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「阿井上男」が入る索引にしたいーー『引くえもん』の裏側をお見せします。

 てんとう虫コミックス『ドラえもん』豪華愛蔵版 全45巻セット「100年ドラえもん」の予約が開始したときから、謎のベールに包まれ、その異彩を放つネーミングから「どんな特典なのか?」と話題になっていた『引くえもん』。本日、遂に、情報解禁です。

 これが、『引くえもん』だ!!

引くえもん箔押し

こちらが表紙。青い箔が光ります!

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「登場キャラクター索引」の1ページ目! 掲載キャラクターの総数、なんと2879!

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「ひみつ道具名索引」の1ページ目! てんとう虫コミックス『ドラえもん』1巻〜45巻に登場するひみつ道具の総数は、1407!

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「サブタイトル索引」の1ページ目!! 『引くえもん』の総ページ数は、224ページを超える予定です。


 『ド・ラ・カルト』(1998年)、『藤子・F・不二雄大全集』(2009年〜14年)、『てんコミ探偵団』(2018年。ドラえもんチャンネルにて連載中)などを手がけてきた編集スタッフが集結して、現在進行形で『引くえもん』を制作中!
 今回から全三回にわたって、ドラえもんルームの制作現場に取材をし、『引くえもん』とは、一体、どんなものなのか? を探りたいと思います。
 取材を受けてくれるのは、ドラえもんルーム編集長の徳山さん。『引くえもん』を制作しているライターの秋山さん、目黒さんにもご同席いただきます。 (聞き手:佐藤譲)

※掲載するページ見本の画像は、いずれも、現在編集中のものです。最終的な実物とは異なる場合があります。


補完し合う3種の索引

ーーそもそも、『引くえもん』を制作しようと思ったきっかけはなんでしょうか?

徳山:
 「100年ドラえもん」は、てんとう虫コミックスを、今ある最高の技術で、未来に届けるものです。

印刷・インキ・紙・天金・布クロス、と「100年ドラえもん」の装幀のこだわりを訊いているシリーズ。

徳山:
 あらゆる部分にこだわりつつ、藤子・F・不二雄先生(以下、F先生)が描かれた中身を変えていません。だからこそ、まんがとは別に、新しい書籍を入れたいと思いました。『ドラえもん』読者の方々がまだ見たことがないものを、見せたいと思いました。そして、てんとう虫コミックス『ドラえもん』1巻〜45巻を徹底的に調べたうえで、今まで作ったことがなかった「索引」を作ろう、と決めました。


ーー『引くえもん』は1冊の中に「登場キャラクター索引」「ひみつ道具名索引」「サブタイトル索引」の3編が入っていますね。

徳山:まず、『ドラえもん』の索引って、要素としてはどういうものが必要なんだろう? と議論をしました。お話のタイトル名での索引は当然必要でしょう。てんとう虫コミックス『ドラえもん』の全822話を、あいうえお順に並べて、タイトルが分かるものはそれでお話を探すことができます。
 ほかに何が必要か? 『ドラえもん』ならば、やはり、登場キャラクター、そして、ひみつ道具だろう、となりました。


ーーなるほど、3種の索引があることで、どんなことができるのでしょうか?

徳山:補完し合えるんです。
 たとえば、サブタイトルを忘れてしまっていても、「あのお話には『タイムマシン』が出てきたよなぁ」と覚えていたら、「ひみつ道具名索引」で『タイムマシン』と引けば、きっと、たどり着けます。

ーー詳しく聞いていきます。

「阿井上男」が入る「登場キャラクター索引」

ーーまずは気になる「登場キャラクター索引」について教えてください。
 あいうえお順だと、「R3-D3」から始まるんですね。

徳山:
 実は、我々も、驚きました。てっきり「阿井上男」だと思っていたので。


――「阿井上男」さんを、私は覚えていません・・・。どんな人物なのでしょうか?

目黒:
 『ドラえもん』を大好きな読者は、割と知っているキャラクターです。セリフにのみ登場するキャラクターなのですが。

ーーセリフにだけ、ですか?

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てんとう虫コミックス『ドラえもん』2巻のセリフの中で登場する「阿井上男」さん。

徳山:
 セリフに名前が登場する、ということは、『ドラえもん』の世界に、「阿井上男」は絶対にいます。だから、「登場キャラクター索引」に「阿井上男」さんは入ってきます。
 『登場キャラクター索引』を作ろう、と決めたときから、「阿井上男」が一番上にくると思っていました。ところが、R3-D3と、アーレ・オッカナ王女、に抜かれてしまった。笑

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ーー良い意味で、予想を裏切られたわけですね。

徳山:
 これが分かっただけで、もう「登場キャラクター索引」を作った甲斐がありました。

序盤から、ご飯が何杯でもいける

ーー「阿井上男」さんの次は、「アイスを売るお店の人」が続いていきます。

徳山:
 みんな見覚えがありますよね。1ページ目から、すごくいいんですよね。

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ーージャイ子が描いた漫画「愛フォルテシモ」も入ってくるんですね。

秋山:
 厳密にはキャラクターではありませんが、お話の中で役割を果たしているので、入れています。表紙にしか登場しない「建設巨神イエオン」や「ドタバタくん」といった人たちも、のちに「け」や「と」の欄に入ってきます。


ーー「あ」に「天井うらの宇宙戦争」の登場キャラクターがたくさん登場しますね。

徳山:R3-D3、アーレ・オッカナ王女、アカンベーダー、そして、アカンベーダーの手下。偶然にしてはできすぎていますが、我々は「あいうえお順」というルールに従っただけです。
 F先生が描いた『ドラえもん』がこうなのだ、という事実を見ているんですよね。


ーー「登場キャラクター索引」の「あ」の序盤だけで話が尽きませんね。笑

徳山:この1ページ目を見るだけで、ご飯何杯でもいけますね!

