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雨と靴、横浜

 働くことにようやく慣れた頃、休日に横浜駅前へ行ったら靴屋がオープンしていた。
 冷やかしのつもりで入ってみると、リーガルのローファーが半額になっている。新規オープンセールなんだそうだ。リーガルが半額とは中々のものだと感心した。
 自分は最初の配属先で西村さんから、折財布は使うな、時計のバンドとズボンのベルトと革靴は色を合わせろ、ブランドロゴのTシャツは着るな、革靴はローファーも持っておけと教わった。
 西村さんは随分お洒落な人だったのである。
 この時期にはその教えがまだ強く残っていたから、ここぞとばかりに買っておいた。

 リーガルのローファーは踵の部分にヒレみたいな突起がある。これが何だか格好良い。大いに気に入って三年ばかり履いた。
 ある時、何だかひどく雨が滲みるのに気が付いた。
 脱いでみたら、横の部分が裂けている。これでは滲みるのも当たり前だ。滲みるというより、普通に水が入ってきて、靴下がびしょ濡れである。
 これはもう買い替える他ないだろうと諦めた。
 後から考えると、丈夫なはずのリーガルがそんなになるなんて尋常ではない。よほどひどい扱いをしていたのだろうと思う。

 次もまたローファーにするつもりだったけれど、リーガルでなければどうもピンと来ない。やっぱり踵のヒレが欲しいのである。
 色々探しても、ヒレの付いたローファーはリーガル以外に見当たらない。しかしまともに買おうとすると結構高い。
 そんなに都合よく半額セールなどしているものではないから、諦めてモンクストラップの安い靴にした。西村さんが見たらきっと駄目出しして来るだろうと思った。
 安い割に物は良く、靴底まで革でできていた。だからそれなりに気に入って、暫く履いていた。そのうちにローファーでなくたって別にいいだろうと思えて来た。
 雨の日に石を踏んだら、底に穴が開いたから捨てた。

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百裕(ひゃく・ひろし)
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