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絵本の裏側 13
ぷこぷこぷこ…
あれれ、お水がやってきた。
ここは、
生き物と戯れているうちにすっかり時間が経っていたようです。
顔を上げると、なんと、すぐ近くまでお水がやってきています。
男の子はピンときます。
そうか ここは うみなんだ。
ぷこぷこぷこ。
にぎやかな音をたてながら。
こぽこぽこぽこぽ。
アッという間に浅い海が広がっていきます。
ここは、海の底になるのです。
ゆるい、境目
さっきまで、ミナミコメツキガ二が大量に歩いていた場所には、水が張り、浅い海をフグが進んでいきます。
地面を這っていた巻貝たちは、いつの間にか見当たらなくなり、どこからともなく現れたガザミの仲間がスイスイ泳いでいます。
ここは干潟と呼ばれる場所。
砂地になったり海になったりを、毎日二回ずつ繰り返している場所。
地図の上での「海岸線」は、潮が満ちている時の陸と海の境目を言います。なので、潮が引いた時に現れる干潟はもちろん、男の子がさっきまで探検していた不思議な森も、地図の上では全部海の中だったのです。
でも実際の境界線は、いつもゆらゆら動いています。
あっちへこっちへ。
ほんの何歩歩くだけで境界線を簡単にまたげるなんて、何だかすごい気がしませんか?
きっとあちこちにあると思います。
便宜上、きっちり「線」が引かれているけれど、ほんとうは曖昧な境目。
表向きの境目に翻弄されないで、ホイホイ気軽に跨いでいけたら、なんだか素敵と思います。
ここではいくらでも、その練習ができてしまいます。
陸へもどろう
さあ、本格的に海水が満ちてきた。
海に取り残される前に、そろそろ元来た道を戻ろうかな。
男の子は、ちゃぷちゃぷ歩き出します。
不思議な森の入り口まで来て、ふと、後ろを振り返ります。
さっきまでいた砂地が全部お水で覆われています。
ずっと見ていた景色を、もう一度目を凝らして見てみよう。
遠くに見える陸地に紛れて、手前にくっきり見える小山がいくつか。
実はこの海に浮かぶ無人島なのでした。
この場所の、すごい秘密を知っちゃった。
きらきらした水面を目に焼きつけて、男の子は不思議な森へと入っていきます。
〈本編 P.19-20〉
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