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ウサギモドキはグランプリの夢を見るか?②

前回のあらすじ

こんにちは、灯 おぴゃです。続き読みに来てくれた方はありがとう。お初の方もありがとう。前回①(https://note.com/0pya_akar1/n/n8553a39c55a6?sub_rt=share_pw)では、自己紹介と制作のさわりくらいで終わってしまいましたね。②では、「メッタ」のデザインについて、全体の流れとポイントをお話できたらと思います。長くなるので水分補給を忘れずに、早速行きましょう。


外見のイメージを固める

着ぐるみを作りたいと思ってもデザインが無ければ何も始まりません。そこで、自分が作りたいものが何か、①の記事で洗いざらい吐き出してまとめたものをお見せしました。次は本格的にキャラクターデザインを決める様子を書きたいと思います。

「被り物」をしているキャラクター

自分が仮装する行為が「他者の皮を被るキャラの皮を被る」というメタ的入れ子構造になるのを目指し、コンセプトに据えることになりました。

「頭に何か被っているキャラクター」のラフ案出し

これを描くうちに、「何か子供っぽい」というアイデアも生まれたようです。また、この段階ですでに「上下分割可能な着ぐるみ」という部分が意識されていて、ラフ案に反映されています。

ある程度固まってきた様子

画像の右側がかなりいい感じに最終的な案と近づいています。見開いたぎょろっとした目や色合いはあのうさぎの絵からですね。文章のメモと並行で描いて行っているので、①でまとめた作品のテーマについての話も書かれています。自分がなぜハロウィンをやっているのかという点も自省して要素に取り込もうとしていたようです。
「草食動物ではなく、肉食動物がモチーフ」「肉食動物なのに草食動物(うさぎ)の皮を被っている」などの部分が固まってきています。

最初期案

方向性はほぼ決まったようです

さあ、ようやく見慣れた顔ですね。まだこの時はどうやってデザインの上で「被り物」感を出そうか迷走していました。綿が出ている感じやつぎはぎの糸は、しっかり最後まで残りました。
この最初のデザインでは、黒色があまり使われていないです。でもハロウィンっぽさや「病みカワ」っぽさ、一度に買う布の量…wwなどなどを考えたら、然るべき位置に模様を追加して、そこを黒にしようかな?という考えに至りました。また、一応念のためのメッタちゃんの動物としてのモチーフ元はリカオンです。これも踏まえて、柄などを追加していきます。画像の右の余白が気になりすぎる……

ほとんど今のデザイン!

こちらが最終的に採用することになったデザインです。実際に完成した着ぐるみともかなり近いですね。このデザインを、制作する上でもキャラクターデザイン的にもさらにブラッシュアップすることになります。

ぴょこぴょこした髪ぽい部分は自分の髪型がウルフだったので、それを取りいれてみて、おでこの部分も割れたハートがモチーフです。
紫・ピンクはこれまでの仮装キャラクターで採用していない色の組み合わせなので、早い段階で決まっていて、即決。
白っぽい色は完全な白ではなく、くすみピンクを最大限薄めたみたいな色を採用しました。これは、ヴィンテージの古いテディベアなどを参考にした部分でもあり、デザイン全体の彩度と明度が上がりすぎることなくバランスがとれた差し色として機能すると思ったからです。
足元を黒にしたのは汚れが目立ちにくいからという実用的な理由もあります。腰あたりから上はピンクが多くウサギを被っていることがわかるし、そこから下は「元の」メッタのままで、被っている感を強調することにもなりました。
毒々しくてハロウィンっぽさもあり、不気味な可愛さもありというデザインに起こすことが出来たと思います。

着ぐるみにする上での検討スケッチ

ただ、これを実際に着ぐるみにできる算段はあるのか?という検討も始めなければいけません。特に、キーになる紫色のファーは国内であまり選択肢が無いように見えました(結局はすごくちょうどいいものがありました)。もし色味を妥協しなければならない場合も想定し、画像左側のように紫の色合いを試しています。
ラフがデフォルメっぽすぎて立体にできる自信がないと思ったのか、色々な顔のパターンでスケッチしたり、左右対称にしてみたり、別の着ぐるみとモチーフ元の動物をそれぞれ模写してバランスを確かめたりなど、この頃の自分がかなり困っている様子を受けます。ほら、「全然わからん、カス、ボケ、今日は終わり」と文句まで。
右下のラフを見ても分かる通り、最初は顎の可動を入れたかったですが、結局やめました。顎が動かなくても可愛い着ぐるみは可愛いので問題ありません。

ええい!3Dだ!

