ロボットの視線
※本記事は、音声読み上げに対応するよう、一部ひらがな・カタカナで記載しています。
このまえ訪れた、東京の新日本橋にある「分身ロボットカフェDAWN」というお店。
もしかしたら、聞いたことがある人も多いかもしれません。
そのお店はOriHime(オリヒメ)という分身ロボットが接客してくれるお店。そしてオリヒメを操縦しているのは、パイロットと呼ばれる人たちで、自宅から遠隔で操作をしています。自宅といっても都内に限らず、九州とか。結構遠いところから遠隔で接客してくれます。
むかし職場にオリヒメがいたのですが、そのときは「なんか目が光っててよく喋るロボットがいる」というくらいの認識でした。でもインパクトがあったので覚えていたんです。
かすかなオリヒメの記憶を携えてお店に行ってみたら、店内では見覚えのあるオリヒメがあちこちにいました。1台とか2台とか、そんなんじゃなくて、客席と同じ数くらいいるんじゃないかと思うくらいあちこちに。
ダイナーはがっつりごはんが食べられるスペースで予約制だったので、予約のいらないカフェエリアへ。飲み物をオーダーしながらリモートワークもできちゃう。
オリヒメは、目が光っているときがパイロット操縦中ということらしいです。
ワークスペースはパーテーションでしっかり区切られていて、テーブルも広いしコンセントもあるし、普通に仕事がしやすい。快適です。
席を確保して、コーヒーを注文しているときに、ある事件が起きました。
コーヒーが高かった? いや、600円くらいで美味しいコーヒーが飲めました。場所代を考えてもかなり割安です。
財布忘れた? いえいえ、キャッシュレス決済なので最悪スマホでもお支払いできます。
そんなことじゃなくて。
コーヒーを待っている間に、背後に感じるものすごい視線。
なんか、ずーっと見つめられてる感じ。でも、背後に人はいない。なにこれ怖い。
恐る恐る後ろを振り向くと、やっぱりそこに人はいませんでした。
人はいないけど、たしかに人の熱い視線を感じた。えっこれってもしかして。お…ば…
青緑色の目をぴかーんと光らせたオリヒメが、片手を挙げてこっちを向いていました。振り向いた私に、やっと気づいた!という雰囲気で「おはなししましょー」って言いながら。
ロボットに見つめられるなんて初めてだけど、既視感というか、どこかで体感したことのある感覚。それはまるで、洋服選びをしているときに斜め後ろから店員さんに話しかけられる、あの感じと同じでした。
ロボットから発せられる人間の視線に、正直に言うと頭が追い付いていませんでした。
不思議な感覚に包まれながら、オリヒメのパイロットと会話をする。「どんなコーヒーに?」「今日はエチオピアにしました」「えっ、エチオピア? 私も好きです」「酸味が好きで」「同じですー!」とか。
お互いコーヒー好きだったのでややマニアックな話で盛り上がったのですが、オリヒメの瞳の奥には確実に人間がいました。だから最初ゾッとしたわけだし、途中からロボットだということすら忘れていました。だって向こう側にいるのは人間だから。
大きなアーモンド型の瞳の向こうにいたのは、企画者たちが「寝たきりの先輩」と呼んでいる外出困難者や重度障害者たちだったようです。
もちろん、ファミレスで注文した時と同じように「ご注文内容を確認しまーす」ってやってるし、オタ活の話で盛り上がっていたパイロットもいたし、オリヒメを介して遠隔で話しているだけで、同じ景色を見て、視線だって送る。
「感情をもつロボット」をテーマにした作品はたくさんありますが、このオリヒメは言うなれば「感情を媒介するロボット」。これが近いと思います。ロボットといえど無機質な感じではなく、人といるときのような温度すら感じました。
あのときオリヒメというロボットから感じた視線、それは人間の視線であり、瞳の向こう側にいるパイロットたちの体温だったのかもしれません。
分身ロボットカフェDAWN
※ロボットの改良と店内改装工事のため、2022年5月29日(日)〜 6月20日(月)の間は休業、6月21日より再オープンだそうです