お友達
「ねぇ、私ユーチューバーをやろうと思うの。
だから貴子さん、フォローしてね」
突然、72歳の義母がそんな事を言いだした。
義母が住んでいるのは、私達夫婦が住んでいる町の隣の町だ。
義父は5年前に亡くなり、その時一人息子の夫が義母を引き取りたいと言い出した。
どうせ反対しても、夫の事だから自分が決めた事は押し通すのだろう、と思って私は反対しなかった。
けれど、義母は一人で暮らすと言い張った。
「せっかく口うるさい旦那がいなくなったんだもの。
一人で好き勝手に生きて、残りの人生を楽しみたいのよ。
だから私のコトは放っておいて」
毎日LINEをよこす事を条件に、夫はしぶしぶ義母の言い分を承諾した。
それまでスマホどころかガラケーも持っていなかった義母に、果たしてスマホが使えるのか心配だった。
でも、もともと経理事務をやっていて、PCを使いこなしていただけあって、義母は思いのほか早くスマホを使いこなせるようになった。
毎日あちこちに出歩いているらしく、今日はフラダンスをやってきた、明日は絵画教室で明後日はコンサートを聞きに行く予定と、常に予定もびっしりのようだった。
2か月ぶりに義母の家を訪れた。
庭はキレイに手入れされており、家の中もキレイに片付けられていた。
「あら、随分キレイにしているのね」
「庭いじりが好きなお友達が出来てね、それで、草取りやら手入れを頼んでいるの。
家事が好きなお友達もいてね、しょっちゅう掃除に来てくれて、料理までしてくれるのよ」
「あら、パソコン買ったの?」
テーブルの上にPCとおぼしきものがあった。
「これね、タブレットなの。
キーボードをつないで使っているのよ。
記事を書いたりするなら、スマホだと画面が小さすぎてね」
「え?義母さん、記事なんか書いてるの?」
義母が見せてくれたSNSは、なんと友達が3000人以上で、上げた記事には「イイね!」が300を超えていた。
私もお友達になった。
家に帰って、子供達や夫にも義母がやっているSNSを教えてあげた。
SNSには、日々の習い事や友人達との交流の写真などが主で、おひとり様を満喫している楽しい老後、みたいな感じの記事が多かった。
アイコンの写真も誰かに撮って貰ったのか、実物の5割増しくらいに良く写っていた。
「母さん、意外と社交的だったんだな。
親父がいた頃は、家から出て何かをやるなんて、一切していなかったのに。
本当は、こうやって沢山の友達が作りたかったのかもな」
「そうね、お義父さんは人と付き合うのが嫌いだったし、お義母さんが外に出るのを嫌がっていたしね。
今、お義母、とても幸せなのかもしれないわね」
「お義母、ユーチューバーだなんて今度は何をやるの?」
「お友達から教えてもらったのよ。
こういった動画サイトにアップすると、世界中の人に見られやすいってね。
せっかくなら、世界中にお友達作りたいのよ」
「こんにちは!」
玄関を開ける音がした。
玄関には5人ほどの人がいた。
カメラや機材を持っている人もいた。
「こちら、うちのお嫁さんの貴子さん。
貴子さん、こちらいつも庭を手入れしてくれるお友達で、こちらが家事をしてくれるお友達。
で、こっちが」
「お義母さん、ちょっと待って。
この人達って?」
「あら、全員お友達よ。
ボーイフレンド、って言った方がいいかしら?」
玄関先の義母のお友達は、ボーイフレンドと言われて嬉しそうにニコニコしてる。
どの人も、私とそんなに変わらないくらいの年齢に見えるんですけど?
いや、あっちの人はひょっとしたらもっと若いかも?
私はお義母さんを驚異の目で見た。
お義母さん、なんて恐ろしい子!
近いうちに全世界から友達がやってくるかも?と、本気でそう思えた。
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タロットひいて、そこから物語を書くというのをやってました。
もともとは、タロットで前世占いでストーリーを作る事から始まりでした。
占う相手がいると話は作りやすいというのを、実感しました。
見えない相手のお話を書くのは、難しい💦
今回出たカードは、「節制」と「力」でした。