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吹替よりも字幕で二人で見たあの映画の名は『ナイト・オン・ザ・プラネット』

「吹替よりも字幕で〜♪2人で見たあの映画〜♪」
と、"エモ"を凶器に人々を殴り倒す、クリープハイプの『ナイトオンザプラネット』という曲をご存知だろうか。
いや今回何の話がしたいって、この『ナイトオンザプラネット』に登場する

ナイトオンザプラネットじゃあって別れてから
ジャームッシュは一体何本撮った
今もあの花のとなりで ウィノナライダーはタバコをくわえてる
ライターで燃やして一体何本吸った

ナイトオンザプラネット/クリープハイプ

という歌詞の"ジャームッシュ"や"ウィノナライダー"の話がしたいんですよ。
まあ冷静に考えると「じゃあって別れてから」「ジャームッシュは」「一体何本撮った」「ウィノナライダー」「ライターで燃やして」「一体何本吸った」って歌詞何?天才?やば過ぎる。って感じなんだけどさ。
この「クリープハイプやば過ぎる」で記事一本書けそうだけど今回は映画の話がしたいと言っているのでグッと堪えます。
人生ってそういうものだから。

改めまして、鬼才・ジム・ジャームッシュ監督作品『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991)は、
ロサンゼルス・ニューヨーク・パリ・ローマ・ヘルシンキの同じ夜を舞台に、個性豊かなタクシードライバーと乗客たちの間に起こる5つの出来事を描いたオムニバス映画である。

エモの伝道師クリープハイプによって描かれる、思い出の中の『ナイト・オン・ザ・プラネット』と
ガムをくちゃくちゃさせながらタクシーを運転する"イケ過ぎてるウィノナ・ライダー"が人類の憧れを全て掻っ攫う『ナイト・オン・ザ・プラネット』は、過去と未来、絶望と希望、刹那と永遠。それほどに違う。
曲中の『ナイト・オン・ザ・プラネット』と、そもそものこの作品は、同じものでありながら全く異なる性質を持っている。

クリープハイプ好きなんだけど、昨今のエモ事情についてはなんとも言えないので一旦触れずにいようと思う。
ツイッターで結構いない?最近のエモきもいみたいな人。
まあその話はいいんだけどさ、ここでは本家『ナイト・オン・ザ・プラネット』について語らせていただくだけなので。

ジム・ジャームッシュ監督作品は『パターソン』や『コーヒー&シガレッツ』等他のどの作品を見てもビジュアル・題材・演出etc…様々な面でおしゃれ度が大爆発している。
映画(というか映像作品)において、光の入れ方とか彩度が与える役割って大きくて、それによって作品全体としての印象が変わってくると思うんだけど『コーヒー&シガレッツ』なんてモノクロ映画ですから。
「モノクロなのに、白か黒しかないはずなのに、なんでこんなに色鮮やかに見えるんだよ…アンミカが言ってたことは本当なのかも…」と頭を抱えながらも、きっとこの映画は200色の白と300色の黒で表現されているのだろうと自分を納得させないと説明がつかないような作品を作るのがジャームッシュだ。

その中でも、個人的には『ナイト・オン・ザ・プラネット』の会話劇やそのやりとりの中で繊細に変わっていく空気感など細かい部分が最も面白くて好みだった。
あとあの不協和音というわけでもないけどなんだかすごく独特で怪しくて癖になる音楽と、時計で各地の時間を見せる演出。
センスしかないんだけどあれなんなの??

1話目のLAではウィノナ・ライダーがタクシードライバーのコーキーを、ジーナ・ローランズが乗客でキャスティングエージェントのヴィクトリアを演じているのだけど、私はこの作品をひと目見た瞬間ウィノナ・ライダーにやられてしまった。
『LEON』のナタリー・ポートマンを見たときと同じくらい(もっとわかりやすく言うと、初めて世にもおいしいチョコブラウニーを食べた時くらい)の衝撃を受けた。
コーキーは歳の若いタクシードライバーで"整備工になりたい"という目標を持ち、好きな服を着てタバコを吸い、ガムを膨らませながら日々仕事をしている。

ナイト・オン・ザ・プラネット(1991)


ヴィクトリアに映画スターにならないかと誘われた時も「私は人生プランを立てていて、その通りに進んでいるの」と自分の決めた道を真っ直ぐに進もうとしていることを伝えるのだ。
誰に対しても物怖じすることなく素直に言葉をぶつけ、自分らしく真っ直ぐに生きる彼女のスタイルをかっこいいと思うし、ヴィクトリアに対して若干皮肉のニュアンスを込めてユーモラスに「Yes,Ma'am」と言うシーンの2人の空気感はこの作品の中でも特に好きなところ。
というかここ全人類好きだと思う。
アンタ最高だよコーキー、、、
ウィノナ・ライダーをキャスティングした方の給料を2倍にして差し上げてほしい。

その後、NY・パリ・ローマ・ヘルシンキとそれぞれ物語は続いていくのだが、どのパートでもそれぞれ違った魅力のある人物達が登場し、一癖も二癖もある会話を繰り広げていくのだ。

この作品は、2022年2月に公開された松居大悟監督の『ちょっと思い出しただけ』という作品の中でも度々登場し様々なシーンがオマージュされている。
ちなみにこの『ちょっと思い出しただけ』もエモ好きの皆さんには是非見ていただきたいナ^_^

映画というのは、見る時の自分の置かれている状況やメンタルによって同じ作品を見ていてもその捉え方や視点が異なるものであると思う。
あの頃の自分には刺さらなかったものが、今の自分を救ってくれることがある。

ひとりの夜には是非この映画を見てほしい。
はじめの方でも言ったけど、この映画は各地の同じ日同じ時間を死ぬほどおしゃれに描いている。
やさしいんだよね。
世界は繋がっていて、今日もどこかでこんな風に誰かと誰かが出会って別れて、自分を見つめ直したり、人の優しさに触れたり、昔のことをちょっと思い出したりしているかもしれない。
そう思わせてくれる作品だから。

ちなみにこの作品、なんと2024年2月16日より全国45館の映画館で再上映されます。
こちらの履修がお済でない方は、この機会にぜひ劇場でご覧くださいませ。

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