーーブックデザインは、本のあり方をひとつひとつ決めていく役割ですよね。今回の「100年ドラえもん」で、名久井さんの中では「これ!」といった正解があるんでしょうか?
名久井:
同じようなことをしている本がないので、実は全部手探りなんです。たとえば、紙の場合。紙は、時が経てば経つほど、どうしても劣化するものです。そこで、様々な紙を選んで、紫外線照射でテストをしました。劣化したら一体どうなるか、を調べたんです。そうやって、いろんな方の力を借りながら、ひとつひとつ試行錯誤して見つけていっています。
でも、私は、読者の方々には、そうした苦労が分からないくらいがいいと思っています。皆さんが健やかに「100年ドラえもん」を手に取ってくれることが一番なので。
ーー・・・・・・とは言いつつ、「100年ドラえもん」の情報を知りたいので、名久井さんのこだわりを詳しく伺いたいと思っています。紙、インキ、布クロスなど、ポイントごとに詳しく伺っていきますね。
名久井:
はい(笑)
セット売りだからこそ、普通の本ではできないことができる
ーー今回の「100年ドラえもん」は本屋さんに並ばず、数量限定生産のセット売りです。セット売りだからこその特長はありますか?
名久井:
ブックデザイナーの立場からすると、本屋さんに並ぶ本って、一冊一冊が商品の顔をしてもらわなければいけません。たとえば、帯が付いていたり、何万部という言葉が入っていたり。たくさんの本の中から、手に取っていただきたいので。
「100年ドラえもん」の場合は、本屋さんにそのまま並ぶものではないので、商業的なデザインを身にまとわなくていい、ということがひとつの特徴かもしれません。
たとえば、「100年ドラえもん」にはバーコードがありませんから。
なんと、『100年ドラえもん』にはバーコードがありません! だからこそ、ドラえもんとのび太くんはのびのびと裏表紙にいます。
ーーバーコードが無い本って、なかなか目にしませんよね。ドラえもんルーム編集長の徳山さんは「帯とバーコードが付いていない本を作るのが、ずっと夢だった」と言っていました。
名久井:
デザイナー目線でも、バーコードってついつい「邪魔だなぁ」と思ってしまいがちなんですけれど(笑)。
でも、本を配本する現場を見せていただいたことがあって、ベルトコンベアで、かなりのスピードで各地方の本屋さんに割り振っていくんです。バーコードには重さなどの情報が登録されていて、違う本が紛れ込んだらアラートが鳴るんです。
ーーバーコードが、そういう働きもしているんですね。
名久井:
そうした現場を見ると、バーコードってまだまだ必要なのだろうなと思います。まったくゼロにすると、きっと、どこかで誰かの新たな努力が必要になると思うので。もちろん、今後、バーコードを小さくするなどの改良はあると思いますが。
今回の「100年ドラえもん」は、お客さまの元へそのままお届けするセット売りです。だからこそ、バーコードに限らず、様々な出版業界のお約束が必要ない分、普通の本ではできないデザインになっています。
なんと表紙にタイトルがなく、ドラえもんと巻数のみ。「本屋さんで手に取ってもらうためには、どうしても商業的な工夫をします。今回はセット売りだからこそ、シンプルなデザインにできています」と名久井さん。
ーー「100年ドラえもん」の表紙には、タイトルがありません。普通ならば、本は本屋さんにいるとアピールしなきゃいけないので、タイトルがない本って、考えられませんよね。
名久井:
ドラちゃんの力に頼っています。これを見たら、みんなが『ドラえもん』って分かる。それが『ドラえもん』の凄いことだと思います。
ーー『ドラえもん』の力を信じているんですね。
次回から、細部のこだわりを聞かせていただきます!
ドラえもんルームより
「100年ドラえもん」ではセット売りだからこそ、できるチャレンジをたくさんしています。名久井さんは「よくある保存版とは違って、皆さんに、のびちゃんのように寝転がって読んでもらいたい」とも話していて、愛蔵版ではありつつも、長く読み継がれることを意識しています。
名久井さんはよく「ドラちゃんの造形がすごい! ドラちゃんのかわいさがすごい!」と話してくれます。たとえば、各巻の表紙に、モノクロのドラえもんがいますが、私たちの頭の中では、正確に色を塗れますよね。それが、ドラえもんの凄さの一端だと思います。だからこそ、モノクロというデザインのチャレンジができます。
名久井さんはドラえもんの力を信じていて、私たちドラえもんルームのメンバーも信じていて、そして、きっと、読者の方々もドラえもんを信じている。そう思うからこそ、「100年ドラえもん」の制作方針はブレません。
皆さんのお手元に届く日のことを想い、ワクワクしながら制作中です。