ドーナツの穴みたいにさ
ドーナツが好きだ。
今の町に引っ越す前、自宅アパートから徒歩3分の場所にミスドがあった。前職でへとへとになった金曜の夜、ドーナツを買って帰って翌朝に食べるのが数少ない癒しだった。
現在は住んでいるマンションから1番近いミスドは隣町と少し遠くはなったが、ミスドの気配は感じられるので良いとしよう。
ドーナツとカルチャー
大好きなポッドキャスト、『味な副音声~Voice of food~』の最新回「ドーナッツというベストフレンド」において、村上春樹がドーナツについてラジオで語っていたことに触れていた。
ドーナツ、たとえ何があろうと、何が起ころうと、世の中には絶対に必要なものですよね。ドーナツ本体ももちろん素敵ですけど、「ドーナツの穴」という無の比喩も社会には欠かせません。ドーナツはいろんな意味で、世界を癒やします。がんばってドーナツを作り続けてください。僕は常に、ドーナツ・ショップの味方です
コロナ禍で2週間、ショッピングセンター内のドーナツ・ショップを休店していたという男性のメッセージに村上春樹はこう答えていた。2020年、私たちは明日の見えない状況で、自粛自粛と生活に不必要だとされる娯楽を奪われ続けた。そんな中でもドーナツは世の中に絶対に必要なものだと言い切ってくれる村上春樹にふふっと笑いながらも安心した。
そういえば、『羊男のクリスマス』の羊男はドーナツ・ショップで働いていたな。
この作品では“穴の開いたドーナツ”を食べたことで呪いがかかってしまったのでねじりドーナツを持っていく……なんてくだりがあるように、ドーナツが重要なアイテムとして出てくるのでやっぱり村上春樹はドーナツが好きなんだろう。
ドーナツといえば、米津玄師が“ハチ”名義で発表した『ドーナツホール』を思い出す人もいるかもしれない。村上春樹はドーナツの穴を“無の比喩”と言っているが、『ドーナツホール』でキーワードとなっているのもドーナツの穴。ドーナツの穴はクリエイターを惹きつける何かがあるのかもしれない。
アニメ『SHIROBAKO』でも「どんどんドーナツどーんと行こう!」なんて掛け声が出てくるし、『キラキラ☆プリキュアアラモード』のクライマックスでは主人公たちをマスコットキャラのペコリンがドーナツで助けている。あと『物語シリーズ』の忍野忍はゴールデンチョコレートが好きだった。
ミスド、最高
忍野忍はゴールデンチョコレート推しだが、私はエンゼルフレンチが好きだ。
ほどよいクリームの量で十分な食べ応え。チョコが全部かかっていない、半分だけっていうのが奥ゆかしい。某コンビニに類似商品が売っていたが、たっぷりのクリームと全面にかかったチョコレートで「ここまでされるとな……」とお腹いっぱいになってしまった。エンゼルフレンチの魅力のひとつはあの軽さにもあるのだ。
いつぞやは1つで2種類のドーナツが食べられる“夢のドーナツ”なんて企画があり、エンゼルフレンチはアーモンドチョコクリームと合体していた。夢の中に出てくる、お菓子でできた町を走る車のタイヤってこんな感じなのかもしれない。
ちなみにミスドの一部店舗では、事前予約制で60分ミスド食べ放題が楽しめる。大人は1,200円、小学生以下は700円。60分もミスドのドーナツを好きに食べられて、ドリンクも飲み放題で1,200円だ。ありがとうミスド。
ただ、元を取ろうとして欲張ったり、クリーム系やポン・デ・リング、パイのようなお腹にたまるやつから攻めると詰む。元を取ろうとするのではなく、机いっぱいのドーナツを眺めるのが程よい楽しみ方なのかもしれない。
ミスドは飲茶も美味しい。ドーナツと飲茶って一見ミスマッチに思えるけど、スープがあっさりしているのでドーナツと合う。テイクアウトセットだとミネストローネとかワンタンスープとセットにできたりもする。ミスドは甘いだけじゃなく、しょっぱい系も強いのだ。かわいいだけでなくめちゃくちゃ強い女の子キャラみたいな趣がある。
これ復活してくださいミスドさん
現在もピエール・マルコリーニとのコラボドーナツがバカ売れ、いまだに私も食べられていないがミスドはこれまでにもさまざまなコラボ商品や期間限定メニューを売り出してきた。個人的に復活してほしいメニューもたくさんある。
堂島ローナツ(2019)
クリームに定評のある堂島ロールとのコラボ商品。たっぷりのクリームといえば胃にくるイメージだけど、そこは堂島ロールとのコラボ。ふわっとしたクリームが重くない。冷凍庫で冷やすと表面がパリパリしてまた別のドーナツになる。
ミルククリームの方はチョコビスケットがトッピングされていて、食べるとざくざくするのも良かった。ふわふわ系のお菓子にはこういう食感が全然違うトッピングが欲しい。
ハムタマゴ(1994)
父が「ミスドで1番美味い」と販売終了後もよく言っていた。マヨネーズで味付けされた卵とハムをパイ生地で包んで焼いた商品だが、パイ生地のサクサク感も含めおかず系パイとして完成度が高い。
2017年にはドーナツタイプの「ハムタマゴ」が販売されていた。これはこれで美味しかったがパイ生地ではないんだよな……と思った。
コットンスノーキャンディ(2014)
口に入れたらなくなるほど軽い、コットンスノーキャンディ。2019年までは年々味のバリエーションも増えていたが、2020年は販売せず。すぐに溶けてしまうのでテイクアウトには適さない点から販売されなかったのかもしれない。(2020年のドリンクメニューはタピオカが中心だった)
「カルピス」ドーナツ(2013)
2013年夏に発売された、カルピスとのコラボドーナツ。カルピスの甘酸っぱさが楽しめるクリームが新鮮だった。翌年はチュロ、シューエクレとカルピスとのコラボ商品も増加。
一口サイズのミスドビッツもカルピスとのコラボverが発売されてたのも嬉しかった。当時はよくお土産としてこれを持っていってた気がする。
クロナッツ(2014)
クロワッサン×ドーナツというNYの流行りスイーツをミスドが作ってみました的なやつ。サクサクなクロワッサンの層ともったりしたクリームというカロリーの化物。カロリーは400kcalくらいで、大体ラーメンと同じくらいと聞くとそのヤバさが伝わるでしょう。でも美味しいんだなこれが〜!
書を捨てよ、ミスドに行こう。
ミスドの運営会社のダスキンによると、2019年3月末時点のミスドの国内稼働店舗数は1007店で、前年から79店減っているらしい。ミスドは年間70~80店規模の大幅減が3期連続で続いており、苦境に立たされているのだ。
ピエール・マルコリーニコラボで今は連日大盛況だけど、コンビニスイーツの台頭や健康志向の人が増えた影響でミスドはダメージを受けている。今あるあの店舗も、いつなくなるかわからない。そう考えると、ミスドにお金を落とさなければという使命感に駆られる。
そういうわけで、村上春樹も味方だと言っているドーナツ・ショップの代表、ミスドにみんなも行こう。