マガジンのカバー画像

百卑呂シの『なんのはなしですか』

63
なんのはなしです課長コニシ木の子氏に回収された文章。
運営しているクリエイター

2024年4月の記事一覧

煙草と苺ミルク

煙草と苺ミルク

 パスタ屋勤務時代の最後に、川崎で新規オープンを担当した。
 以前よそでオープンをやった際、隣の爺さんからの言い掛かりに近いような苦情で大いに困ったことがある。相手は建築関係の社長さんで、地元の有力者だったらしい。
 よくよく調べてみると、オープン前にこの爺さんだけでなく近隣住民に対して何の挨拶もしていないとわかった。どうやらその辺りから面白くなかったのが、オープン後の苦情につながっていたらしい。

もっとみる
雨と靴、横浜

雨と靴、横浜

 働くことにようやく慣れた頃、休日に横浜駅前へ行ったら靴屋がオープンしていた。
 冷やかしのつもりで入ってみると、リーガルのローファーが半額になっている。新規オープンセールなんだそうだ。リーガルが半額とは中々のものだと感心した。
 自分は最初の配属先で西村さんから、折財布は使うな、時計のバンドとズボンのベルトと革靴は色を合わせろ、ブランドロゴのTシャツは着るな、革靴はローファーも持っておけと教わっ

もっとみる
仲間意識

仲間意識

 子供の時分から、母方の祖父に似ていると云われてきた。
 自分ではあんまりピンと来なかったけれど、三十六歳の時に香港で撮った写真を見たら本当にそっくりだった。なるほど、これでは似ていると云われるのも無理はないと得心した。

 祖父は禿頭だった。髪質は猫毛だったそうで、実に自分と同じである。だからいずれ自分も禿げるつもりでいる。
 実際そうなった時の備えとして、五十を過ぎた辺りから頭髪を短くした。

もっとみる
祭りと逃走

祭りと逃走

 中三の秋、三年生と二年生の間でケンカがあった。放課後に学校裏の神社で決着を着けると聞いたから、古元と一緒に見物に行った。

もっとみる
ゴレンジャー、マリリン・モンロー

ゴレンジャー、マリリン・モンロー

 もう随分以前に喫煙は止したけれど、自分にとっての煙草は、阪急山田駅の売店でマイルドセブンスーパーライトを買ったのが最初だった。
 学生寮で暮らしていた頃で、クリアブルーの使い捨てライターも一緒に買ったのを覚えている。

 あの時分、色を選ぶ時は大抵、青を選んだ。子供の頃に観ていた『秘密戦隊ゴレンジャー』の影響である。
 ゴレンジャーは赤青黄ピンク緑の五人のメンバーで構成されており、赤は熱いリーダ

もっとみる

無精髭との戦い

 先日、網膜剥離の経過観察で眼科へ行ったら、やっぱり混んでいた。待合室に二十席ぐらいあるのが全部塞がって、立って待つ人も数人ある。
 立っている中に、髪を伸ばして後ろで括ったおじさんがいた。歳の頃は自分と同じか、もう少し上かも知れない。余計なお世話は重々承知だが、何だか見た目に小汚い。きっと髪型のせいだろうと、一人で得心した。
 自分も学生時代は長髪ヘビメタだったけれど、こんなに小汚くはなかったは

もっとみる
気持ちの悪い犬

気持ちの悪い犬

 子供の頃は犬が苦手だった。犬が来ると、噛まれるんじゃないかと思う。舐めてくるのも気持ちが悪い。走って逃げると追いかけて来るし、こちらよりもよほど速いからきっと追いつかれる。全体、何がしたいものだか、意味がわからない。
 小学校の三年生ぐらいまでは、そんな感じで苦手だったように思う。あるいは、自分の前世は犬に噛まれて死んだ人だったかも知れない。

 ある時、母とどこかへ出かけた。まだ妹がいなかった

もっとみる