劇団ウィルパワー 第21回公演 オムニバス企画『雨音協奏曲』

2024年 1月 27日(土)
秋田市旧松倉家住宅
18:30~20:00頃


『箱の中の海』

 開演から泣いた.一度稽古を見学させていただいたとき,あみさんが貝になって出てきたらどうか?という案が出て爆笑していたのを覚えていて,あの時は貝を背負って見せるあみさんに笑っていたが,当日壇上にいたのは綺麗な人魚だった.海のようになびく布を被った顔の見えない人魚が出てきたとき,とても幻想的で,綺麗で,ぽろぽろ泣いてしまっていた.
ぽろっと出たり,冗談のような感じでその場で出ていたりした案がこうなるのか!といきなり感動してしまったし、海野がベンチの上,人魚がその傍らに行くことでバスタブに見立てた高低差やなびく布によって文化創造館で見た時よりも一層海野の部屋とカフェテリアと海の中がはっきり分かれて見えてすごかった.演出ってすげえ……演出ってなんて大事なんだ……と改めて身に染みて分かった.
 創造館のときは海野と川元が女性,山根が男性で,今回はその逆だったが,ほんとに性別や演じる方でこんなに変わるんだなあと思った.特に海野は人魚に対する想いが全然違ったように感じた.創造館の時の鎭西さんの海野では,タブレットに映る人魚を見る目や「ハンバーガー」と口を動かすときの仕草が,なんとなく子どもを前にしているみたいだなと思った.赤ちゃんとかがこちらの動きを真似するのを見て微笑んでる感じというか……?対する今回の工藤さんの海野では,ちゃんと研究対象として色々考察しているものの,好奇心&異性に対する好きじゃん!だった.タブレットを見せて人魚の全貌を動画で確認してるとき,川元が単純に生物学な感じで色々喋っていくのに海野がむちゃくちゃ動揺するのとか,「オスかメスかは分からん」といいつつ女の子として見てんちゃ~ん!?と言いたくなるような動揺っぷりで良かった.だから,家に連れ帰っちゃった海野に対して抱く感情が私的には全然違った.ヤバくて他人に知られるわけにはいけないが,それはそうと色々探ってみたい,を共有している感じがして本人たちのそわそわが伝わってくるようだった.(一方で前回の海野には人魚を保護したんだみたいな感覚があった)
 回想も海野と川元のやり取りが同期で仲いいんだなぁをより感じられたし,二人とも本当に海洋研究オタクなんだなぁと思った.あとこの時の人魚の表現がかなり好きで,表情は分からないけどゆらゆらと布をひらめかせながら動いているのに見惚れてたら「おぬしをぱくっと食べた!」のところでガバっと腕を広げて口を拭ったのが超良すぎて,綺麗なだけじゃなくて怖いかもしれないという摩訶不思議生物感が伝わってきてマジで海洋研に入りそうになった.
 そして大学4年になってから観たら,川元と山根の会話にグッと来てしまった.「一緒に胴長を着て生簀のそばで寝泊まりしても,俺は海野になれないんだって」,「~~私は何か特別な発見をして論文にまとめて,親を安心させないと……」こんなの泣く.何とかこらえられた.分かるとしか言いようがないし,首がもぎれるくらい二人に同意したい.カフェテリアで近くの席に座ってこの会話が耳に入ってきてたら泣きながら飯を食うだろう.あと会話中の川元がほんとに優しいOBすぎてそりゃ山根さん本音喋って泣いちゃうよ!だった.生簀のそばで一緒に寝泊まりしてたのに海野と違い現実を見て就職したため,研究バカだったんですよね?と聞かれたら「いやいやいや」と言ってしまう川元先輩……クソデカ感情を抱く寸前である.
 また,山根と海野の関係性も創造館の時とまた違っていた気がする.創造館の時の山根は海野と対する時や川元に事情を話す時,マジで厄介な先輩だけど放っておけないから手を貸すしかない,僕は必死なんだぞ……という感じがしていたのが,今回はその必死さが海野先輩の手を離すもんですか!私が手を貸さないとダメなんですから!という感じでむちゃくちゃ可愛い後輩だった.それが海野とのやり取りにもいっぱい出ていて,海野~~~~!!!あんた気づき~~~~!!!生簀だけを見てるんじゃあないよ~~~!!とお節介お母さんみたいな気持ちになった.「それはさぁ.愛じゃん?」川元~~~!!分かってんね~~~!!!!!!!
 人魚を見た山根の反応は今回のほうが返って緊張感があったと思う.前回の山根だけが物事の重大さに気づいていて,これは人です,あなたたちのその研究対象としか見てない反応はおかしいんじゃないですかとハッキリ言い切る言い方も好きだったけど,今回のようなえ?でも人間ですよね?なんでそんな扱いしてるんですか?くらい本気で疑問に思って真っ直ぐに言われたほうがこれ,とんでもないんだ……とたじろいでしまうと思う.
 そしてこのあとの海野と山根がもう本当に,もう……語彙力が消し飛ぶくらい良くて頭を抱えてしまった.山根は海野への(やきもちっぽかった)感情大爆発だし,海野は海野で「人間扱いなんてしてない」と自分に言い聞かせるように言っていたのに「好きで悪いかぁ!」と大爆発していてあなたたち~~~!!!!!だった.あんなに可愛いばーか!は知らないし,海野は海野でもう好きな子の好きなところを喋ってるようで良~!となった.さんざん言い合って(ここもまためっちゃ良いんです.笹森さんのブログを見てまた頭を抱えました.)最後には人魚とコミュニケーション取りに行きましょ,なんてさらっと元に戻り,人魚の生態に関する仮定をぽんぽん出し合う2人の関係性,良すぎる.応援せざるを得ない.これじゃもう感想というよりただのオタクだ.そんなオタクはいったん押し込んで真面目に考えると,「海洋研が海なし県で何するんだよ?~~」「何もできなくなるんです.やめるんです.~~」は海野に絶対突き刺さっていたし,私にもぶっ刺さっていた.どんな理由でも,好きなことを全部そこに置いていかなきゃ(気持ちが強いほど置くより捨てるに近い気がする)いけない状況ほどつらいものはない.だったらやり続けていいと言われるように,思えるように頑張るしかないんだろう……とか考えてしまってくぅ~~となった.
 カフェテリアが海になっていくところで泣いてしまったのは海野が「...…来る,あれが来る」と怯えだしたところからだ.私には海野の声音が完全に当時の年齢に戻ったように聞こえていた.そこで何故かぶわっと来てしまった.そこから海に取り込まれ,布をまとって揺れる川元と山根の綺麗さと押し寄せる怒涛の展開でぼろぼろ泣いて,最後に人魚がいなくなってるだろうなという海野の気持ちにめちゃくちゃ感情移入して泣いた.
 最後の嵐の後の静けさ的な空気感の3人の会話も大好き,本当にみんないそうで大好き,もう本当にこの作品が大好き,ずっと3人のことを考えていたい,しばらくそれで嫌なことも乗り越えていける,生きていく上で支えになるドラマや小説を見つけた時と全く同じ感覚を初めて演劇で味わった.何度でも見たい.何度でも思い出したい.待って!手元に台本がある!やった~~~~!!!!

