肉食女子

口づけを交わすと

彼女の唾液は

獣臭い香りがした

牛や豚

鶏などのよくある肉香ではなく

明らかにそれらとは違う

巨獣臭

何度も口づけを交わし

その匂いを鼻に抜けさせながら

俺は今夜の俺自身の行く末を案じた

もしかしたら俺は

この肉食女子に喰い殺されてしまうのではないか

もしかしたら俺は今夜この絶世美女に

入れ墨キャベツのごとき

怪しげな魔法でかき消されてしまうのではないか

しかし

もしかしたら俺は

何事も無く

いつものように

契っては捨て

契っては捨ての一夜を繰り返すだけなのかもしれない

いや

それはあり得ない

この彼女の唾液から滲み香る恐獣臭は

彼女がそんじょそこらの肉食系女子とは

一線を画することを匂わせている

言うなれば

肉食女王

肉食女王様

そして俺は

女王様に差し出された今宵の生け贄

数時間前の俺は

自ら彼女の前に立ったが

しかし今ではそれを後悔している

彼女は普通ではない

彼女は並では無い

言うなれば特盛り

特盛り女王

特盛り女王様

俺は彼女に添えられたインスタント味噌汁

もしくは漬け物

せめて豚汁かけんちん汁になりたい

せめて豚汁かけんちん汁にはなりたいものだ

さあ

それでは肉食女王よ

せめてものお願いだ

哀れな民の願いを聞き入れてくれないか

俺の血を飲み干し

今宵の正餐は

我がキンタマとしてくれ。

お慈悲を! 

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