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12星座もしもシリーズ59話(夏休み閑話編2)
ちり~~ん
店のドアが開き、そこから出て来たのは・・・・・・。
なお「ようこそ!入船亭へ!」
言葉尻は上げなのだが、なんだか無理してテンション上げてる?って感じの性別不明な感じの人が三人を出迎えた。
店内は、薄暗くでも、どこか懐かしい感じが漂っていた。
蠍「あ!これって!!!今じゃ手に入らない、かなりの値段付いてるカードですよね?」
ガラスケースに収まっている数々のタロットや、カード類は絶版になっているものも多かった。
水瓶「なおさん、シフォンケーキの作り方、よろしくです!!!」
なお「んん!では、キッチンで教えるね。」
水瓶「じゃ、俺、シフォンケーキの作り方習いに行くね!」
と、奥へと消えて行った水瓶。
店内に並べられてたテーブルの一番奥、蠍と蟹は水瓶に置いてけぼりを喰らって途方にくれていた。
蠍「で・・・。私達はどうすればいいの??」
魚「少し待っていればいい・・・。たぶん??」
待つこと1分ほどで店さきに人が現れた。
神秘な雰囲気の人を創造していた二人だったのだが、神秘さ皆無でどちらかというと、お役所の人?のような少しお堅い雰囲気で、でもある意味安心できるようなそんな人物が二人の前に現れた。
ショートカットのすっきりした髪型、ジャケットとパンツという組み合わせながら、スーツ的ではないものの、砕けすぎていない、そんな絶妙な雰囲気を持ってる人だった。
久遠「待たせてしまいましたか?占いの件で水瓶君から話しを聞いていました、久遠と申します。」
深々と頭を下げ、名刺を差し出す。
それを受け取る二人。
蠍「いえいえ!今日は無理なお願いを聞いていただきありがとうございます!」
魚「しかも、格安で占って貰えるなんて感激です!ありがとうございます。」
二人を、カーテンで仕切られた奥の部屋へと案内した久遠。
丸テーブルを囲み、久遠、蠍、魚の三人が座る。
占いのレクチャー前に、それぞれの悩みについて久遠さんが占うという話になり。
まずは、魚ちゃんの悩みから。
蠍『そういえば、身近だったからか魚ちゃんの悩みって聞いた事ないかも?』
なんて思う蠍だった。
魚「私、自分に自信がないんです・・。自己肯定感が低いんだとは、自覚してます。でも、それってどうすれば変えられるんでしょう?そもそもに、自信ってナニ?なんです・・・。」
久遠「自信がない、ですか。どういった所でそう感じます?」
魚「えっと・・・。学園でもそうですけど、家族と会った時が一番かも・・・。」
久遠「魚さん、差し支えない範囲でお話してもらっても良いですか?まず、ご家族との関係ですが・・・」
と言った感じで久遠さんが魚ちゃんから話しを聞き出したのだが・・・。
魚の母方の祖母は往年の名女優と呼ばれるような、大御所。その存在感と演技力で、世界的な女優としても活躍している。
ママは自ら母にはない資質を見出し、女優の2世としてではなくアイドル歌手としてデビュー。
その後、シンガーソングライターとして、数々の名曲を作り出す。
父方の祖父は、映画史上に名を遺す世界に名高い映画監督。
そんな祖父の想いを受け止め、この国の演劇を支えて行こう!と奮起し現在、あらゆるメディアにひっぱりだこな名優にまでなっているパパ。
魚「こんな人達の期待を受けてるって・・・・。耐えられなくなって今の学園に来たんです。でも・・・」
久遠「魚さん、親御さんやら周りの期待とかはまずは置いておきましょうか?」
魚「はい・・・。」
魚ちゃんの話を聞いて驚いた蠍。
今まで全くそんな素振りも見せてなかったのに・・・。
少しぼ~~とした、でもそれが守ってあげたいオーラを出してて人を惹きつける、そんな風に魚のコトを思っていた蠍。
そして、惹きつけた人達を更に自分の土俵へと引っ張りだすというのを無意識にやってるんだろうな、なんて思っていたのだった。
蠍『なるほど!私って、占いにばかり集中してて、その前に相手から聞き出す事が不足してたのかも!占いっていうけれど、不確かな部分の前に相手の話をうまく引き出す事が大事なんだ!聞いてもらえただけでも、占って貰う方は信頼感も上がるわけだし!』
