あたしを作るものたち 2
文学少女と呼ばれるには程遠いけど、学生時代にはそれなりに本を読んだ。
仲の良い友達は、小説と言っても学園モノのライトノベルだったり、BL小説しか読まない中で、ハードカバーのちゃんとした本を読んでいるのは、あたしの小さい優越感だった。
それに、小説というものとあたしとの相性も良かったんだと思う。
空想ばかりしているような子供だったあたしには、その本の世界に入り込むことも簡単だったし、家の中で手軽に楽しめる映画のような感覚で読んでいた。
そんなときに出会ったのが、乙一だった。
きっかけはやはり母で、面白いから読んでみたら?と文庫本を渡された。
タイトルは「夏と花火と私の死体」という、何となく恋愛ものではなさそうなもの。
微妙だなぁ……と思いながらも、母がすすめるのなら間違いないだろうと思い、読んでみた。
夏と花火と私の死体は、思った以上にスルスルと読めて、面白かった。
はじめて読んだミステリーだったけど、主人公が死体である少女だというのも斬新だったし、なんというか、子供特有の無邪気さや残酷さ、ぬるりとするような空気感がとても上手く書かれていていたと思う。
ラストも本当に衝撃的で、主人公の一人称ですごくのんびりと穏やかにかかれているのが逆にこわいくらいだったのを覚えている。
でも、一番驚いたのはそれを書いたのが16歳(執筆当時)の少年ということだった。
自分と幾つも変わらないような男の子が、こんな物を書いて、ちゃんと本として出している事が信じられなくて、羨ましかった。
だって、それはとても凄いことだし、やっぱりあたしもそういう『特別な何者か』になりたくてたまらなかったから。
そこからはしばらく、嫉妬と羨望とワクワクが詰まったような気持ちを持ちながら乙一を読み漁った。
たぶん、GOTH位まではほぼ全部読んだんじゃないかと思う。
もちろん、山田詠美の例に漏れず、今ではタイトルをぼんやり覚えているくらいのものがほとんどだけれども、間違いなく乙一もあたしを形作ったもののうちの1つではある。
そして、最後に当時のあたしにはとてもとても衝撃の事実だった事を1つ。
乙一が書く小説は、ライトノベルだった。
おわり。