まもるもの
私の仕事は、少しばかり特殊で、人様の話を聞く事が多い仕事です。
具体的に何をしてるかは、後の講釈にして、本題に・・・
尚、私が書き残す話は、全て許可を得ております。
但し、聞いたお話なので、綺麗にオチが付くモノではありません。
では、始めましょう。
©Ryouhei
ある会の会合で久し振りにお会いしたHさんが、
話して下さったお話です。
Hさんは永年、ランというロングコートチワワを飼っていまして、
可愛がっていたそうです。
ランは、不自由なのか歩き方に少し癖がありました。
前足を、ヒョコッ、ヒョコッ、と飛ぶ様に歩いたそうです。
Hさんは、現役時代は「力士」だったという事もあって、
体力と健康には、自信がありました。
ランを散歩に連れて行く姿を見て
地元では、「西郷さん」と呼ばれていたそうです。
現役を引退した今でも、散歩を兼ねて毎日裏山に歩いて登り、
頂上から愛犬と下界を見るという事を日課にして、
偶に、野生のイノシシが土浴びをしてるところに出くわして
イノシシが突進して来たのを往なしたり、
Hさんよりも大きなシカのメスが樹の皮を剥いでいる時に対峙して、
視線を逸らさない様に後退りして、
機を見てランを抱きかかえて猛ダッシュして回避したりと、
大自然の中で、身体の調子を自分なりにコントロールしていたそうです。
ランも懸命にそれに付いていたそうです。
その姿を見ていて、ランが可愛くてしょうがない、
こうもペットとは可愛いものか、
「幸せ」とはこういうモノなのか、
と漠然と思っていたそうです。
ある日、突然、腹痛が起こり、暫くは自宅で大人しくしていましたが、
経験したことのない痛みが続いたので、医者に行ったら、
その場で、ガンと告げられたそうです。
これまで家系にガンの人はおらず、
「何故、自分が?」と
凄い喪失感に襲われて、メンタルもダメージを受けたそうです。
病院から、自宅へ戻る途中、いつも登る裏山が見えた時、
何故か、涙が溢れたそうです。
「もう、山にも登れないんだ・・・」
そう思えて涙が止まらなかったそうです。
自宅に戻り家族が入院の準備をしてくれている間、
普段庭にいるランが傍にいてくれて、安心したのか、
少しの時間、Hさんは眠ってしまったそうです。
その時、こんな夢を観ました。
もうすっかり暗くなった山道を歩いているHさん。
周りの風景から、ああ、裏山なんだと思ったそうです。
ランもチョコチョコ付いて来ます。
段々と道が険しくなり、確信に変わったそうです。
でも、何で自分は山道を歩いているのだろうと思った瞬間、
目の前に、見た事もない大きなシカ、
しかも、綺麗で立派な角、月のひかりのせいか、
真っ白に、見惚れる様な白に輝いている。
声も出さずに、ただ見惚れていると、
そのシカが、一瞬Hさんを見て、頭を低くしたと思ったら
突進を始めた。
ってところで、目が覚めたそうです。
「俺は何でこんなこと夢に見るんだ?
・・・うーん。
裏山に行きたい、行かなくては」
と、そんな気持ちで一杯になったそうです。
©Ryouhei
家族に伝えても、きっと止められると思い
こっそり自宅を抜け出して、裏山に向かいました。
ランは連れて行かなかったそうです。
取り敢えず、頂上を目指そうと思い登り始めました。
暫くすると、先程、夢で見た風景の場所に来ました。
「ここだ・・・」
とHさんが思った時、
目の前に、ソレが現れたそうです。
現れるというより「出現した」が当て嵌まっているそうです。
でも始めは、
まだこれも夢なのか、自分は幻を見ているのか?
