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2/7 エレベーターはピザの匂い

今朝。
恋人が恐竜を育成しすぎていて私はとうとうしびれを切らした。
仕事が終わって恐竜育成、朝起きて恐竜育成、お風呂の中で、布団の中で、育成、育成。恐竜が頭の中だけに収まらず、遂に言葉として溢れて「恐竜はロマンだよなあ」とか小学生みたいな独り言が漏れていた。そんな恋人を無邪気でかわいいなんて到底思えなくて、じゃあ恐竜博士になればよかったのにと思った時にはもう我慢の限界を迎えていた。
私の存在は、実在しない恐竜より価値がないのか。怒りというより寂しさが込み上げる。恋人は反省したようで、私の好きな優しい声で謝ってくれたけど、許さないまま出勤した。

出鼻を挫かれたので、仕事は散々だった。ことあるごとに腹が立った。
体調不良で欠勤したスタッフに腹が立つ(体調不良だから仕方がないのに)。
やったことのない仕事を振られて腹が立つ(自分からやると言ったのに)。
ビカビカと好き勝手に鳴るナースコールに腹が立つ(それが仕事なのに)。
絡まるコードに腹が立つ(ほどけばいいだけなのに)。
心の中で100回舌打ちした。

残業中恋人からLINEが届いた。

今日は一緒に映画でもどうですか。
早く帰るし、映画に合う物用意して待ってるよ!

恋人からの気遣いLINE

この一報だけで、今日1日の私の心は癒された。患者さんの便が手について臭くなったこと、看護師の忙しさを他職種になめられていること、転職したいのに「これからは君が中心になって回していく」と当然のように言われたこと、全部泡になって弾けていく。

マンションのエレベーター内はピザの匂いだった。
玄関を開けると明るくて暖かい部屋で恋人がピザを並べていた。「おかえり、今朝はごめんね。」と寂しそうに笑って私を出迎えた。

明日もきっと目が回るほど
忙しく走り回る。

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