異世界の記憶
朝、大学へ行くつもりで家を出たら、何だか商店街の様子が違っている。何が違うのか判然しないが、何だか違うのに違いない。
入口には書店がある。先日ここで村上龍の本を買った。あんまり面白くなかった。
その隣に化粧品店がある。ここで一度、ライブの前にアイシャドウを買った。あの時は、変なふうに思われないようギターを背負って行った。
化粧品店の向かいに飯屋がある。以前、入江さんに天丼を奢ってもらったら、あんまり美味くなくて残念な思いをした。
飯屋の隣は大きめの銭湯で、ここには一度入りに来た。家に風呂があるのにわざわざ銭湯へ行くのも趣深いだろうと思ったが、さほどでもなかったから一度でよした。
風呂屋の隣には眼鏡屋がある。眼鏡を一本買ったら随分高くて、暫く食事が猫まんまになった。
後は何屋だかわからない店がある。引っ越して来てすぐ、ここで便座カバーを買った。洗い替え用と合わせて二枚買った。
そのまま通りを進むと、出口に喫茶店がある。オープンした頃に一度入ったら、紅茶のメニューが随分充実していた。ただ、ここで喫茶店に入る理由もないから一度行ったきりである。
その全てが何か違う。どうにも気持ちが悪いと思ったら、どうやら人がいなすぎるようだと気が付いた。
すわ異世界かと、今だったら考えるところだけれど、この時分にはそういう概念がないから、ただおかしいと思うだけだ。おかしいおかしいと思いながら商店街を抜けて駅に着いたら、駅の時計は七時半を指していた。それまで八時半のつもりでいたので驚いたが、これで商店街に人の少ない理由もほぼわかった。
そんな時間から学校へ行ったってしようがない。自分は家に帰ってテレビで『ひらけポンキッキ』を見て、それから出直した。
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