とも思ったらしいのですが、
あまりにも異様なソレをジックリと見たそうです。
ソレは、シカとかと違って、というかHさんの
これまで見て来た生き物の、どれにも該当しないモノで、
驚きの声を出すタイミングも忘れるくらいの存在で、
叫ぶ事も出来なかったそうです。
何となく、犬に似てると言えば似てる、
ランを連れて来なくて良かった、と思いました。
山道一杯というか、Hさんの視界一杯に存在し
尻尾の様なモノも確認出来るソレは、
肌というのか全体の質感は、
何とも綺麗で柔らかそうに、溶ける様な感じがして、
呼吸しているのか、微妙に伸び縮みしている。
目らしきモノは3つあり。見ていると吸い込まれる感じがしたそうです。
ソレが、目前を塞ぐ様に出現した。
それと、ソレの周りには空気が壁をつくる様な感じがして
頂上へは行かせて貰えないと、感覚で分かったそうです。
「行っちゃいけないのか・・・」
そうHさんが思った瞬間、ソレは消えたそうです。
本当に、パッと・・・。
Hさんは、これが夢じゃないのか?とも思いましたが、
そうでは、ありませんでした。
Hさんの立ち尽くす場所から、ソレが居た場所、
もう居なくなった場所を見ると、そこだけ、枯れ葉が押し潰されていたそうです。
Hさんは、「行っちゃいけない」と伝えられたと思い、
頂上には行かず、自宅へ戻ったそうです。
©Ryouhei
家族から、散々怒られて、病院に行きました。
「アレ、何だったんだろ・・・」
その日の病院のベットの上で、出来るだけ詳細に思い出しメモ書きしました。
翌日は検査で、色々な検査を受けましたが、医者と看護師の様子がおかしい。
慌てているのです。
何となくHさんは、思い当たる結果がありました。
そう、ガンが消えていたのです。
同じ様な検査をまた受けましたが、結果は同じく、ガンは消えていました。
何か理由は分からないが、アレを見たからか?
不思議な事だが、人生得した、と思ったそうです。
しかし、翌日
今度は、ランの様子がおかしくなり、
即病院に連れて行き診てもらったのですが、
あっという間に亡くなってしまったそうです。
原因は細かくは不明だけど、老衰などではありませんでした。
「勝手に身代りになりよって・・・」
そう思うと寂しさが込み上げて
泣いてしまったそうです。
ご家族も
「ランがお父ちゃんの痛いとこ持って行ってくれたんだね」
としみじみ言っていたそうです。
ランの存在の比重が大きかった事が、改めて分かって
病気をした時よりも、ランとの別れに落ち込んだそうです。
それから、数日して
Hさんの庭を「黒猫」が
何故か、縁側に座り込む様になったそうです。
そこは、ランのお気に入りの場所でした。
Hさんは、追い払おうとせず、距離を詰めるでもなく
いつしか、一緒にいることが多くなり、とうとう飼う事にしたそうです。
Hさんを慕ってか、黒猫もHさんの移動等に付き合って
どこ行くのも着いて来たそうです。
近所の人達も
「ランが戻って来た」
「西郷さんが帰って来た」
と口々に言う程でした。
それもあってか、ガンとランの騒動で減った体重も
段々と戻って行き、ある日、何気なく
「よし、久し振りに山へ行くか」
黒猫とは初めて一緒に、山へ行こうと思いました。
用意を済ませ、玄関を開けた時、
「・・・!?」
ソレが目の前に、また出現したそうです。
今度は昼間の下界、夢などではありません。
「ちょっと触ってみるか・・・」
とHさんは玄関を出ようとしますが、触れません。
というか、前に進めないのです。
「なんで・・・」
空気の壁があるように、ソレに近付く事が出来ないのです。
「毎回、何なんだ?お前は」
少しイラっとして力を入れてみても、全然駄目、
まるで、水中にいる様な感じさえしました。
その時、気付いたそうです。
「山か、山に行っちゃいけないのか?」
山とソレは何か関係があるんじゃないか、と思ったそうです。
すると、突然、パッとソレは消えました。
「!?」
ソレを触ろうとしていたHさんは、前に進もうとしていた体制を
急には戻せず、そのまま前進して外に出たそうです。
「全く、何だったんだ?」
と口に出すと同時に、
「ランっ」
黒猫の事が心配になりました。
慌てて、縁側に駆け出すと、