『貧血鎮魂歌』

 これまた大好きなコントと演劇の境が薄い感じで,さらにコメディなのにバッドエンド確定のホラーなのでめちゃくちゃ良かった.というかまず,『箱の中の海』でベンチだったものが棺桶になって声が出そうだった.アイデアがすごすぎる.あれでも開かなくないか?と思ったらさっきまでベンチになっていたのと反対側が開いて,そっ!?すげえ~~!!となった.
 真珠さんの月世がすごすぎた.もう真珠さんによる真珠さんのための月世かと思った.台本の中の世界から月世が出てきちゃっている.立ち姿も表情も声の出方もきびきびとした動きも全部が完璧に月世で,笑えるのにすこぶる怖い.あれで急に首がぐんって動いて目があったりしてたら確実にひッて言ってた.話は噛み合わないし急に笑うし怒ってると思ったら嬉しそうに主人の話をするし急に色々測りだすしどう考えても吸血鬼だし逃げ道ないしすでに1人死人が出ていて詰みが確定しているのに絶対に逃げ出せないのがとっても良かった.こういう中で進んでいくお話が大好きです.
 月世が吸血鬼である証拠がどんどこ出てきて編田が自分の置かれている状況がやばいことを確信していくところとか,唯一の救いだけど実際には救われない優志井とのターンに面白いゾクゾクを感じてこういうのが欲しかったんだ……!最高!となった.
 最後の優志井にああ……捕まっちゃった……いつちゃんと気づくのかな……と思ってたので,棺桶の中からスマホが鳴ると思ってなくて一緒にビクッてなった.そして背後に立つ月世.上手の端っこのほうにいたので最後の顔を見逃してしまった.絶対怖かった……見たかった~!!!!
 あと些細なことかもしれないが,表現の仕方で良いな,すごいなと思ったのが,優志井が秋田について雪に足が埋もれて冷たがるシーンだった.片足を壇上から落とすだけで一気にそこがあのなんか除雪とかの影響で意味分かんない積もり方してる見知った雪道に見えて,らん子さんのようにステージの高低差まで使える人になりたいと思った.表現といえば,『箱の中の海』で川元がハンバーガーを買いに行くところで笹森さんがはけた後に会計の動作をやっているのもはっとした.多分あれは上手側からしか見えないはずで,でもそっか,はけてんじゃなくて買いに行ってんだと思って,気を抜かない姿にかっこいいなと思ったし,言い方難しいけど舞台に立って演技をやってるんじゃなくて作品の中に入り込んでるんだよなって思った.(ドラマや映画と一緒だ的な)

