ロイヤリティの未来の形を考える
※この記事は2023年8/26に公開したものです。
こんにちは、Gussanです。
今回は先日、Openseaが発表したNFTのロイヤリティの実質的な廃止にあたって、自分の考えるNFTのロイヤリティのあれこれを綴っていきます。
ロイヤリティ戦争に関する出来事は弊社のリサーチでまとめので是非読んでいただければと思いますが、今回の記事は僕の個人的な考えになります。
そもそものロイヤリティって…
今回のOpenSeaのロイヤリティに対する仕様変更をまず振り返りましょう。
Operator FilterというのはOpenSeaが定めたロイヤリティを執行しないマーケットプレイスのブラックリストみたいなもので、Operator Filterを適用しているNFTはブラックリスト入りしているマーケットプレイスでは取引ができませんでした。
そのフィルターが8月31日に廃止され、クリエイターへのロイヤリティはユーザーの任意になります。ユーザー体験は、クリエイターへのチップを払うかどうかを販売者が決定し、そのNFTの購入が決まれば予め定めた料率に基づいてロイヤリティとして支払われるという形式になります。
今回の決定からも分かる通り、OpenSeaのロイヤリティの有無は、OpenSeaの一存で決まりました。すごく当然のことを言っていますが、ロイヤイリティはオフチェーンでの処理だからです。この話も記事を書いてます。
「なんでロイヤリティをオンチェーンでやらないんだ」ともなりそうですが、ロイヤリティをオンチェーンで実装するのはとても難しいです。Wrapした時点でロイヤリティを強制することはできませんし、どこまで行っても回避策が出てきてしまいます。多分、ロイヤリティを強制するというものは、ERC-721Cのホワイトリスト形式が限界ですが、これにも欠点があります。(コントラクトアドレスのホワイトリストなのでAAに対応できないとか)
上記の内容の通り、OpenSeaというマーケットプレイスを通して取引をすることで、クリエイターに対してロイヤリティを保証します、ただし、外のマーケットプレイスではそれが保証できませんというのがクリエイターロイヤリティのそもそもの性質になります。
ロイヤリティはOpenSeaのクリエイターに対するリスペクトの念として設計されたもので、OpenSeaが大きくなった結果、ロイヤリティがデファクトスタンダードになっただけです。
売買者からすれば、ロイヤリティはいわば手数料です。とられる手数料が安いところにユーザーが移っていくのは当たり前です。なので、ロイヤリティの廃止は正直仕方ないと思っています。
別に、ロイヤリティを採用しない=クリエイターへのリスペクトがない、ともあんまり思いません。「ロイヤリティはNFTの最大の利点だったのに!!」みたい投稿も見ましたが、全然そんなことありません。NFTの市場における暗黙のルールなだっただけですし、さらに言えば、ロイヤリティという仕組みを実装しやすいトレーサビリティを持っていただけです。
クリエイターにとってのNFTの真価 ≠ ロイヤリティ
国内外問わず多くのクリエイターさんが嘆いていたロイヤリティの廃止ですが、ではクリエイターにとってのNFTとはどんな価値があるんでしょうか?少なからず、ロイヤリティが保証されているという仕組みがNFTの真価だったとは思いません。
正直、ロイヤリティを強制させる仕組みとして現状一番近いと思われるERC721C(取引できるマーケットプレイスをホワイトリスト制にする規格)にも正直あまり賛成ではありません。理由はネットワークの拡大を阻害する要因になるからです。(僕の記事を読んでいる方からするとしつこいと思われそうですが…)
これまで自分の雑記ブログでは何度も書いてきましたが、ネットワークというのは価値そのものです。なぜその商品に、その絵画に、その貨幣に価値があるかというと、そのアセットに価値があるというコモンセンスのネットワークを持っているからです。ブロックチェーンの強みは、ネットワークおよび価値を形成することにあります。
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今回はクリエイターロイヤリティの話なので、アートを例としますが、アートの価値を高めるには多くの人が知り、多くの人が魅力を感じるネットワークを形成・拡大する必要があります。そして、アートのネットワークを形成を阻害する要因は取り除かれるべきだと考えています。
取引できるマーケットプレイスを制限するということは、ネットワークの拡大機会を失うことと同義になります。取引するユーザー間には関係のない制約ですので、売れたはずの人に売れない、買えたはずの人が買えないなんて事態が起こり得ます。