縁側の端の所で、嫌な方向に倒れている黒猫が見えました。
黒猫は元々高齢だったらしく、Hさんに看取られてそのまま亡くなったそうです。
当然、Hさんは悲しみ、調子の良かった体調もイマイチになったそうです。
そんな中、、
今度は小さな「黒猫」がHさんに助けを求める様に現れました。
前の老猫が亡くなった後、ランが好きだった縁側の同じ場所に突然現れて、
Hさんを見て鳴き続けたそうです。
Hさんは、ピンと来て直ぐに飼う事にして病院に連れて行きました。
見た目が酷く、顔が歪んでいるのか、噛み合わせがガタガタのボロボロで、
他の猫にいじめられていたのか体中傷だらけで
動きもスローでおぼつかず、エサも上手に食べられません。
Hさんは、ランと老猫の分まで小黒猫に愛情を注ぎました。
目も真面に開いてない位、腫れていましたが、
Hさんの懸命な介護で段々と、元気になって行きました。
腫れの引いた目でHさんを見て、
前足を、ヒョコッ、ヒョコッ、と飛ぶ様に駆け寄って来る、
Hさんが
「もう、安心」
そう思い始めた時、Hさんの住む地域で災害が
長雨豪雨の自然災害が起きました。
Hさん達は全戸避難の指示に従って避難所に行こうとしていました。
「ランがいない」
いつからか、その小黒猫も自然に「ラン」と呼ばれていました。
慌てるHさんですが、ランは家の近くに見当たりません。
「なんでこんな時に・・・」
懸命にランを探しますが見つかりません。
避難援助で自衛隊も来る事態になってました。
これ以上は待てないと言われ、周りにも説得され
ランを見つけられないまま、自衛隊のボートに乗り込みました。
豪雨の中、避難所への移動が行われました。
避難所までの途中でもランが見つかれば、Hさんは目を凝らしていました。
その時、例の山が目に入りました。
何気に見入っていると、
ドンっ
という凄まじい音がしました。
「おおぉ」
と、Hさんは驚きました。
けれど、不思議にボートに乗っている他の人達には、
聞こえて無い様子でした。
隣に座る奥様に
「おい、今、山からドンって聞こえなかったか?」
尋ねましたが、
「聞こえないわよ」
と素っ気なく言われてしまいました。
そうする内に避難所に付き、Hさんはランを心配し一晩を過ごしました。
避難して来た近所の人達も、、
「西郷さんも来てるなら」
「Hさんもいるなら」
と、Hさんを見つけて安心した様でした。
Hさんは、ずっとランの事が心配でなりませんでした。
翌日、水が引いた頃、自宅への一時帰宅が許された時、
Hさんも名乗りを上げて、一時帰宅をしました。
町は見事に荒れていました。
信じられない様な光景が広がっていました。
大きな岩や大木が、大木?
そうだ、鳴った山はどうなったんだるう・・・
自宅に戻る途中、山を見ると
「!?」
形が変わっていました。
「崩れたんだ・・・」
登れない状態で見る山は、頂上付近が崩れて違和感がありました。
「何か関係があるのか?」
今まで起こった不思議な事が思い出されました。
「ラン」
Hさんは、ランの事が益々気になり出しました。
自宅に向かうスピードが速まりました。
粗大廃棄物になってしまった、それまで意味のあったもの達の向こうに
自宅が見えました。
奇跡的にほとんど何の被害も受けて無いかの様でした。
「ああぁ」
Hさんの家の門扉にの上に、
狛犬の様に小黒猫のランが座り、命尽きていたそうです。
Hさんが慌てて手を差し出すと、その手に向かって倒れて来ました。
Hさんは暫くその態勢のまま小黒猫のランに感謝を伝えたそうです。
ご自宅は、本当に不思議と被害無く無事だったので、今でも
「ランが三代に渡って護ってくれた」
とHさんと家族、近所の皆さんで話しているそうです。
©Ryouhei
「不思議だけど、これ本当なんだよね」
Hさんは、そう言いながら話して下さいました。
不思議な夢も、不思議な生き物も
理由や正体は、分かりません。
アレとランの繋がりはあるのか?
白いシカが何なのか?
何にも答えがありません。
実際の不思議な話は、オチなんていうものがある方が少ないのです。
どっとはらい。
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