『雨音協奏曲』

 観終わった後,とにかくパートナーとか大事な人がいたら真っ先にその人の元へ行き,手を繋いで今日のことを話したくなるようなお話だった.本人たちとその強気と弱気がぞろぞろと出てきて,色んな役に変化しながら織りなす自己紹介がかなりコミカルだったので結構コメディなのかも!と思っていたが,終演後しばらく泣くことになっていた.
 伊藤さんの最近観た劇でのイメージが,ヒーローショーのヒーロー役やオラオラのヤクザだったのであんなにしょも……っとした奥歯無しの40代が出てくると思わなくて,長年やられている役者さんってほんとにすげえ……意外もう出てこなかった.
 小桃もまた本当にいそうというか,絶対に同じ状況の人がいると思う.どちらも強気のほうが絶対に表に出てこない強がりのような気がして可愛い.
 最初の部屋のシーンが気まずすぎる.見ていてもう,ああもう!つらい!なんかテレビとか点けて!みたいな気持ちになったのに,これが終盤にかけてすごく心地の良い空気になっていくからすごい.
 初デートが肩出しドレスでファミレスの時点で顔を覆ってしまう.どうしても小桃の方に感情移入してしまうので,なんでぇ……!水野さん……!という気持ちになる.さらに財布がないときたのでリアルにおでこにしわが寄った.おごるおごらないとかの話ではない.強みず「謝るな!胸を張れ!堂々としていろ!」やかましいわ!
 脳内が見えているだけで人間ってこんなに面白いのか.強みず「終わってねえ……終わってねえぞ……」も大好き.逆にすげえな,そう思うには状況が絶望的すぎるよ.
 ここからの小桃の表では出してないけど強気と弱気が交互にやんややんや言ってる感じがもう分かりすぎて笑ってしまった.気になってる人がちょっと抜けてたり,それによって恥ずかしい気持ちになってたりしたら確かにそうなる.「店で気づいたんだから,店で待たせろっての」「なんか話せよ,待たせてすみませんとかぁ?」「私は2592円の女ってこと?」と,いろんな思いがぐちゃぐちゃになって爆発しそうなときに水野からタオルを差し出されたところで不覚にもめちゃくちゃキュンと来てしまった.ここまで水野の強気と弱気がほとんど顔を見せなかったので(気まずすぎるホテル名の連呼),水野が何を考えているのか私も分からず,ただただ小桃たちとそうだよね,そうだよね……となるしかできなかったので,雨に濡れた足を気にしているところを水野は見ていたのか……!と思ってそれはもうキュンとした.全部取り返したとさえ思った.水野さん,終わってねえ.終わってねかったな.ここで「次会うとき返します」という小桃がすごく可愛かった.
 回想が終わると,会話してないことや状況は何ら変わっていないのに気まず!って思ってた2人の部屋の中の空気がもどかしいけど良い感じに思えるようになっていて,ニコォ~(満面の笑み)となった.布団を近づけようとするのも可愛い.ここで飛び出た小桃の「真ん中はお化けがでるので」が可愛すぎて声出るかと思った.30代が言っているというのがまた可愛すぎる.子どもの頃からずっと思ってるのかなと思って私の中の強気が可愛い~~~!!!!と叫んでいた.いつもの調子で水野が「真ん中,無いです」と言っているのも良かった.こうなってくるともう40代だとか30代だとか関係ない.2人の間が愛おしすぎる.逆に離しますか?って提案されたらえ?って言っちゃう小桃が好きだ.そんで結局ほとんど変わらない位置に落ち着いているのもまた愛おしい.ま~たただのオタクになってしまう.
 そばに行くか行かないかでまたやんややんやとやる強気と弱気も全部愛おしい.まるっと抱きしめたすぎる.
 強気と弱気が心音となり,水野と小桃だけで言葉少なにやり取りを交わし始めるところから暖かい空間が広がっていた.会話が始まって,それから水野が口下手だけど小桃を大事に思っていて,ちゃんと手順を踏みたいと話し始める.今台本を読んでも泣きそうになるというか泣いてしまう.結婚式ではしゃぐのなんてもう愛おしさの天元突破で見ているこっちがどうにかなっちゃいそうだった.「ゆっくりいきませんか.一緒に.」素敵な言葉すぎる.水野から想いを聞いた小桃のほうがこれを言うのもなんだかすごくいい.手を繋いでまた笑い合い,その周りで2人の強気と弱気同士が踊っている.やばい,思い返してこんなに幸せを感じるシーンはない.本当に良かった.

2本目はホラーではあるが,3作品を通してずっと優しい世界だった.本当にどうしようもなく救いがなくてとか,マジで許せない極悪人がいるとかじゃないので,観終わった後にただただ柔らかく優しい気持ちになれて,しばらく余韻に浸って座っていたいような感じだった.1週間経った今でもずっと作品が寄り添ってくれていて救われている.私は鎭西さんの脚本とその中に生きる人たちと,それを形にする劇団ウィルパワーの皆さんや役者さん方がめちゃくちゃ好きなんだと気づくことができた.次回の公演が今からすでに楽しみでワクワクしている.
改めて,素敵な公演をありがとうございました!

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