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時計と敵(かたき)
二十年ばかり前、仕事の合間にホームセンターを覗いたら、青い文字盤の腕時計が目についた。サービスカウンターのガラスケースの中で、随分キラキラ光って見えた。それまで赤い文字盤のを使っていて、青いのもほしいと思っていたから余計に心を惹かれたのである。
一万円とちょっとで、別段高い時計ではない。ちょうど前日にパチンコで買っていたこともあって、その場で買った。
ストップウォッチの機能が付いたクロノグラフだった。その時分には工場向けの人材派遣会社に勤めていて、面接の際に簡単な作業の時間を計る適性検査もやっていたから、ストップウォッチ機能は存外役に立った。
気に入って長く使ったけれど、そのうちに金属ベルトの継ぎ目から、棒が半分抜け出すようになった。
ベルトのコマをつなぐ細い棒で、抜けないようにバネが仕込んであったのが、どうも緩んでしまったらしい。完全に抜けるとベルトがバラバラになってしまう。
保証期間はとうに終わっていたから、買った店でなくイオンの中の時計店へ持って行った。
「すみません、ちょっと教えてほしいんですがね」
カウンターにいたのは若い女子だった。
女子はびっくりした顔で「はい?」と言った。アルバイトの学生かも知れない。
「こういうバネ棒は売っている物なんだろうか?」
実物を見せると、今度は困ったような顔をした。そうして「確認して来ます」と言って、カウンターの裏へ行った。
しばらく店内でセイコーやシチズンの高価な時計を眺めていると、女子が「お待たせしました」と戻って来た。
「五百円です」
「五百円? 何本かセットで?」
「一本です」
「随分高いね。全部揃えたら時計代より高くなるぜ?」
「すみません」
結局、継続使用は諦めた。
ベルトを交換すればよかったと気付いたのは、捨ててしまった後である。どうしてそんなことに気付かなかったかと甚く悔いたが、もうどうにもならない。
五百円というのは嘘だったろう。全体、あんな物がそんなにするはずがない。この記憶の刻みつけられている間、あの店のスタッフは自分の敵である。
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