いくらスケッチを描いてもキャラクターを立体にしたときのイメージが掴めなくて詰んだのでblenderで軽く作って様子見することにしました。

スカルプトモードでこねこね

立体を把握するのが苦手なので、こうやって作ってみたほうが早かったです。実は去年の仮装でも3Dで確認はしていました。粘土とかでも良いですが、ソフトを利用すればゴミも出ないし手も汚れないし、可逆性があるのがいいですね。
ただ、これを3Dプリンターでどうこうという技術力もないし、確認のためだけのものになりました。でもシミュレーションできることで、最初は「ギザ歯」にしたいと思っていた歯も、3Dで確認してみると細かすぎて可愛らしくなかったので、本数を減らすことになりました。
こうして色々な媒体でデザインしたものを確認すると、思わぬ発見や変更点が出てきます。できる人はやったほうがいいですね。

細部のデザイン

立体が確認出来て安心できたので、初期案からもっと細部のデザインも詰めていきました。仕事でもうどうしようもなく暇な時間とかがあると裏紙に描いて案を出したり……(すみません)。

手の詳細スケッチ

色々な着ぐるみを見て、実際に描き出してどんな手にしたいのか具体化していきます。あんまり丸くてもちもちした手ではないのかもなあ、かといって完全に人間の手のような感じでもないし、ワンちゃんとかの指のような感じも違う。自分の中の理想との戦いです。

脚や足、全身のイメージのラフスケッチ
途中でソングライン(競走馬)の血統と交配について書かれてる……

肉球がある足が可愛いなと思って、そのスケッチをしたり、全体のバランスを見てデザインの細部を修正したりします。もうほとんど最終的な案へと固まってきているのが分かります。尻尾のつぎはぎやケモ脚のシルエットも詰めました。
細部を詰めていくことで、どんなパーツを実際に着ぐるみとして作らなければいけないかを想像することができるようになります。デザインと同時にどう構築するか、着ぐるみの構造も考えられるし、そのまま型紙へブラッシュアップもできるようになります。

そしていったん最終のfixへ!

最終案

一番最初の4面図がこれです。

誰がどう見てもメッタちゃんです

こうして「メッタ」のデザインが完成しました。
長すぎる。この最終段階へ到達するのは3月頭までかかったようです。でもゆっくりと時間をかけてブラッシュアップしたことで、自分も納得しているし、他の人に見てもらったときにも満足してもらえるデザインになったのかなと思います。
初期案のラフと見比べてみてください。手は左右で肉球のあるなしが追加されました。不安定なアシンメトリーのシルエットを強調し、ボリューム感もプラスしました。逆に制作で躓きそうな細かい目の意匠は今回のキャラクターには最終的に合わないと判断し、削りました。

ちなみに初期案とこの4面図はiPhoneのメモにも保存し、いつでも見られるようにして、制作手順を調整する際に役立てていました。

内面も固めていかないと……

さて、私は仮装をするためにキャラクターデザインから始め、自分が仮装した時もキャラクターはキャラクターであってほしいと思っている側の人間です。自分の延長線にありながら、現実に存在しないキャラクター。そこを演技や振る舞いで補強するのが好きなほうです(出来ているかは別)。着ぐるみの世界では好みが分かれるところだと思います(「中の人」が出ているのと、「キャラクター」になっているのと、どちらもそれぞれ良さがあります)。

キャラクターの外見を決めると同時に、ある程度の物語、性格をつけていれば、完成後にキャラクターがどう動くか想像しやすいです。また、物語があることでデザインをブラッシュアップするときに糧になることも多いです。

まだデザインが確定してないときのキャラクターの掘り下げラフ
方向性を探っています
どんな表情をするか分からない!

見た目をブラッシュアップする間に、キャラクターのバックボーンのアイデアもたくさん出てきました。以下はメモに書いた設定のまとめです。

〜要素整理〜
★ひとごろしをした。
★針と糸の国(仮)
★ウサギに対する憧れがある。
★友だちが欲しいと思っている。
☆お菓子は大好き

「ハロ…ハロ……(2024)」、灯おぴゃの制作のメモより

ぬいぐるみを意識したデザインなので、なぜメッタがぬいぐるみなのか、ぬいぐるみなのに生きて動いているのはなぜか、そういった部分を決める必要が出てきました。また、皮を被っている部分、肉食動物のような見た目をしているのにウサギがモチーフになっていることも、①の記事で整理した「自虐的、反省、懺悔、罪の意識」の要素と組み合わせられる部分だったので、それを踏まえてメッタの物語を作りました。

これまた長いですが、メッタの物語はここから体験できます。(ほんまに長いから飛ばしてOK)

ストーリーという虚構と、着ぐるみという現実

(注意!この項目では夢が壊れるような話をします!キャラクターをキャラクターとして見ていたい方は目次より次の大見出しまで飛ばしてください!)

