絵本の裏側 2
絵本をかこうと決めました。締め切りも目標も決めました。
さて、どんな絵本にしよう?
生き物が好きだ
私は脱サラをして、沖縄に移り住んでいました。
とてもざっくり言うと、生き物が大事、ということが理由でした。
サラリーマン時代は満員電車に乗り、コンクリートのまちの中をせかせか動き回っていました。生き物のことなんてこれっぽっちも気にしないで、毎日が過ぎていきました。
脱サラしてがらりと変わりました。
海に手足を浸したり、砂浜をほじくったり、岩場でじっとしたり。いくらでも生き物と戯れられる生活になりました。
生き物が大事という気持ちが、どんどんよみがえっていきました。
絵本をかくなら生き物のこと。漠然とそう思っていました。
もうひとつ大事なもの
もうひとつ、大事なものがありました。
一緒に引越してきたクルマです。
多少古くて派手な色をしていたため、スーパーやガソリンスタンド、挙句は信号待ちで、話しかけられることがありました。
たいていはクルマ好きなおじさんでした。私は喜んで話をしました。
新しい土地で日常の足となり顔となり、ますますそのクルマが好きになっていきました。
はなればなれ
ある朝のこと。クルマのエンジンがかかりません。おかしい。
診てもらうとセルモーターが寿命を迎えていました。
クルマ屋さんに交換してもらい、あっという間に修理完了です。
ところが。
交換したモーターが不良品で、クルマ屋さんにとんぼ返りすることになりました。クルマ屋さんと部品屋さんの交渉が始まります。
代車は、いわゆる今どきのクルマでした。とても快適で、はじめの一週間はラッキーとさえ思っていました。
しかし交渉が難航し、結局1ヶ月以上もクルマと離れ離れになったのでした。
きちんとしたモーターさえ手に入れば、クルマは直る。頭では理解しているのに、なぜか心は焦ります。
このまま一生返ってこなかったらどうしよう。
クルマへの気持ちを自覚して、うろたえた自分がいました。
そんなにクルマが大事なのか。
でも待てよ。だったらいっそクルマの絵本をかいてみようか。
気持ちが褪せてしまう前に。急いで針路変更を決めたのでした。
処女作
そして第一作目。『わたしのくるま』。
クルマと共に引越しをしてからの数ヶ月を、そのまま絵本にしました。
クルマのおかげで新しい土地になじんでいった私は、ある時からクルマとは何か、自分自身へ問いかけます。
ストーリーは決まっていても、いざ書いてみると思うように進みません。
画材に悩み、人間がかけなくて悩み、ページの帳尻あわせに悩む...
約3ヶ月後ようやく完成を迎えました。というか、応募の期限がやって来ました。
形にすることで自分の記念にはなったけれど、わざわざ人に見せるようなものだろうか。初の作品は、苦悩の形跡がくっきりと浮き彫りになっていました。
記念すべき処女作は、そっとお蔵に仕舞われました。
その後、この処女作は少しだけ日の目を見る日がやってきます。
それはまた別の機会に。