秋山・目黒:間違いないです。

F先生のちょっとした遊び心を発見

ーー皆さんの『引くえもん』制作の徹底ぶりが垣間見えてきました。制作をする過程で、何か新しい気づきってありますか?

目黒:
 最近気付いたことで、面白いことがありました。
「ジャイアンズをぶっとばせ」というお話があります。ジャイアンの野球チームをめためたに負かすために、のび太が女子野球チームを作って試合をするお話です。

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7巻の「ジャイアンズをぶっとばせ」の一コマより。


ーー7巻に掲載されているお話ですよね。

目黒:
 実は、その野球チームの女子メンバーが、45巻にもう一度、再登場するんです。


ーーえ。

目黒:
 「人間すごろく」というエピソードの中で、二人の女の子がジャイアンをおしるこに誘うんです。あの野球チームの女の子たちが。

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45巻の「人間すごろく」の一コマより。


ーー7巻から45巻と、ずいぶん期間をあけた再登場ですね。

目黒:
 ところが、『引くえもん』を制作中に判明したのは、連載時、「人間すごろく」が掲載されたのは、「ジャイアンズをぶっとばせ」の翌月だったんです。

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「サブタイトル索引」の「し」の欄より。7巻に掲載されている「ジャイアンズをぶっとばせ」が、連載時は、「小学四年生」の1974年12月号に掲載されたことが分かります。

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「サブタイトル索引」の「に」の欄より。45巻に掲載されている「人間すごろく」が、連載時は、「小学四年生」の1975年1月号に掲載されたことが分かります。つまり、「小学四年生」読者にとっては、「ジャイアンズをぶっとばせ」の次のお話だったのです。

目黒:
 『登場キャラクター索引』を見ていたら、「同じ女の子が7巻と45巻にいるな」と分かって、そして『サブタイトル索引』を見てみたら、気づきました

徳山:
 もちろん、これまでも『藤子・F・不二雄 大全集』に出典リストを載せているので、事実としては調べられましたが、『引くえもん』によって問いを持つ視点が出来たことが面白いと思います。


ーー野球の試合で心が通じ合い、お汁粉に誘い・誘われるって、すごくいいですね。笑

秋山:
 「ジャイアンズをぶっとばせ」の話で、ジャイアンはきっと、女の子たちと仲良くなっている。そして、おしるこに誘われる仲に。
 きっと、F先生の遊び心だったんだろうな、と思います。当時、連載誌を読んでいた子どもたちは、気付いていただろうと思います。「この前の女の子じゃん!」って。

徳山:
 てんとう虫コミックスの良さは、どの巻を、いつ読んでもいいんだ! ということだと思います。
 だからこそ、シャッフルされていることに気付きにくいので、今回の『引くえもん』によって、エピソード同士の思わぬ連続性や、影響のし合いみたいなものが分かるところが新鮮だな、と思います。

ーー私もF先生の遊び心に気付きたいです。

ぼくらにとって、夢のような読み方。

ーー『引くえもん』は、横書きの左開きの本ですね。

徳山:
 縦書き右開きも検討したのですが、横書き左開きは視認性が良かったんです。3〜4桁の数字や、絵と項目の一体感も。何周も回って考えた結果、この形になりました。


――たしかに、『登場キャラクター索引』と『ひみつ道具名索引』は絵が付いていて、ずっと読んでいられますね。目に馴染むというか。

徳山:
 絵を付けて良かった、と思います。
 目に馴染むのは、もしかすると、Instagramのようにも見えるんじゃないか、と思います。スマホでよく見慣れた体裁かもしれません。


ーーたしかに。紙の本なので、気付きませんでした。

徳山:
 『引くえもん』は、紙の本だからこその良さがあると思っています。
 F先生の絵があるから、ずっとパラパラとめくっていられる。そうすると、偶然の出会いがあると思うんです。新しい出会いや、過去の自分の記憶との出会いが


ーー紙の本は、全体像が掴みやすいのもいいですよね。ページ数が、実際に、重量として手で感じられるので。

徳山:
 F先生が描いた『ドラえもん』を、新しい切り口で見渡せることが楽しいです。


ーーまだ制作中ということですが、もうどのくらい制作をしているんですか?

徳山:
 半年以上かかりきりです。お盆前には入稿をしないといけないので、ずっと佳境が続いています。


ーーこれまでに、『藤子・F・不二雄大全集』を制作したからこそ、あらゆるものの初出情報が分かっているので、『サブタイトル索引』が作れた、という面もありますよね。

徳山:
 そういう意味では、『引くえもん』はドラえもんルームの長年の『ドラえもん』研究の成果、とも言えるかも知れません。
 早く完成させて、ぼくらも読者として、じっくりと読みたいです。索引を引いて、ぱっと、「何巻の何」と『ドラえもん』を読みに行ける。遂に、こういう読み方ができる。ぼくらにとって、夢のような読み方です。
 きっと、『引くえもん』は、『ドラえもん』の良いガイドになってくれます。


ーー次回から、より詳しく、『引くえもん』について伺っていきます!


©藤子プロ・小学館