メッタのストーリーは正直言ってかなり重いです。でも、ハロウィンで仮装するときは街に出て子供たちと触れ合う瞬間がある。背負ったものが重すぎて、子供たちに悪影響ではないか?設定と齟齬が生まれてしまわないか?そこも気を遣うことになります。

○展開としては、この後人に会うキャラ・子供と会うキャラ、子供の前に出す、お菓子を配るのでせめて邪悪感を無くさないといけない。

「ハロ…ハロ……(2024)」、灯おぴゃの制作のメモより

メッタのバックボーンの制作においては、私達が生きている現実世界と、メッタたちが生きていた向こう側の世界(針と糸の国)が繋がり、その境目が曖昧になるという表現と、それが鑑賞した人にどんな効果をもたらすか、みたいなところも意識して設定を構築した部分があります。
だから、着ぐるみキャラクターがそこにいるとき、そのキャラクターは物語と分離されたものではなく、キャラクターはキャラクター自身という風にできないかと思ったときに、メッタがあんまり悪い子だと色々と困るなぁ、ということになりました。どうしようもない悪い子なのに。

他者の命を奪った罪をどうカバーしたらいいんだよ

陳腐ではありますが、「後悔している、変わりたいと思っている」という性格をつけることでキャラクターの過ちをフォローし、アクティングしやすい方向性へと内面を固めていくことになりました。本当は他人をどうこうしてしまって何の悪びれもないキャラクターも大好きです。きゃは、死んじゃった!みたいな……
また、知らない世界に来て成長しようとする様子や、向こうの世界とこちら側の違いを知っていく姿はコンテンツとしても変化があり、キャラクターを楽しんでくれる人も飽きないかなと思った打算的な部分もあります。(夢がない話だったらごめん……)

そして、憧れていたウサギの姿になって、「みんなのお友だちになりたい」というメッタの願いは、作品としての世界をさらに拡張するためのコンセプトとして盛り込むことにしました。

「本当に会えちゃうキャラクター」としての着ぐるみ

以前、大学の卒業制作でも、前項で言ったような「現実とフィクションが交わるあわい」をテーマにした作品を作りました。その際も世界観・映像作品だけじゃなく、仮装作品を取りいれることで、鑑賞者のいるその場と鑑賞体験を、リアルとフィクションの狭間の曖昧なものにする狙いがありました。

カボチャ箱男のオービル・オニール団長。卒業制作展中会うことが出来た「キャラクター」です

こちらの展示中、見に来てくれた方が「パフォーマンスアートですね」と言ってくださりました。この言葉が仮装をする自分の中に残って、自分の趣味をそう捉えることもできるんだなぁ、と思ったんです。
この体験も踏まえて、「メッタ」の内面や作品としての掘り下げ、キャラクターが人に触れ合うことについて以下のようなメモが残っています。

仮装はパフォーマンスアートなのか?
触れ合いは芸術作品の鑑賞体験でもある。ハロウィンというイベント、その特有の空間における特別な思い出・体験作りという目的ではある。元々はハロウィンが好き、ハロウィンを好きになってほしいという表現のはずなので……
友だちになって何するの?という部分もあるしな……でも、友だちって普通に仲良く遊んだり喋ったりするものだから、やっぱり「喋れる」みたいなところはほしいな 遊ぶっていうのも、メッタをコンテンツとして楽しんでもらう=遊ぶ とも言えるかもしれん
双方向性あるエンターテイメントで「遊ぶ」と言えるかもしれん。子どもたちはメッタに何を求めるのか?
狙うところと言えば子供達にとっては人間ではない友だちがいるって思ってもらえること 中に人がいると分かっていながらも、それを理由に一か八かでもしものときに頼ってもらえること。

「ハロ…ハロ……(2024)」、灯おぴゃの制作のメモより

こんな感じにメッタが現実に存在する意義の深堀りをして、また自分が仮装という作品スタイル、制作をすることの意義も深堀りしちゃって、メッタのキャラクターとしての活動方針も決まっていきました。
実際は着ぐるみの界隈に所属するとその対象はどうしても子供たちよりは大人向けになってしまいましたが、リアルタイム存在エンターテインメントとしてのメッタという作品が存在する意義は変わりません。みんなのお友だちになって、心の拠り所……まで行かなくても、メッタというキャラクターが、みんながお友だちとして来れる居場所になればいいと思います。

おれとお友だちになってくれる?

長い道のりだった②はここまで

もう!!!長すぎるよ~!!ありがとうございます、ここまで長かったですね、ほんとすみません。
この記事では、「メッタ」のキャラクターデザインの制作における、見た目のデザインと、内側のデザインについてお話しました。
次は実際に身体をバリバリ動かして物を作っていく制作についてのお話になります。まだまだ読んでくださる方はどうぞよろしくお願いします。

また、繰り返しになりますが、着ぐるみ制作のことやクリエイターコンテストの話で何か教えてくれん?とか、質問とか、ただ話がしたいという人がいたら、Twitterで気軽に声をかけてください。私はツイ廃なのでいつでもTwitterにいます。リプでもDMとかでもなんでもいいよ~。note見て来ましたとか言ってくれたらいいし!

ではまたまた、次回お会いしましょう!

最初のお写真は、えきさん(https://x.com/eki3_kemono)!!
途中のお写真は、ぺんたさん(https://x.com/penpenpenta7)!!
めっちゃありがとうございます!!

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