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YA!アンソロジー エール

打順未定、ポジションは駄菓子屋前、契約は未更新/はやみねかおる

さすがのはやみね節でした。
普通の少年×天才だけどどこか欠落した少年
の組み合わせが、読み切りでも面白く描かれていて最高でした。
噛み合ってないようで噛み合ってる会話とか、声には出さない心の中でのツッコミとか、学生らしい悩みとか、はやみねさんの文体は本当に詰まることなくするする読めるのですごいです。
そしてちょっと嫌な奴だなぁ、と思いつつも嫌いになりきれないキャラクターたち。

お母さんのまっすぐな優しさは、きっと大人が見ても子どもが見ても大好きになりますね。
お前のいい所はここだろ!って素直に認めて教えてくれる友達(友達?)がいるのも素敵です。
好きな物のために必死になるっていいよねぇ。


わたしの青/濱野京子

10年前に出版されたこの本。
被災した男の子キャラが出てきて、あぁ〜となりました。
東京に住む主人公との遠距離恋愛。
東京に来た彼が、こっちはもう何もかも忘れて日常に戻ってるんだな、というような事を言った時に、私も一緒に胸が痛んだ。
遠距離っていうだけでも大変なのに、お互いの生活も環境も大きく違っていて、すれ違うのは仕方がないと思いつつ、
この2人はきちんと最後まで相手を思いやり、考え、気持ちを伝えていてすごいなと思いました。
大人は、これからの子どもたちのために踏ん張って踏ん張って頑張るから、羽ばたいていいんだよ、と言いたくなる作品でした。

きっと2人はこれから何があっても一緒にいられるんだろうな。


時限の友/石川宏千花

すごい話だった。
なんて酷い設定を…という気持ちと、これを書ききって世に出してくれてありがとうございます、という気持ち。
幼い頃からの友人が、数年に1度高熱を出して人格が死に、肉体だけはそのままで、新たな人間となって生まれ変わるという、なんとも奇妙な病気。
それを家族以外で唯一知る主人公。

彼らの死にたくない、死んで欲しくない、という思いと、何度人格が生まれ変わっても、あなたと友達になる、という2人の絆の強さというか、想いの強さが尊すぎて、見ていられなかった。
私が今感想を書いていても、薄っぺらだな、と思うくらいには、2人の世界がそこにはあって、それを覗かせてもらっていて良いのだろうか?と思うくらいには神聖で、誰も真似出来ない関係性だったのだと思う。

エール、というタイトルのアンソロジーに載せることの意味も。とにかく色んな人に読んで欲しい作品。


あたしの王子様/風野潮

夢見がち乙女の妄想が現実になっちゃった!?
夢ある素敵なお話しで楽しかったです!
アンソニーなのかアンディなのか…話がややこしくなってきた!?と思ったら…のハッピーエンドもとても良かったです。
日常が戻ってきてしまった主人公に、再びチャンス(奇跡)が舞い降りるラストも素敵!
これから2人はどうなっちゃうのー!?という少女漫画展開に期待したくなるラストでとても楽しかったです。
ほんとにこの2人の後日談どこかにありません??


リーシュコード/香坂直

重たい話だった…
中学生の世界ってほんとに狭いもので、でも当人たちからするとそこしか知らないからその場が居づらくなるとしんどいよね…という気持ちを思い出しました。
期待の強すぎる母親と、奔放に生きる兄と、親の万引きのせいで密かにはけ口にされている同級生。
どのキャラクターも、怖いくらいに人間らしくて、人生って一筋縄じゃいかんよな。と、どのキャラにも言いたくなるような境遇で、それぞれにそれぞれの考え方をもっていて、それが見られたのはとても面白かった。
面白がるような内容ではないけれど。
きっとこういったことで、ここまではいかなくとも、悩みを抱えている人間ばかりなのだろう。
それが、出会った人間によっては進む先が明るくなるのだから、人生というものは面白い。
まぁこれは物語なのだけれど。

それでも読んだ人が(この場合の読者層は学生だとは思うが)読んだ人みんながきっと、希望を見られるのではないかと思った。
創作物にはそういった役割もあるから。



たくさんの人に読んで欲しい、たくさんの若者に読んで欲しい、そう思わされるアンソロジーでした。


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