とても雑な例ですが、2つのNFTを用意します。
ERC721Cを採用して1つのマーケットプレイスでしか取引できないNFT(A)
通常のERC721を採用してあらゆるマーケットプレイスで取引できるNFT(B)
結果的に、Aは10回取引され、Bは50回取引されました。次に、それぞれの作者が新しく作品を出すとしましょう。この時、Aは10人、Bは50人が次作品の認知をしている状態になります。どちらの方が価値がつきやすいかというのは、ネットワーク=価値であるという前提に立つとBになると思います。(ネットワークの質的なものは問いません)
とても極端ですが、機会損失するというのはそういうことです。
本当にNFTというツールの効用を最大化するのであれば、ネットワークの拡大を阻害する要因を徹底的に排除することに尽きます。
NFTプロジェクトとCC0が相性がいいのはネットワーク拡大の阻害要因である権利関係を解放しているゆえです。CC0コンテンツから新たなコンテンツが生まれて、それに触発され別の作品、また別の作品…といった感じでCC0のコンテンツを起点としてネットワークが拡大します。そうするともちろん大元のCC0のコンテンツの価値は上がります。
コンテンツを基点としたエコシステムとしてのアート、これがクリエイターにとってNFTを使うことの真価かと思います。
ロイヤリティの別解
ロイヤリティが失われるのは仕方ないと書きましたが、それは既存の仕組みにおいての話です。これまでのロイヤリティというの受動的すぎました。手数料的にとられるというのは、売り手としては減らしたいと考えるのは当然です。
もう少し能動的にロイヤリティを支払う仕組みがあってもいいと思います。経済的な合理性を超えた面白さや楽しさ、優越感などの感情的な価値をベースに行えるようにするのです。投げ銭とかは多分、それに近いです。
ちなみに今回のロイヤリティの任意性は悪くないと思っています。ロイヤリティを払うかどうかは売り手負担なのでもちろん、売り手が決めます。コアなファンが売り手ならば、ロイヤリティを払いたくてロイヤリティをオンにするかもしれないし、買い手ならロイヤリティがついてるものしか買いません!と表明することで売り手を誘導することができます。クリエイターとしてもどの人がロイヤリティを払ってくれたのかのトランザクションも確認できます。
ロイヤリティを能動的に支払う仕組みが具体的にどんなものかと言われると正直わかりませんが、やっぱりPhiは一つのロールモデルかと思います。
先日、普段から愛用しているMirrorとPhiがコラボした際に、Mirrorのオブジェクトのclaimの条件がほとんど読む方に偏っていてブチギレてました。しかも、その記事のNFTをmintしないといけない、まあまあな手間です。ただ、僕もMirror愛用者としてせっかくならオブジェクト集めたいと思い、クエストに取りかかりました。Mirrorのトップページに表示された記事のNFTをただmintするのはつまらないので、Twitterで募集をかけました。結局、紹介してもらったやつは全部読みましたし、NFTもmintしました。
僕はこのPhiというサービスを通して記事のNFTをmintしたんです、しかも有料の。全体を通してみれば僕はライターに対してPhiというきっかけから能動的に投げ銭的なものをしたわけです。
これに似た仕組みをクリエイターに対してできる気がしています。半ば強制的に支払わせたフィーと支払いたくて支払ったフィー、同じ額でもユーザーの心持ちは全く違います。むしろ本当にファンであれば自分が支払ったことに優越感すら覚えるかもしれません。
こういうdappsあったら教えて欲しいです。
まとめ
ロイヤリティの実質的な廃止というのはかなり衝撃的なニュースでしたが、ERC721Cとかロイヤリティの任意性とか、今後もどうなるか注目したいです。ロイヤリティ周りの話は面白いので適宜、発信していきます。
また、これまで受動的に支払っていたロイヤリティを能動的に支払いたくなるプロトコルとか出てきたら面白いと思います。アイデアとか出てきたら、そちらに関しても発信していきます。すでにあったら教えて欲しいです。
クリエイターへのリスペクトは持ちつつ、ロイヤリティの強制をNFTにおける正義とするのはなかなか難しいと思います。貴重な収益かもしれませんが、そこに囚われた結果、クローズドになり機会損失を発生させるのは、さらに不幸な結果を招きます。
NFTひいてはブロックチェーンを使うのであれば、オープンにしてネットワークを最大化させるムーブをかまして欲しい、という個人的な思いはあります。
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