なんて感じで久遠の占いを見ている蠍。
久遠「で、今一番の悩みは、自己肯定感というよりは好きな人に振り向いて欲しいってコトじゃないかな?」
蠍『えええ??魚ちゃん、好きな人いたの???てか、なんでそこになる??ん?もしかして、水瓶君とか?バスで頭載せてたし・・・いやいや、ないだろ、さすがに(笑)・・・・』
魚「・・・・。はい。でも、付き合いたいとかっていうか、自分で自分の気持ちが良く分からないんです。」
そんな感じでカードを展開してアドバイスを貰った魚だった。
占いが終わってすっかり笑顔になった魚。
魚「ありがとうございました!!スッキリしました!じゃ、蠍ちゃん、私水瓶君と一緒にケーキ作りするね!!」
そう言いながら、奥のキッチンへと移動した魚だった。
蠍「了解~~です。」
なんて答えながらもなんだか腑に落ちないなぁ、と思う蠍。
久遠「蠍さんは、占いたい事ありました?LUINには特に書かれてなかったけれど?」
蠍「今の久遠さんの占い見て、大分参考になりました!後は練習あるのみ、かな?って思ってます!」
久遠「蠍さんは、すごく真面目な人だね。何事にも全力で向かって行くし。でも、ここのところ少しだけお疲れ気味かな?(笑)」
蠍「え???そんな事ないです!」
久遠「少し待っててね。」
席を立って店の奥に入って行った久遠。
蠍『・・・・。真面目かなぁ?んんん???てか、逆に行き過ぎるってコトの方が多いような??』
久遠「お待たせ!」
トレイにシフォンケーキとハーブティーポットとカップを載せて、久遠が戻って来た。
久遠「カモミールをベースにローズヒップやオレンジ、ミントとかブレンドした、当店特製のハーブティーね。こちらシフォンは黒ゴマのシフォンケーキ。ゴマの濃厚さをハーブティーですっきりさせるので、ついつい食べすぎちゃうんだよね(笑)」
蠍の目の前に出されたのは、真っ黒なシフォンケーキ&ホイップクリーム&オレンジ+ミントのケーキ。
と、まずはオレンジの香りとリンゴ=カモミールの香り立つお茶。
蠍「!!食べる、飲む前から美味しそうです!」
久遠「まずは、召し上がれ!」
まずは、シフォンケーキそのものを口に入れる。
黒ゴマの香ばしい香り、濃厚な味わいが舌を通して鼻に抜ける。
だがしかし、このお話はグルメな物ではないので、ここで美味しさ描写は割愛させていただきます!
蠍「ふぅ・・・・。すごく美味しかったです!」
久遠「そう言っていただいて、感謝しかありません!時間も限られてますので、蠍さんの悩み、お聞かせくださいますか?」
蠍「私自身の悩みはなし!です。ただ、魚ちゃんの事が気になります・・・。私には理解出来なさすぎて・・・。」
久遠「あ~~、水瓶君との事?それって考えるだけ無駄ですよ(笑)あの二人の間にある感情って「懐かしさ」カップ6的な感じなんですから。」
蠍「・・・・。私、魚ちゃんが元気になって以前のように一点の曇りもないような笑顔を見せて欲しいんです。」
蠍の手をじっと包み込むように握る久遠。
久遠「蠍さん、いつまでも変わらないモノってないんですよ?あなたが感じているように魚さんは変わってきているのでしょう。その変化を受け入れられない蠍さんもいるのでしょう。
でもね、しっかりと現状を見る事、客観視出来る事も占いには大切だと思うんですね。」
蠍と久遠がいる部屋の外がざわざわしている。
二人がいる部屋のカーテン越しに
魚「まだ??水瓶君のシフォンケーキが焼けたよ!!食べようよぉ~~」
といった声が。
久遠「わかった!今行くね!」
蠍「・・・・。」
久遠「まずは、ケーキを食べにいきましょうか?とはいえ、シフォンって焼きたてが美味しいとは思えないんですけどね(笑)」
と、店内に入った久遠と蠍。
テーブルにはケーキとお茶が5人分用意されていた。
水瓶「魚ちゃん、これはシフォンじゃないからね!パウンドケーキ!だから。」
魚「んっと、でもケーキでしょ?」
水瓶「う!!」
なお「まぁ、試食しようや!」
久遠「ケーキ、ケーキ♪」
蠍「美味しそう!もたもたしてると、魚ちゃんと水瓶君の分も食べちゃおうかな?」
魚「う・・・」
水瓶「ま、どっちでもいいか(笑)食べようよ、魚ちゃん!」
魚「んん・・・。だねぇ~~!」
新学期が始まる少し前ののどかな夏休みの1日だった。